第90話 うわちゃあ〜



王都から馬車で出発してから半日、予定よりも早く帝国との国境へ着きそうなので、エドワードの提案により一度休憩を挟む事になった。


「ん〜〜ん!やっぱり幾ら快適でも慣れない分、体が変に凝るなぁ〜」


俺が背伸びをしながら体をほぐしていると、エドワードが近づいて来た。


「やあケイタ。はじめての魔導馬車の旅はどうだい……って、その様子だと聞くだけ野暮だったかな?」


「お疲れエドワード。ご覧の通り、たった半日で体バッキバッキだ。正直言ってキツイ……」


「あはは、しょうがないよケイタ。こればっかりは慣れるまでの辛抱だね。それに、国境まではあと2時間くらいだから頑張って!」


爽やかな笑みを浮かべるエドワードに、俺は苦笑いを浮かべながら、


「分かってるよ。それより、ずっと先頭を走ってたエドワードは大丈夫なのか?」


「これくらい問題ないよケイタ。騎士団に入った頃は訓練で何日も馬に乗って行軍してたし、戦争の時はずっと馬に乗って最前線で戦ってたからね!」


俺の質問に対してエドワードは割とキツめな話を爽やか笑顔で話す。その姿を見て俺は、コイツはなんでこんなにイケメンなんだ?と思いながら再び苦笑いを浮かべた。


「そ、そうか、流石は『剣聖』だな」


「そんな事ないよケイタ。僕よりも強い人はこの世界に何人もいるし、これからケイタが向かう帝国には先先代の『剣聖』をはじめ、僕と同じく〈四星帝王〉の一人である『葬槍』や当代最高の暗殺者と言われる『死神』もいるし、そんな一騎当千の配下を武力で支配している歴代最強と呼び声高い皇帝もいるから、くれぐれも気をつけてね」


「心配してくれてありがとうエドワード。まぁ、俺の仕事はメリッサさんを帝都まで送る事だからそんなヤバそうな奴らと戦う事はないと思うけど気をつけるよ」


「……そうだね」


どこか心配そうな表情をするエドワードに対して俺は、


「うわちゃあ〜!!」


「わぁっ!! ちょっとケイタ、いきなりなにするんだよ!?」


俺が荒っぽくエドワードの頭を撫でると、エドワードが驚きのあまり大声をあげる。


「いやぁ〜、なんかエドワードが柄にもなく暗い表情してからつい……」


「全くケイタは……次同じことしたら、今度は聖剣を抜くからね!」


そう言って腰に差してある聖剣に手をかけるエドワードの目はマジだった。


これはヤバいと思った俺は、軽く頭を下げながら、


「ごめん」


と言って謝った。


それからエドワードと軽く雑談を交わしていると、部下の一人がやって来てエドワードを連れて護送馬車へと向かって行った。この護送馬車には、捕虜にした帝国第三皇子である「ライナー・フォン・ヴェルダン」が収容されている。俺はその事を思い出しながらふと疑問を抱いた。


「そう言えば、あの馬鹿皇子もハーフエルフだった気がするけどメリッサさんと同じ母親なんかなぁ? 機会があったら今度メリッサさんに聞いてみよーっと」


おそらく聞く事はないだろうと思いながらもそう呟いた。



■■■■■■■


休憩から出発しておよそ2時間が経った。


俺達は現在、帝国との国境付近にあるヘデール平原へと到着した。ここは少し前にアザゼルが帝国軍3万と激突した場所であり、王国と帝国を繋ぐ唯一の街道が存在する場所なので、ここで捕虜であるライナーと人質である第二王女の交換が行われる。


俺達が平原に到着すると、すでに平原のど真ん中で陣を張っている帝国軍から数隊の騎馬が向かって来た。


「ソラリア王国の方々ですね。どうぞ、我々が会談場へご案内致しますので、ついて来て下さい」


「ああ、感謝するよ」


そう言ってエドワードが合図をすると、停まっていた馬車が一斉に動き出した。



会談場はちょうど帝国と王国の国境を挟んだ中間地点にあり、帝国側には既に数人の文官風な男達と豪華な鎧を身に纏った厳つい男が座っていた。更にはその後ろに何人もの騎士達が立っていて、明らかにこちらを牽制する意図が見え見えだった。


(うーわ、流石武力で成り立ってる国は考えることがちげーわ! どこの修羅の国だよ…………ん?)


俺が馬車の中から周囲を見渡していると、執事服を着た30代の男性に目が行った。どうやら俺はアザゼルのせいか、執事服を着ている人に対して警戒心が働くようだ。


執事服を着ている男性の事が気になった俺は、その男性に【鑑定】をかける。すると、見事に俺の直感が当たった。



名前  ドラクル

種族  人間

年齢  38

レベル 70

職業 暗殺者

役職 ヴェルダン帝国 諜報部『影』隊長

     

装備 


武器

魔剣 グラム


ステータス

攻撃:8500

防御:7200

魔力:7650

魔防:7300

速さ:11500


スキル

暗殺術 無音術 高速移動 陰魔法 短剣術

礼儀作法 痛覚耐性 熱耐性 毒耐性 

ストレス耐性 など


称号

死神 6騎将 諜報部『影』隊長 暗殺者

処刑人 執事 2代目死神執事デスバトラー など



(う〜〜わ!……まさか噂の6騎将の1人が待ち構えてるなんて予想外だわ。つーか、2代目って事はもしかして、テッサリアの街にいたグラスさんの弟子ってこと? やべぇ、絶対に問題が起きる気しかしねー)


メリッサさんやムサシの件で学んだ俺は、


(まぁいいや、俺の仕事は護衛であって会談はエドワード達の仕事だから、とりあえずこのまま馬車の中にいよう)


そのまま馬車の中で気配を消しながら〈聴覚強化〉の魔法と【気配感知】を使って会談を見守る事にした。


頑張れ、エドワード!!



■■■■■■


会談の席に座るソラリア王国の面々は、団長であるエドワードを筆頭に、外務大臣とその補佐、法務大臣副官、そしてメリッサの5人と、その後ろにエドワードの部下である騎士団の精鋭が立ち並ぶ形となっている。


全員が座り終わり、執事服を着た死神ドラクルが人数分の紅茶を配り終わると、ヴェルダン帝国側の文官が立ち上がり司会進行を始める。


「それではこれより、ヴェルダン帝国とソラリア王国の会談を始めさせて頂きたいと思います。進行は私、ヴェルダン帝国宰相補佐のマーリッチ・バッケンが務めさせて頂きたいと思います。それではまず、この度、ソラリア王国にて起こりました件に置かれまして、皇帝陛下より書状を預かっておりますのでどうぞご確認ください」


そう言ってマーリッチは懐から書状を取り出すと、書状を執事の一人に預けてエドワードへと渡す。


「拝見致します」


書状を受け取ったエドワードは、ゆっくりと書状の入っている封筒を開けて読みはじめた。



–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


いよいよ会談がスタートします。

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