第2話 あの世
俺は今、薄闇の中にいる……。
ここは一体どこなのだろうか?
回りを見回しても何もない、寂し気なだけの空間だった。どうやら俺はそこで一人、横たわっていたようだ。
上半身を起こしてから、なんとなくボンヤリとしている。寝起き特有の、頭の痺れたような感じはまるでない。何故か慌てる気も起こらなかったので、とりあえずはそうしていた訳だった。
突然、俺の正面2m辺りに謎の眩い光が出現した。
距離と同じく、2mぐらいはありそうなその光(輪廓がはっきりしないのでおおよそだが)は、徐々にと薄まりだす。そこからは、長い白髪、長くて白いフサフサの眉毛に、またしても同じく長くて白い口髭、顎髭を生やした小柄な老人が現れた。腰の所を麻紐で縛った、ローブのような物を着ており、腰は少し曲がっている。右手には上端が曲がり、瘤のようになっている木の杖を持ち、地面に突いている(下を地面と言っていいのかはわからないが)。
その老人が俺に向かって語りかけてきた。
「……ここがどこだか、流石に
──ここはあの世?すでに自分は亡くなっている?老人からそう言われてから思い出したが、俺は自分で作った爆弾の爆発に巻き込まれてしまっていたんだった。あれで死んでしまっていた訳なのか。最期の記憶を思い出したのに、特に感傷も湧かずに、俺は特に何も言わずポカ~ンとした顔のまま、老人の顔を眺めていた。
「まぁ、ワシはお主らの言う『神』という存在じゃよ。」
目の前の老人が神様?俺は死んで、神様の審判を、これから受けなければならないのだろうか?俺が行く先なら、『地獄』しかなさそうなものだが。
「だが、喜ぶとよい!お主はその……、なんというか、その……。あの世で特別に実施しておる、キャンペーンに見事当選したのじゃよ!まぁ、わかりやすく言うと、『もう一度、別の世界で蘇って、新しい人生を送れるチャンス』が巡ってきたという訳じゃ!」
──なんだ、その謎のキャンペーンは?怪しすぎるんだが……。そんな気がしているので、これは何かのドッキリ的なやつで、俺は普通に生きているではないかとさえ思えてきた。
「いきなり、そんな事を言われて戸惑う気持ちも充分わかる。もちろん、キャンペーンを辞退して、『無』となって消え去ってしまうのも構わん」
──ほ~ん。これは今時流行しているという、転移とか転生とかができるとかってやつなんじゃないのかな?これはもしかすると、相当な幸運なのではないか。前の人生は糞みたいなもんだったし、新しくやり直せるというなら、今度こそ幸せな毎日を享受してみたい。
「ちなみに転移する世界とかは、すでにこちらで決めておるからな。赤子からやり直すとかそういうのはなくて、今のままの状態でそちらの世界に行ってもらうのじゃ」
──転移する先はすでに決められている?このまま状態であちらの世界に行く?それなると、前の世界よりも悪い状況で、過ごさなくてはいけなくなる可能性が高いんじゃあないだろうか?
そう言おうとすると、
「もちろん、キャンペーンの特約として、お主に一つだけ『能力』を授けてやる事になっておる。超人の様な身体能力や、凄まじい魔法等が使えるなど、選り取り見取りのやつじゃ」
──転移物にありがちなチートスキルをちゃんと戴けるみたいだった。まぁ、そんなのがなければ、別の世界に行くなんて気はまったくしないしな。
貰うとしたらどんな能力がいいだろうか?俺の中からはすでに転移しないという選択肢はなくなっていた。
しばらく時間を貰い考えに考えた末、俺はある能力を授けてもらう事にした。それは俺が普段異世界に行ったらしたらと妄想した時、是非とも欲しいと思っていた能力だ。アニメオタクで妄想過多の所が、こんな所で役に立つとは思わなかった訳だ。
「──ほう、なるほど。そういう能力か。わかった、ちゃんと授けてやる事にしよう。それでは!さっそくだが別の世界へと渡ってもらう事にするぞ!」
──えっ?もう別の世界に飛ばされちゃうって訳か?これから行く世界の詳しい説明とか、いろいろ先に聞いておきたい事が山程あるんだけど。
「そう心配するな。お前さんが行きたそうな世界とかは、だいたいわかっておる。そこまで酷い世界とかではないから安心せい。ちゃんと今回の実験では……。ま、まぁ、ワシも忙しいしさっさと行ってくるがよい」
流石、神様。ちゃんとわかってくれているのか。まだ、なんとなく不安だが任せるしかないか。
「それでは、行けぃ!」
神様が右手に持っていた杖の先を、回すようにチョイと振るった。すると、俺の身体が眩い光を発し始これめたのだ。数瞬の内に俺の意識も途絶え、全てはまた静寂の世界へと消え去っていた……
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