第18話 必殺料理
ナイジェルが店を出てから数分して、俺とクラークさんは喫茶店を出て家に向かう。
道中、クラークさんから色々と小言を言われたが、特には気にしていない。
ようやく家に着き、玄関を開けるとキッチンの方からバタバタとこちらに向かってくる足音が聞こえて来た。
勢いよくキッチンのドアが開かれて、長い金髪を靡かせたミユちゃんがやって来た。
俺はその姿を見て、心の中で
うん、可愛い!
なんだろう、地上に舞い降りた天使みたいだ!
俺が見惚れていると、ミユちゃんが
「お帰りお父さん、それとケイタさんもってあれ?お肉を買いに行ったんじゃ無かったのお父さん?」
(あー!!ダメ!ダメだよミユちゃん!!そんな事を言ったら、またクラークさんが落ち込んじゃうから、って!すでに落ち込んでる〜!!)
俺が恐る恐るクラークさんを見ると、そこには全身から負のオーラを漂わせ、何かをぶつぶつと喋っているクラークがいた。
「…………」
俺はクラークさんが何を言っているのか無性に気になったが、なんだか呪いの言葉のように聞こえて来たので止める事にした。
しばらくして、ようやく落ち着いたクラークさんに俺は今後の事について話し合う。
「それでクラークさん。2日後の勝負ですが、全て俺に任せて来れませんか!全身全霊をかけて必ずクラークさんに勝利をプレゼントしますので」
俺がそう言うとクラークさんは困惑した様子で
「だがなぁ、もと後言えば俺と奴らとの諍いに巻き込んじまった訳だし、ミユの事もある。これ以上ケイタに迷惑をかける訳にはいかないしなぁ」
「何言ってるんですか!ここまで来て水臭いですよ!それに、俺もあんな奴らの良いようにさせて置くのは気分が悪いですし、一泡吹かせてやらないと気が済まないので!」
「だがな、ケイタは知らないだろうが領主様は大の肉好きって評判で、特にウルフの肉が一番の好物だそうだ」
「なるほど、奴等がわざわざ圧力をかけてまで肉を手に入れた理由が分かりました」
「分かっただろ!肉が手には入らない以上、万が一にもこっちに勝ち目は無いんだよ…だからケイタをこれ以上巻き込む訳には…」
項垂れているクラークさんに対して俺は
「いいですかクラークさん!負ければ店を失うだけじゃ無くて、ミユちゃんを悲しませる事にもなるんですよ!!本当にそれで良いんですか?」
「しかし・・・」
「あーも!クラークさん!すでにこの勝負はクラークさんだけの勝負では無いんですよ!こちらが負けると言う事は、マーラ商会のような奴らが正当化される事になるんですよ!クラークさんはそれで良いんですか?!」
俺がそう言うと、クラークさんはしばらく悩んだ後、覚悟を決めた顔をしながら俺に土下座をしながら
「頼むケイタ!お前の力を貸してくれ!奴らを、マーラ商会に勝ちたいんだ!」
と言ってきたので、俺はクラークさんの肩を掴みながら
「分かりました。俺に任せ下さい!この勝負、絶対に勝って見せますから!!」
「任せたぞケイタ!」
「任されました!それでは、俺ここで失礼します。早速、メニューを考えるんで!」
無事、クラークさんを説得した俺は早速、メニュー開発を始めた。
この勝負の審査員のほとんどはマーラ商会の息のかかった者達ばかりな上、審査委員長の領主の好物である肉を使えないと言うハンデがある。つまり、生半可な料理では勝つどころか勝負の舞台にすら立てないってことだ!
ならば俺のやるべき事は、料理人にとっての最高の一皿、【
地球にいた時、俺の店では【
ロッシーニ風とは、ロッシーニと言う人物が考案した、トリュフとフォアグラを使った料理で自分で言うのもなんだが、もの凄く美味い!!
この世界でも作りたい所だが、残念ながら今のところ不可能なので、俺は別の料理を作ることにした。
肉は奴らが独占した為、使うのは魚だ!
