第91話 王女と逆鱗


帝国と王国の会談が始まって1時間が経過した。


まず初めに皇帝からの書状をエドワードが確認した後、大臣達と話し合いをした結果、無事に両国の和睦が成立した。

和睦の条件として、まさか皇帝が自らの退位を出してくるとは思っていなかった王国サイドの何人かは驚愕の表情を浮かべ、エドワードは狂言の可能性を問いていたのだが、メリッサさんがエドワード達に対して皇帝の性格上、一度決めた事を反故にする事は無いと言ってエドワード達を納得させ、無事に和睦を成立する事が出来た。


因みに何故メリッサさんが会談に参加しているのかと言うと、帝国側メンバーの中にいる鎧を纏っている厳つい男が実はメリッサさんの弟子兼元部下だったらしく、それを知ったエドワードがメリッサさんに会談に立ち会って欲しいと頼んだ様で、メリッサさんの方も二つ返事で了承したらしい。


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「ふわぁ〜あ…………暇だ」


馬車の中で気配を消しながら会談を盗み聞きしている俺は、手作りコーラ(提供、Dr.〇tone)を片手に、作り置きしているポテチ(コンソメ)をつまみながら余りの退屈さにそう呟いた。


「こんな事ならコートと〈偽装魔法〉を使って会談に参加すれば良かったかなぁ〜」


〈偽装魔法〉には、コートでは偽装することが出来ない匂いや魔力なども偽装できるので、この2つを掛け合わせれば、全くの別人になり変わることが出来る。


「……まぁいいや、ずっと料理一筋の俺が参加したってどうせ聞いてるだけのお飾りになるだけだろうし、かと言って護衛として参加したとしてもそれじゃあつまらないもんなぁ〜」


政治に無頓着な俺が会談に参加した場合、返って場を荒らす事になる可能性がある。

まぁそれはそれで面白いが、そうなればエドワードに苦労をかける事になるのでここは大人しく見守る事にした俺って、マジ有能じゃない? 《それは絶対に無い! それにお前、厄介事に巻き込まれない為にわざわざ気配を消して盗み聞きしてるんだろうが!》と言う声がどこからか聞こえてきた様な?………気のせいだよね?




そんな事を思っていると、いつの間にか会談が結構進んでいた。既に賠償金や蕃国に関してなどの細かな話し合いが終わり、いよいよ会談の目玉である人質交換となった。 

今回、王国側からは第三皇子のライナー・フォン・ヴェルダンが、帝国側からは第二王女であるティリス・アル・ソラリアが交換対象になる。


「早く終わんないかなぁ〜」


2袋目のポテチ(のり塩)を食べ終わり、自家製のスペシャルパフェ(アイス3種、ガトーショコラ、ホイップクリームなど)を食べながら俺は愚痴をこぼす。(塩っぱい物の後は甘い物が食べたくなるよね!)


会談も、初めのうちは物珍しさから楽しめたが、段々と興味が薄れていき今では正直言って飽きてきた。許されるなら今すぐにメリッサさんを連れて帝都へと向かいたい所だ。王国の代表がエドワードじゃなかったら間違い無くそうしている自信がある。逆に裏を返せば、それだけ俺がエドワードのことを気に入ってると言う事だ。


「まっ、俺もなんだかんだ言ってエドワードの事をだと思ってるってことなんだよなぁ…」


会談場の方へと視線を向けながら俺はそう呟いた。



■■■■■■



しばらくして、会談場に人質の二人が連れて来られた。ライナーの方は、捕虜としてはそれなりに悪くない待遇だったようで、見た感じ割と清潔な印象を受けるが、その表情は青ざめていてまるで生気を感じられない死人の様だった。それもそうだ、なんせ皇子が他国の捕虜になっただけでも問題なのに、帝国の様な実力主義の国の皇子が捕虜となった時点で彼に待っているのは粛清か、運が良くても軟禁か廃嫡のどちらかだろう。 


対する第二王女の方は全体的に痩せていて、顔色もよろしく無い。エドワードの話では、第二王女はエドワードの母であるミーナさんにそっくりらしく、ソラリアの宝石姫と言う通り名が付くほどの美少女だったらしいが、正直言って今の彼女とかけ離れている。と言うかこれは酷い。地球なら間違いなく国際法に引っ掛かるレベルで酷い! 見た目は化粧や魔法で取り繕っているが俺の「鑑定眼」によると、彼女は栄養失調を始め、視力低下や筋力低下のせいで一人で歩行する事さえ困難な状態だった。さらに精神状態もかなり悪く、日本なら間違い無く精神病棟行き待ったなし状態だ。何故こんな状態になってしまったのか気になった俺は、その原因を探る為に彼女へ「鑑定眼」の上位である「天心眼」を使い彼女に一体何が起こったのか調べ、盛大に顔を顰めた。


「ちっ……胸糞悪りぃ。あり得ねぇだろこんなの……」


国王から、第二王女は帝国へ短期留学に赴いた時、帝国の有力者と問題を起こてしまい帰国する事が出来ず軟禁されていたと聞いていだが、俺が「天心眼」で調べた結果、彼女が尋問と称して暴力を振るわれ、時には不特定多数の慰め物にされていた事が分かった。


本当なら今すぐにでも駆け寄って【回復】と【再生】を使い助けてあげたい所だが、俺は歯を噛み締めながらグッと我慢する。ここで俺が出ていけば間違い無く問題になり、下手をすれば『死神』と闘う事になるかも知れないし、王国と帝国で即戦争になる可能性だってある。


だから俺は、この怒りを胸の奥深くに仕舞い込んだ。


けれど怒りが収まった訳では無い。


俺は「天心眼」で彼女にこんな酷い仕打ちをした奴らを把握したので、メリッサさんを帝都に送り届けたら、彼女の代わりに奴らへ報いを受けさせると誓った。それも生半可な報いではなく、徹底的に絶望を与えてから生まれてきた事を後悔させてやると……




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スキル説明


「鑑定眼」––––視認した人、物などを鑑定して情報を知る事が出来る。



「天心眼」––––「鑑定眼」と「千里眼」の上位互換。鑑定では分からない深層心理に刻まれた記憶まで知ることが出来る。その際、当事者の記憶をまるで映画をみてるような感覚になる。

デメリットとして、「千里眼」よりも範囲が狭く、「鑑定眼」よりも調べるのに時間がかかる。読み取る記憶の量や古さによって、たくさん魔力を消費する。

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