間話 剣聖の答えと足りないもの

第84話 選択


父親の敵か母親の解呪


選べるのはどちらか一つだけ……


まさに、二者択一。


言葉にするだけなら簡単だが、エドワードにとってはどちらかを選ぶなんて不可能だろう。


だが選ばなければならない。


人は弱い生き物だ。もしここで、俺が父親の敵であるサマエルを召喚し、エドワードに復讐をさせた後、母親の呪いを解呪したとしよう。すると、ずっと復讐と母親の解呪の為に己を磨いてきたエドワードの目的が同時に無くなってしまうと言う事だ。そうなればエドワードはもう、今よりも強くなる事は無いだろう。いや、今でも充分に強いんだけどね!それでも、目標を達成した人が満足感や虚無感から堕落して行った料理人を俺は何人も見てきた。


一流と呼ばれる人間に終わりは無い。


これは、俺が今まで見てきた三つ星シェフやプロスポーツ選手などの一流と呼ばれる人間に共通する事だ。

俺から見て、エドワードは間違い無く一流の人間だ!それも、何万人に一人の才能を持った特別な人間だ。

けれど、例えどれだけ才能があったとしてもやる気や目標が無ければ精々、二流、三流にしかなれないだろう。だからこそエドワードには、目的を失って欲しくないのだ。


えっ?!俺に才能はあるのかって?


ハッハッハッ!!……そんなの無いに決まってるじゃん!!

もしあったら今頃、俺は三つ星シェフの仲間入りだよ!!

そりゃあ自分の店を持って、一つ星を貰える位の才能はあるが、それでもここまでくるのに何度も挫折や逃亡をしたくなったさ!

それでもここまで来れたのは、なんとしても達成したい目的があったからだと断言出来る。だから俺は宣言する。

例えエドワードが頼み込んだとしても、俺はどちらか一方しか叶えないし、叶える事は絶対に無い!寧ろ、ここでエドワードが駄々をこねるのなら、俺はすぐに王都を離れてエドワードが追って来られないように他国へと向かうつもりだ。


いつまでも考え込んでいるエドワードに俺は檄を飛ばす。


「早く選べエドワード!!いつまでも悩んでいるのなら俺はもう帰るぞ!!」


するとエドワードは真紅の瞳を濡らしながら掠れるような小声で


「ケイタ……」


と、まるで縋るように俺の名前を呼ぶ。


その声を聞いて俺はキレた!


「ふざけるなエドワード!いいか、本来なら絶対にあり得ない選択を俺は選ばせてやってるだぞ!!いいか!正直に言えば、ぶっちゃけ俺はお前の復讐が遂げられようが、母親が死のうがどうでもいいんだよ!ただエディアス家には、屋敷に泊めて貰った恩があるから手を貸すだけであって、俺は別にどっちでもいいんだよ!」


エドワードの情けない態度にキレてヒートアップしたせいか、いつのまにか俺はエドワードの胸ぐらを掴んでいた。

エドワードは俺の手を振り払う訳でも、咎める訳でも無く、ただただ黙り込む。


「・・・・・・」


冷静になった俺は、エドワードの胸ぐらから手を離すと最終勧告をする。


「これで最後だエドワード。父親の敵討ちか母親の解呪。どっちを選ぶ?」


俺が強い口調で告げる。するとエドワードは、覚悟を決めた表情をしながらゆっくりと口を開きながら答える。


「僕は……僕は………僕は母上を助けたい!!」


エドワードは涙を流しながら叫ぶ。

俺はそんなエドワードの肩に手を置くと


「よく選んだエドワード!流石は親友だ!俺はお前を尊敬するよ!」


と言う。

先程のやりとりを見るとお世辞に聞こえるかも知れないが、今言った言葉は紛う事なき本音だ!!


なにせ、自分のせいで死んだ父の復讐よりも生きている母を選んだエドワードに俺は心から称賛した。


すると泣き止んだエドワードが俺に


「ケイタ、母上を頼む。どうか母上の呪いを解いてくれ!」


と、頭を下げながら懇願する。

俺はエドワードに


「任せろ!必ずお前の母親を助けてやる!」


と言って、俺はずっと黙って聞いていたミーナさんの近くに移動すると


「と言う訳ですので、よろしいですね?」


と、聞く。するとミーナさんは軽く頭を下げた後


「はい。息子が決めた事ですのでわたくしからは特に何も言うつもりはありません」


「そうですか。では早速、始めさせて頂きますので、少しの間動かないで下さいね」


と言って俺はミーナさんに手をかざすと、鑑定を使ってミーナさんのステータスから状態を選択する。


状態

《老生の呪い》

説明

齢が60を迎えると死にいたる呪い。

あらゆる回復手段を用いても治らない。

唯一、女神の力でのみ解く事が出来る。  YES : NO



「それでは解呪しますね。……YESっと!」


俺は解呪の所にあるYESをタップする。

すると、ミーナさんの周りに虹色に光る魔力がまとわり、次第にミーナさんの中へと入っていく。


唖然とするミーナさんとエドワードを無視して俺は、ミーナさんのステータスを確認する。


名前  ミーナ・アル・エディアス

種族  人間

年齢  58

レベル 29

職業 契約者

役職  ソラリア王国相談役


ステータス

攻撃 2500

防御 1685

魔力 5400

魔防 5800

速さ 1900


スキル

四神召喚 『黒亀』 『白虎』

癒し など


状態

なし


称号

ソラリア王国相談役 四神に選ばれし者 

四神の契約者  など



無事に解呪が完了した事を確認した俺は、エドワードとミーナさんに告げる。


「おめでとうございます。無事に解呪が完了しましたよ。もう呪いに怯える必要はありませんので安心して下さい」


すると、エドワードが


「本当なのかケイタ?本当に、本当?」


と聞いてきたので俺は


「間違い無く解呪出来たよ!」


と言ってミーナさんの方を見る。

ミーナさんも、自分を蝕んでいた呪いが消えた事が分かったのか、口元を押さえ、涙を流している。そんなミーナさんを見て、エドワードは涙をながしながら


「ありがとうケイタ。本当にありがとう」


と言って、深く頭を下げた。




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