馴れ初め01
*僕*
ゴールデンウィーク明けに
月夜見と出会った日、まあ、出会ったと表現するほど耳障りの良いものではなかったものの、連絡先を交換した僕たちは、その日以来、意外にも毎日連絡を取り合っていた。
二日ほど、学校から月夜見の家の近くまで一緒に下校することもあった。
月夜見が入学してきた日、彼女のことについていろんな噂が飛び交っていたのを思い出すと、黒光りする高級車に乗って初登校をブチかまし、運転手は黒スーツのグラサン男で、付き人に黒スーツの金髪美女がいて、月夜見希望はアブナイ筋の人なのだと誰もが思っていたようで、それは僕も同じである。
噂はすぐに収まったとはいえ、それが原因で友だちがいないことや、学校生活があまり有意義ではないことなど、毎日連絡を取っていると月夜見から色々と彼女のことを知ることができた。
結論から言うと、そういう境遇の月夜見との距離が縮まることは必至だった。
話す相手すらいない月夜見が、唯一の話し相手である僕に心を開くのは避けられなかった。
とはいえ僕も、後輩の女子、それも可愛い後輩の女子と親密になることに気を悪くするはずもなかった。
夜。
まるで日課のように月夜見から連絡が来る。
『明日一緒に帰ってあげてもいいですよ』
『どうして上から目線なんだ?』
『そろそろお小遣い貰った頃だと思いまして』
月夜見からの返信は早い。
『小遣い貰ったらどうして一緒に帰るんだよ』
『お小遣い貰ったらちゃんとお詫びするって言ってましたよね〜?』
『買わなきゃいけない参考書が山ほどあるんだ』
『じゃあいいです』
同時に怒りを表現するスタンプが大量に投下される。
『冗談だよ』
返信するとすぐに喜びを表現するスタンプが大量に投下された。
馴れ初め。
言葉の意味を調べると、恋のきっかけ、だそうだ。
今の僕たちを表現するには十分な言葉だった。
『おたけ先輩、変なことしないですよね?』
『しないよ!』
『可愛い後輩からの忠告です』
『可愛い後輩は自分のことを可愛い後輩だなんて言わないんだよ』
再び怒りを表現するスタンプが大量に投下される。このやり取りも何度目になるだろう。
『またコンビニまで乗せて行ってくださいよ』
『僕は普通の優等生だから二人乗りはしたくないな』
『普通の優等生は自分のことを普通の優等生だなんて言いません』
『え〜』
『他の女の子とは二人乗りしてるんでしょ?』
『最近はないな〜』
『昔はあったみたいな言い方ですね』
『高校三年にもなるんだし多少はね』
『きもい』
『マジな言い方やめてくれ』
『私はまだ一回しか乗ってませんよ?』
『この前は怖がってたくせに』
『もう慣れました!』
月夜見から始まるこのやり取りは、僕から切り上げないと延々と続いてしまう。
『勉強するからおやすみ』
『受験生大変ですね 頑張ってください』
楽しいことではあるが、そこそこ有名な進学校の三年である僕は勉強もしないといけない。
普通の優等生である僕は学業を疎かにすることはできないのだった。
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