第12話 和也side漆原健斗という男

漆原が相部屋のドアを開けて夕食へ出ていったのを見送ると、俺は大きく息を吐き出した。


なるべく煽られないように頑張ったけれど…、中々どうしてケンケンのキスは色っぽかったし、あそこも反応してしまった。


多分俺はモテる方だ。男でも女でも俺の関心を惹こうと寄ってくる。

中学の時は俺絡みで女同士の諍いが絶えなくて、嫌気が差した俺はそれもあってここ全寮制男子高校へと進学を決めた。


まぁここでは諍いは無いけれど、男からの誘いがそこそこあるのが予想外だったけど。最初は性欲と好奇心で来る者拒まずだったが、男も女と同じ一面があって、面倒な奴は面倒だった。だから自然、性欲解消だけで割り切ってるトモの様な相手とだけ関係するようになった。


まぁあいつはちょっとイカれ気味だけどね。 


トモから佐藤裕が漆原健斗をターゲットにしたと聞いた時、正直モヤモヤしたのは本当だ。同室のあいつは普段空気のような感じで、居ても気にならない。むしろどこに居るのかと気になるくらいだ。


俺にも関心がないのかチラッと見る事もあるけど、基本無視されてる。

俺は人を無視することはあるけど、無視される事はあまり無いので何となく面白くない。時々学校で佐藤やクラスメイトにニコニコ笑って話をしてるのを見ると、随分違う態度だなと苦笑するしかなかった。


そんな時、佐藤が漆原健斗のキスが凄いと学校で話したから大変な騒ぎになった。


一年の頃から超絶塩対応の漆原は神秘のベールに包まれてたと言っていい。

それがニ年になって、急に人間味を見せ始め、その上キスが上手いとなれば話題にならない方が無理だ。佐藤はどうやったのか漆原とキスに持ち込んだ様で、さすがは策略家肉食系代表と言える。


学校のあいつは物腰が柔らかいだけで、ホント肉食極めてるからな。


しかも佐藤は漆原にキスのレクチャーとして口づけてもらったらしい。

その話からリスト化にまで話が進んだのはまぁ、この娯楽の少ない学校の自然の摂理だろうな。しかも佐藤は漆原自身にリストの中から三人だけキスレクチャーするという約束を取り付けたとか。


ホント、あいつの手腕凄すぎ。どうやって、漆原の様に手強いタイプを丸め込んだのか今度教えてもらわなくては。


なんて思いながら部屋に帰ると、困り顔でリストから選べないと俺に泣きついてきた漆原がいた。いつもは俺を空気の様に扱うくせに、急に懐いてくる猫みたいな漆原が可愛く思えたのは内緒だ。


俺は自分でも面倒な目に遭ったことを思い出して、適当にいなせる奴を三人ピックアップしてやった。自分でも何でコイツに一々親切心を出すのか不思議だった。


俺たちの空気が変わったのは漆原が邪気のない顔でお礼をと言ったせいなのか、俺の邪な心がそうさせたのか。


気がつけば俺は漆原を引き寄せてキスのレクチャーを強請っていたんだ。

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