第15話 秘策


俺とクラークさんはようやく、3日後の勝負の為の作戦会議を始めた。


「それでクラークさん。まずお聞きしますが、マーラ商会ってどんな奴等なんですか?さっきのを見る限り、まるでヤクザみたいな奴等でしたけど?」


俺の質問に対して、クラークさんは


「ヤクザってのがよく分からんが、奴等は悪どい事をして成り上がって来た商会で、今まで何人もの人間が奴等のせいで人生をめちゃくちゃにされていった」


話して行くうちに段々と、クラークさんの顔が憤怒の表情に変わって行く。


どうやら相当、マーラ商会を恨んでいるみたいだ!


俺はそんなクラークさんに共感した。


(そりゃそうだよな。目の前で自分の店を壊されたら誰だってムカつくよな!俺だったら間違いなく八つ裂きにして、この世の地獄を見せた後に、始末してるよ)


俺は心の中でそう思いながら、クラークさんに


「クラークさん。3日後の奴等との勝負の事ですが、俺たちは何で勝負しますか?」


俺の問いにクラークさんは


「そりゃおめー、うちは代々ウルフ肉の串焼き屋台だぜ!串焼き以外はあり得ないな!と言うより、それしか出来ないぞ!」


と言って、胸を張るクラークさんに俺は


「それなら串焼きで行きましょう!ただ、勝つ為にはある程度は工夫が必要でしょうから、俺に任せて下さい」


俺がそう言うと、クラークさんは頭に疑問符を浮かべながら


「なぁケイタ。工夫ってなんだ?」


と、聞いて来たので俺は


「説明するよりも見たほうが早いでしょうし、台所をお借りしますね!」


と言って、ただ上がり台所へと向かう。


台所に着くと俺はまな板を召喚して、森で採取した野菜や果物を取り出すと、包丁を持ちながら隣にいるクラークさんに説明しながら

調理を始める。


「それじゃあ始めますね!まずは、キャーロットとネーギ、それとオニーオンを微塵切りにします。次に、リップルとオーレンを潰してから綺麗な布で漉してワインを混ぜるっと!」


俺はテキパキと調理を進めて行く。

そんな俺を、クラークさんはずっと見続けていたので、俺はそのまま調理を続ける。


「そしたら、微塵切りにした野菜を軽く炒めてしんなりして来たら、さっきのワインと合わせてジーンジャーと、ハーブや塩で味を整えながら煮込んでいくっと!」


本当ならば、胡椒や唐辛子などを使いたい所だけど、残念ながらこの街では見かけなかったので入れていない。

何故入れていないのかについては、これから説明するので待っててくれ。


しばらく煮込んでいると、鼻腔をくすぐるいい香りが立ち込めて来る。

頃合いになって来たので、俺は火を止めて


「よし、あとはこのタレを冷やす!」


と言って、鍋の周りに氷を作って冷やす。


すると、さっきまで黙っていたクラークさんが俺に話しかけて来る。


「それでケイタ。お前は何を作っているんだ?すまねぇが、俺には皆目見当がつかねぇんだが?」


俺は、戸惑っているクラークさんの問いに対して答える。


「ふふふ、これはですねクラークさん。肉を漬けるタレ、漬けダレを作っているんですよ!」


俺がタレの事を話すとクラークさんは驚くべき事を言った。


「悪いケイタ。その漬けダレってのは、なんだ?」


「えっ?!」


俺は唖然とした。

この世界には漬けダレが存在しないのだ!


(うっそだろ?!漬けダレが無かったら、どうやって漬け丼や味噌漬けを食べればいいんだよ?女神も言ってたけど、マジでこの世界は食文化が低すぎだろ!!)


俺は漬けダレを知らないクラークさんに、漬けダレの事を説明する。


「いいですかクラークさん。漬けダレって言うのは、肉や魚を柔らかくしたり、味をつけたりするタレのことで、何種類もの食材を合わせて作るんです!」


俺が力説しているとクラークさんが


「それじゃあ、肉にこのタレを漬けると美味くなるのか?」


と、聞いて来たので俺は、アイテムボックスからウルフ肉を取り出して漬けダレの中に入れる。


しばらくして、肉に充分タレが染みたのを確認した俺は、まず肉を取り出してからカットして、串焼きにして行く。

中に火が通ったのを確認した俺は、肉をクラークさんに渡して


「どうぞ、食べて下さい!」


俺が進めると、クラークさんは恐る恐る肉を一口食べる。すると


「美味ー!!なんだこの肉は?!肉は柔らかく、噛むごとに味が広がっていく!それに、甘く酸味の効いたタレの味が肉の脂を抑えてくれていて、いくらでもくえるぞ!」


と言いながらクラークさんは、両手に串焼きを持って交互に肉を食べている。


長嶋食いかな?


俺は無我夢中で串焼きを食べているクラークさんに


「漬けダレの凄さがわかったところで、これからクラークさんにはこのタレと同じタレを作れるようになって貰いますから!よろしくお願いしますね」


俺は軽く笑みを浮かべながら言うと、クラークさんが焦った顔で


「マジで言っているのかケイタ?俺がこのタレと同じタレを作るなんて無茶な・・・」


「大丈夫ですよ!クラークさんなら教えた通りにすれば問題ないですよ!それに、今日使ったのはこの街で簡単に手に入る物ばかりだから大丈夫ですよ!!」


俺もそう言って元気付けるが、クラークさんは相変わらず半信半疑のようだった・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


補足

異世界の食材たち

キャーロット→人参

ネーギ→ネギ

オニーオン→玉ねぎ

リップル→リンゴ

オーレン→オレンジ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る