馴れ初め

モノローグ02

*僕*

 夏の終わり。

 またこの季節がやってきた。

 僕はまた、理屈のない使命感に駆り立てられる。


 大切な何かを、あるいは大切な誰かを、僕は探している。

 それが何なのか、誰なのかは不鮮明で、濃い霧の中をもがいているような感覚に近い。


 はっきりと言えるのは、それは今から10年も前のことで、僕が高校生だった頃に何か大切なものを置き忘れてしまったという確かな記憶があるということ。


 もしかすると、5年前はそれが何なのか覚えていたかもしれないし、もしくは10年前にはもうすでに覚えていなかったのかもしれない。


 いずれにしても、毎年、夏の終わりを感じると、忘れてしまった何かに思いを馳せ、僕はノスタルジーに浸って涙を流している。


*私*

 秋の訪れ。

 またこの季節がやってきた。

 私はまた、説明できない絶望感に襲われる。


 大切な何かを、あるいは大切な誰かを、私は探している。

 それが何なのか、誰なのかは不鮮明で、底の見えない沼の中をもがいているような感覚に近い。


 はっきりと言えるのは、それは今から10年も前のことで、私が高校生だった頃、何か大切なものを失ったという確かな記憶があるということ。


 もしかすると、5年前はそれが何なのか覚えていたかもしれないし、もしくは10年前にはもうすでに覚えていなかったのかもしれない。


 いずれにしても、毎年、秋の訪れを感じると、失った何かに思いを馳せ、私はノスタルジーに浸って涙を流している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る