第30話 勝負の行方

やがて勝負の時間になり、マイクのような物を持った男が喋る。


「それではこれより、マーラ商会対串屋クラークによる料理勝負を始めさせて頂きます!」


うおー!!!


「それでは選手の入場です!まずはマーラ商会から、専属料理人のボーンシェフの入場です!……続いて串屋クラークからはケイタ選手とクラーク親子の登場です!


大歓声の中、俺とクラークさんとミユちゃんは調理台へと進む。


こうして歓声の浴びながら歩くのは、2年前にコンテストで優勝した時以来なので、ちょっと緊張する。


調理台へと到着すると、目の前が審査員席で真ん中にバスタード伯爵が座っていて、他は知らない人物が4人座っている。

恐らくこの4人がマーラ商会の息がかかっている奴らなのだろうが、まぁ俺には関係ない。


俺はただ、自分の料理を作るだけだ!


歓声が落ち着くとアナウンスの男が勝負の説明を始める。


「勝負のルールは簡単!お題は自由、食材も自由。制限時間は1時間!そしてマーラ商会が勝てば串屋クラークの店はマーラ商会の物に、串屋クラークが勝てば、マーラ商会が持っている店の権利を手に入れる事ができます。

それではこれより、勝負開始!!」


うおーー!!!


開始の合図と共に勝負が始まった。


俺はまず、事前に熟成させていたモーサンを3枚に下ろしてから、ブライン液につけて置く。


「よし、仕込みはこれでOK!あとは、クラークさんどうですか?!」


「おうよ!こっちは大丈夫だぜ!」


「流石です!」


その間、クラークさんに頼んでいた下処理した野菜を調理していく。


「そしたら今度はミユちゃんのほうだな!」


それと並行して、ミユちゃんにお願いしていたパンの方を確認する。

皆さんには内緒にしていたが、なんと俺のスキルを駆使する事でほぼ白パンを作る事が出るようになった!通常パンは発酵だけで1時間以上、さらに成形や焼成で1時間近くかかるが、俺のスキル「管理人」を使う事でなんと全部ひっくるめて1時間で作れるのだ!


どうだ、すごいだろう!!ハッハッハッ!!


「どうミユちゃん?いい感じなか?」


俺が聞くとミユちゃんは笑顔で


「はいケイタさん!生地ももちもちしていて練習の時と同じです!」


「OK!!それじゃあ形を整えて置いてくれ!そしたら焼成に入るから」


「了解です!」


俺はパンをミユちゃんに任せるとつけて置いたモーサンを取り出して体温調理を始める。

すでに残り時間は後30分を切っているので少し焦る。


低温調理が終わったモーサンを取り出すと、俺はソースの仕上げに取り掛かった。

その間クラークさんにはミユちゃんと一緒にパンの方を見てもらっている。

と言っても、すでに焼いているのであとは焦げないように見ていて貰うくらいだが……


残り時間は後3分。俺は完成したモーサンのコンフィを皿に盛り、付け合わせの野菜とソース、そして焼きたてのパンを添えて、審査員の前に並べる。

すると、マーラ商会側も調理が終わったらしく俺たちの横に並んでいる。


やがてアナウンスの後が

「それではこれより審査を開始いたします!まずはマーラ商会の方の料理からどうぞ!」


審査員たちが一斉に料理にかけてあるクローシュに似ている物を取ると、そこには焼いた肉が盛られていた。


おおー!!


唸る審査員たちをよそに、俺は料理に鑑定をかける。すると


名前  ウルフ肉のステーキ

レア度 ノーマル

説明

そこそこ良い肉を使用しているので、それなりに味はいいが、少し焼き過ぎでソースが全然合っていない。


なかなかの辛口評価である。


俺は更にバスタード伯爵のステーキにも鑑定をかけると予想通り


名前  ウルフ肉のステーキ

レア度 なし

説明

そこそこ良い肉を使用しているので、それなりに味はいいが、少し焼き過ぎでソースが全然合っていない。

おまけに毒が含まれている。

状態

ポイズンフラワーの毒に侵された肉。

一口食べれば死んでしまう。


毒が入っていたので、俺はすぐに大声で


「ちょっと待ったー!!」


と言って、審査員たちに食べさせるのを辞めさせるとボーンが


「なんのつもりだ貴様?!!」


と、俺を睨みながら聞いて来たので、俺は


「審査員の皆さんが食べる前に、まずは貴方に食べて貰ってもよろしいですか?」


「な、何故儂が食べねばならんのだ?!」


動揺するボーンを他所に俺は更に追撃する。


「おかしいですねぇ?自分の作った料理を食べれない筈はないと思いますが、もしかして何か食べたら不味い物でも入っているのですか?」


「ぐぅ……」


俺の問いに対して黙り込むボーンに対して、審査員席にいるビレフとマーラ商会会長のノマーラがお互いに目線を合わせた後、ノマーラが立ち上がる。

そして、ノマーラが審査員席の前にやってきて


「それでは私、マーラ商会会長のノマーラが僭越ながら毒味を致しましょう!」


と言って、ビレフの前にある毒の入っていないステーキを食べようとする。

全てを知っている俺からしたら、まさに茶番劇である。


ノマーラが食べようとした瞬間、バスタード伯爵が声をあげる。


「何故この私の料理ではなく、ビレフの料理を食べようとしているのだ?この場で一番立場が上なのは私だ!それならば毒が入ってる可能性があるのは私だと思うのだが?」


バスタード伯爵の問いに対してノマーラは何も言えずただ黙っているだけだったが、伯爵は更に容赦なく追い詰めいく。


「どうした?早く私の料理を食べてみろ!……それとも食べられない理由でもあるのかな?」


「そ、そんなことは……」


追い詰められたノマーラは縋り付く目でビレフの方を見るが、当のビレフは知らん顔をしている。


そして事前に示し合わせた通り、ギルマスがやってきて料理を鑑定して毒を発見した後、ノマーラを含めたマーラ商会の一味を確保していった。


その間、ノマーラは何度もビレフの名前を呼び助けを求めたが、ビレフはずっとシカトしていた。


その後、マーラ商会の不正が発表されて俺たちの勝利が告げられ解散となった。


こうして予定通り、俺たちはビレフとマーラ商会の企みを阻止し、伯爵暗殺を防ぐことに成功したのだったが、まだ肝心のビレフが残っているので油断は出来なかった。

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