第21話 困った時の


目的の部屋に到着した俺は天井裏に潜みビレフの事を調べるつもりでいたのだが


「ご命令通り、準備は整いつつございます。

2日後をお楽しみくださいませ」


と、独り言をつぶやくビレフを見て俺は


(いい年して厨二病か?)


などと一瞬思ったが、よく見るとビレフは鏡に向かって喋っているようだったので、俺はそのまま聞き耳を立てると、別の声が聞こえてきた。


『そうか、よくやったぞビレフよ。貴様を選んで正解だったな』


「滅相もございません。貴方様のお役に立てる事こそ、私の喜びでございます」


ビレフはそう言って、鏡に向かって頭を下げながらさらに


「あとは予定通り、モンスターどもを街に誘き寄せ街を襲わせれば……」


(?!!)


ビレフの言葉に俺は思わず驚いてしまったが、深呼吸をして落ち着きながら再度、耳を傾けると今度は鏡から


『たのしみにしているぞビレフよ!』


「ははぁ〜」


ビレフが頭を下げながら鏡から離れようとすると突然


『所で、貴様の屋敷にどうやらネズミが忍び込んでいるようだな?』


「!!!」


「何ですと!?」


俺とビレフが驚いていると鏡はさらに


『天井裏に隠れているネズミよ、まさかバレてないと思っていたのか?貴様がそこに隠れている事など最初から知っていたわ!』


「くっ!」


俺はすぐさま逃げた!

それはもう、ピトーから逃げるキルア並みの速さで天井裏を駆け抜け屋敷の外へと逃げる。


(マジかよ!?女神から貰ったコートで完璧に偽装していた筈なのに何でわかったんだ?と言うより、あの鏡は一体何なんだよ!いや、多分あの鏡の中で話していたのがビレフを操っている魔族なんだろうけど、まさかバレるとは思っても見なかったぞ)


俺が走りながら考えていると後ろから数人の気配を感知した。

どうやら追手のようで、いきなり魔法を放ってきた!


ドーン!


バーン!


ドカーン!


火球ファイヤーボール水球ウォーターボールと言った下級魔法から火槍ファイヤーランスと言った中級魔法まで、何発もの魔法が俺に向かって飛んでくる。


「奴らバカなのか?いくらここが貴族街の外れだからって限度というものがあるだろ!」


屋敷から脱出した俺は、入り組んだ貴族街を通って逃げようとしたのだが、追手の奴らは容赦なく魔法を放ってくる為、このままだと一般市民にも被害が出てしまう以上、密集した場所を通る訳には行かない為仕方なく俺は反対側の城壁沿いを伝って逃げていた。

幸いすでに日が落ちているので、追手に俺の顔を見られる心配は無いがそれでもやられたら元もこも無いので、俺はペティナイフを数本召喚して迎撃の態勢をとると


「殺さないように狙いは足か肩だな!よし行け!ゲートオブナイフ!!」


俺の掛け声と同時にペティナイフが追手に向かって行き、見事に狙い通りの場所に刺さる。


「アグ!」


「ウグッ!」


「グアー!」


追手たちは悲鳴をあげながらその場に倒れ込んだ。


「よし!命中!!」


俺は追手たちから振り切った事を確認したあと、コートの能力を使って姿を変えると宿屋へと戻る。


ちなみに、召喚した包丁は俺の手から離れてからおよそ1分程で自然消滅する為、刺された後すぐ止血をしないと流血し続けると言うなんとも恐ろしい能力が備わっているのだ!


まさに某英雄王のようだ!


でも流石に、技の名前がゲートオブナイフは厨二病かも知れない。まぁ魔法の詠唱もちょっと、いやかなり厨二が入っていたし今更だよなぁ。


・・・・・・・まぁ、この件に関してはおいおい考えるとしよう!