その中でも俺は、今の時期に一番美味い魚を市場で捜す事にした。
市場には昨日見た魚以外にも様々な魚がいたが、その中で俺はとある魚に目を惹きつけられた。
その魚は「モーサン」と言って、見た目こそ鎧のような鱗でガッチガチに武装していたが、血抜きの後を見ると、なんとビックリ!身の色が見事にサーモンピンク色をしていて、まるでサーモンようだった。
「これは使える!!この魚を使えば、あの料理が出来るぞ!」
店に並べられている中で鮮度の良いモーサンを数匹購入し、他に必要な野菜などを買ってから、宿屋に戻って早速試作を開始した。
俺が作る料理はモーサンの色鮮やかな身を存分に活かせる“コンフィ”にする事にした!
コンフィとはフランス語で「保存する」と言う意味があり、食材を低温の油で茹でる調理法の事で、オリーブオイルに漬けた食材を低温でじっくりと熱を入れてくので、身がものすごく柔らかくなる上、色鮮やかに仕上がる為、代表的な食材としてサーモンなどが挙げられる。
通常は、オリーブオイルに漬けたサーモンを真空パックや空気を抜いたジップロックなどで、約45度前後のお湯に1時間程度かけて湯煎するのだが、温度計の無い異世界においては、温度管理がほぼ不可能に近い為(少しでも温度が高いと身が固くなり、変色してしまう)諦める所だが、そこは女神からもらったスキル【管理人】を使い、温度調整をする事にした。
チートスキル、便利!!!
「よし、始まるとするか!」
宿屋の人に頼んで厨房を借りた俺は、まずはモーサンを捌いていき、塩と砂糖と水で作ったブライン液(下味を付ける)に40分程漬けて置く。
俺はその間に、付け合わせに使う野菜とソースを作って行く!
付け合わせに使う野菜は、ミニトマトに似た野菜と、クレソンのような葉物を用意した。
そして肝心のソースは今回、アボカドみたいな野菜をハーブと一緒に合わせて作ったグリーンソースと、ピリッとした唐辛子のような香辛料から作ったレッドソースを準備する。
付け合わせとソースの準備が終わると、ちょうど40分経ったので、俺はモーサンをブライン液から取り出と水気を拭き取る。
「よし、そしたら次は『調理器具召喚』のスキルで真空機を召喚してっと!」
俺は『調理器具召喚』で最先端の真空機を召喚し、真空パックの中にモーサンの身とオーリブの実から作られた
「オッケー!後はスキル【管理人】発動!温度は45度、時間は1時間っと!」
俺が温度と時間を指定すると、瞬く間にモーサンの温度が上がり、1分すると頭の中から
チン!
と言う電子音が聞こえる。
この音は、【管理人】のスキルによる調理が完了した事を知らせてくれる音だ!
「相変わらず早いな〜。まだ1分ほどしか経って無いのに便利すぎないか?」
俺はそう言いながら真空パックを開けて、モーサンの身を優しく取り出すと、用意していた皿に盛り付けてから、ソースと付け合わせを飾って一言
「モーサンのコンフィ、完成ー!!」
と、俺以外誰もいない厨房で叫ぶと、次第に顔が赤くなった。
いや、別に恥ずかしくなんか無いからな!
ただ、ちょっとだけ誰もいなくて良かったと思っただけだからな!!
・・・・・・はぁ〜
一人で落ち込んでいると、頭の中に聴き慣れた機械音が聞こえてくる。
ピロロン!
(あー、これってまたアレか?)
すると、目の前にステータス画面が現れてメールの欄を確認すると、やっぱり女神からメールが来ていた。
【ちょっと圭太さん!!私は魚が大好物だっで知ってて、お預けしてるんですか?!!もしそうなら許しませんよ!!女神、怒っちゃいますよ!!】
女神のメールを見て、俺は少しムカついたのでシカトして、モーサンのコンフィを二皿食べようとしたら、再び機会音が聞こえて来た。
ピロロン!
女神からのメールを開くと
【ごめんなさい、嘘です!!だから早く送って下さい!お願いします!サービスしますから!】
俺は女神のメールを見て、一度ため息をついてからモーサンのコンフィに祈り、女神の下に送った。
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