第26話 大精霊


メリッサさんを確認した俺は、念のため包丁を何本か召喚して、自分の近くに置いて置くと次に「気配感知」のスキルの効果を最大限にしていつでも反応できるようにする。


なんせメリッサさんは何気にレベル80だし、大精霊と契約してるみたいだからこのくらいしとかないと危険だ。


やがてメリッサさんがやってくると俺は立ち上がり挨拶をする。


「こんばんはメリッサさん。私服姿もお美しいですが、その姿だと魔法使いに間違われてしまいますよ」


俺が服装の事を指摘するとメリッサさんは笑みを浮かべながら


「うふ、ご丁寧にありがとうございますケイタさん。ですがご心配なく、これが私の正装ですから。……と言うよりもご存知なのではございませんか?」


「な、何にですか?」


「決まってるじゃありませんか。私の素性をですよ!風の鎌ウインドカッター!!!」


メリッサさんは隠し持っていた杖を俺の前に突き出すといきなり魔法をぶっ放して来た!


「くっ!」


ドン!


俺は飛んで来た魔法を避けると召喚していた包丁を戻して「アイテムボックス」から無名の剣を取り出しメリッサさんに向ける。


「ちょっと!いきなり危ないじゃないですか!!俺じゃ無かったら死んでますよ多分」


俺がそう言うとメリッサさんは納得したような顔して


「その反応、予想通り貴方は帝国からの使者ですね!目的はやはり私を確保する事でしょうか?」


メリッサさんは「どう、当たりでしょ!」と言いたそうな顔をしているけど、残念ながら大外れである……


「何を言ってるんですかメリッサさん!俺が帝国の使者?そんな訳無いじゃないですか!第一、俺はレベル10も満たない駆け出しの冒険者ですよ」


俺の言い分を聞いてメリッサさんは鼻を鳴らしてから


「ふん!例え貴方がレベル10以下の雑魚だとしても『鑑定』のスキルがある以上そんな言い訳が通用すると思わない事ですね!あっ!それと嘘を述べても無駄ですよ。私は昨日、確かに貴方から鑑定を受けたと精霊に教えて貰いましたから」


「いや、確かに俺は貴方とギルマスに鑑定を使いましたけど決して帝国の使者なんかじゃ無いですよ!」


「問答無用です!行きなさい『風の精霊』たち!!」


メリッサさんの言葉に反応して空気中のが俺の方へと向かって来た。俺は無名の剣に火の初級魔法を纏わせて前方に振ると、剣が何かとぶつかり合った衝撃が腕に伝わって来た。


(うわ!何だこれ?)


俺が不思議がっているとメリッサさんが俺に向かって、今度は魔法を飛ばして来た。


「『我が敵を切り裂く風の槍を求める風の槍ウインドランス』」


メリッサさんから放たれた3本の風の槍を見て、俺は無名の剣に土の初級魔法を纏わせてから切り裂いた。

魔法にはそれぞれ相性があり、例えば火には水が強く、水には風が強く、土には火が強く、風には土が強いと言う感じで、他の氷や雷なんかはまた別の枠になるみたいだ。


俺が魔法を切り裂くとメリッサさんは驚きと焦りの表情を見せながら俺に聞いて来た。


「まさか中級魔法を切り裂くなんて、正直驚いたわ!それほどの実力を持っているって事は『死神』か『天道』……まさか『紅姫』の可能性も……いずれにせよ6騎将直属の兵みたいね」


「いや、だから違うって……てか6騎将って何?すげー厨二心をくすぐってくるんだけど!」


俺が否定してもメリッサさんは聞く耳を持たず、魔力を練り始めた。

膨大な魔力が集まるとメリッサさんは


「とにかく、それなら遠慮はいらないわね、来なさい[シルフ]!!」


メリッサさんがそう言うと、メリッサさんの後ろに魔法陣が現れてそこから緑色をした半透明の女性が空中に浮きながら現れた。

俺はその姿を見て心の中で


(おそらくこの女性が[シルフ]なんだろうけど、俺の現代知識だと[シルフ]って大精霊とか上位精霊の部類に入るからこうして実際に見ると感激だなぁー!)


俺が肝心のしているとメリッサさんが


「どうかしら、これが世界に12体しかいない大精霊の一体、風の大精霊[シルフ]よ!」


「はぁ、そうですか。すごいですね」 


自慢げに話すメリッサさんに対して俺は冷めた口調でそう言うと


「へぇー、怖がらないなんてやるわね。その度胸に免じてもし貴方が[シルフ]の攻撃を防げたら話を聞いてあげるわよ」


「その言葉、忘れないで下さいね」


俺は無名の剣を居合切りのように構えると、深呼吸をしてからメリッサさんに向かって


「……こい。貴女のその勘違いを解いてあげますよ」


と、せっかくなのでかっこつけてみるとメリッサさんが乗ってきた。


「やれるもんならやって見なさい!いきなさい[シルフ]!!」


メリッサさんの合図共に[シルフ]がその溢れる魔力を5つの風の刃に変えて俺へと放った。その刃は鎌鼬のように空間を削り、さらには地面を削って俺へと向かってくる。


まるで真空波ならぬ真空刃と言う所だろうか。


ビュー!!!!!


「スキル【捌く者】」


ザン!


5つの真空刃が俺の間合いに入った瞬間、俺は構えた無名の剣を振り抜き、真空刃を全て切り伏せた。


「な、そんな、あり得ない……[シルフ]の魔法を防ぐならともかく、切り裂くなんて…あり得ないわ」


動揺するメリッサを他所に俺は無名の剣を鞘に収め余裕の表情を見せるが、内心ではかなり動揺していた。


(あぶねー!危うくメリッサさんまで一緒に細切りにする所だった!【捌く者】のスキルはまだ完璧に制御が出来ない所がネックなんだよなぁ〜)


語弊があるようなので説明するが、俺のスキル【捌く者】は別に、召喚した包丁でしか使えない訳では無く、俺が触れている物ならばなんでも使う事が出来る。変な話、例えそれが木の棒や自分の腕であってもスキルを使えばなんでも切ることが出来る為、かなりのチートスキルだと言える。


えっ?!なら別にいつも包丁を使わなくても良いだろうって!……だって、いちいち剣とかを回収するのが面倒じゃん!それに対して、召喚した包丁なら使い終わったら自然に消えるし、剣と違って重く無いからね!


おっと!そんな事より今はメリッサさんの誤解を解く方が先だった!!


俺は動揺しているメリッサさんに向かって話しかける。


「取り敢えず、攻撃を防げたんで俺の話を聞いてくれますよね?メリッサさん」


メリッサさんは悔しそうな表情を浮かべながら


「ええ、約束は守るわ。それに、貴方の目的が私を確保する事だったら、既に私は捕まってる筈ですものね」


「どうやら誤解が解けたみたいですね」


「いいえ、勘違いしないで下さいね!まだ完全には貴方の事を信用してはいないわ!」


「ああ、そうですか……」


若干ツンデレ感を出すメリッサさんを他所に、俺は土魔法で新しいテーブルと椅子を用意する。


「では、立ったままお話をするのもなんですからどうぞお座り下さい」


俺は椅子に座りながらメリッサさんに対して座るように言うと


「それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰うわね」


そう言ってメリッサさんは俺の反対側に座った。

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