*******


さて、宿屋に戻ってきた俺はこれからどうするべきかを考える事にした。


今回の問題は


1つ、2日後の祭りでこの街の領主がマーラ商会とビレフによって毒殺される。


2つ、ビレフは魔族の手下で領主の親戚の為、それなりに地位がある。


3つ、祭りの日に魔族がモンスター達を使って街を襲撃しようとしている。


「さて、どうするべきか。毒殺に関しては俺がなんとか出来るだろうけど、流石に何体もモンスター達が襲ってきたら俺でも無理……いや、神級魔法を使えばなんとかなるけど、目立ちたく無いしなぁ〜」


俺が考えていると外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「破壊させろー!!」


俺が窓から外を見渡すとそこには、Sランク冒険者であるディボアさんを数人の冒険者達が押さえつけていた。

どうやら聞いていたディボアさんの癇癪が起こったようで、仲間の人達が宥めているようだ。


俺はその光景を見てメリッサさんの言っていた事を思い出した。

この街にいる冒険者は変態だけどやばいぐらい強いから安心してくれって!その時はどこか安心出来るのか甚だ疑問だったけど今なら分かる。


「つまりメリッサさんは、何か困ったら安心して頼れって事を言いたかったんだな。でも、俺みたいな新参者がいきなりモンスターが襲ってくるって言っても信じてくれるだろうか?」


俺はしばらくの間考えた結果、とりあえずメリッサさんに相談する事にした。

何故か俺の中で、メリッサさんは信用出来ると言っている。


でも、断じてメリッサさんが綺麗だからとか俺のドストライクなタイプだからとかそう言う理由では無いからな!


そうと決まれば、思い立ったが吉日とばかりに俺は冒険者ギルドへと向かう。


ギルドに到着すると俺は、扉の前で一度深呼吸をした後中へと入る。初めて来た時はギルマスのオカマによって、かなり恥ずかしい態度をとってしまったからだ。


「ふぅ、今回は大丈夫だったか」


俺は無事に入れた事に安心した後、受付へと向かいメリッサさんを探す。


するとメリッサさんは俺に気づいたのかこちらに向かって手を振ってきたので、俺はメリッサさんの元へと向かい


「こんばんはメリッサさん。突然申し訳ございません、少しご相談があるんですがよろしいですか?」


「ええ大丈夫ですよ。それでは個室に案内しますね」


そう言ってメリッサさんは俺を伴って個室の方へと向かう。


「どうぞケイタさん。お好きな席にお座りください」


「ありがとうございます」


俺が下座の席に座るとメリッサさんはティーカップを持って上座へと座った。


「それでケイタご相談とはなんでしょうか?もしかして、マーラ商会に関しての事ですか?」


「!!・・・ご存知なんですね?」


「これでも冒険者ギルドの受付嬢ですから、そう言った事は自然と耳に入ったりしてくるんですよ」


「そ、そうですか」


俺はメリッサさんの言葉に驚きながらも納得した。どうしてメリッサさんがあっさりと俺を個室に案内してくれたのか引っかかっていたからだ。

俺は一度深呼吸をしてから本題を話し出す。

まぁ流石に全てを話すことは出来ない、と言うよりも話したら俺が住居不法侵入で捕まるので、所どころぼかしながら話す。


俺の話を聞いてメリッサさんは手を顎に置いて困った表情をしながら


「うーん、ケイタさんのお話を整理すると、マーラ商会とビレフ・ゴーンは繋がっていて、今度の勝負で領主であるノールド・バスタード伯爵を亡き者にしようとしていると、そしてその混乱に乗じてモンスターを使ってスタンピードを起こそうとしていると言う事で宜しいでしょうか?」


メリッサさんの質問に対して


「はい、その通りです」


流石に魔族の事を話すわけにいかないので、俺はいくつかの嘘を交えながらメリッサさんに伝えた。

すると、メリッサさんはしばらく考えてから申し訳なさそうに


「我々ギルドとしても、残念ながらケイタさんの証言だけで冒険者の方々を動かすわけには行かないので、大変申し訳ございませんがケイタさんのご期待には応えられません」


「そうですか。まぁ、そうですよね!俺みたいな新人が何を言っても無意味ですよね。貴重なお時間を無駄にして申し訳ございませんでした。それではこれで」


ドン!


俺はそう言って立ちあがろうとした瞬間、ドアがいきなり開きギルマスが


「な!」


「ぎ、ギルマス?!」


「その話、私にも聞かせて貰っていいかしら?とーても興味があるわ!」


と言って相変わらずのオカマ口調と格好で俺に向かってウインクしてきた。


(せっかく格好良い登場シーンなのに、台無しだよ!)


俺はそう思いながらも、何故か心の中でどこか安心を覚えていた。

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