4人の勇者と1人の魔王

雑草という名の草

第1話 爆弾と少年

 俺は現在、とある深刻な悩みを抱えている。それは学校でイジメにあっているという事だった。


 俺の名前は新丸にいまるタカシ。某地方都市の高校一年生で、アニメやゲーム、漫画が好きな所謂オタクである。

 俺の通っている高校の偏差値はそれなりに高い。進学校とまでは行かないまでも、そこそこに勉強のできる奴が回りには多かった。

 何故、俺がイジメに合うようになったのかは、俺にもよくわからない。単に根が暗く、仲の良さそうな友達も少なそうに見えたからなのかもしれない。

 最初は陽キャの組する者達が、軽いノリでイジってくる程度のものだったの気がするが、次第に行為は徐々にとエスカレートしていき、制服で隠レ手肌が見えない場所に、痣ができるぐらいの暴行を受ける様になった。金銭も度々要求され、もはや自分の小遣いでは足りなくなり、家に置いてある親の財布からも、こっそりと盗みとらないといけなくぐらいにまで酷くなっていった。


 俺の家族なのだが、家は都市の中央から少し離れた場所郊外にあり、住んでいる建物は戸建てで、敷地面積25坪程の2LDK。地元の企業に勤めている、今年で44歳になるサラリーマンである父親と、同年齢でパートをしている主婦の母親が両親だ。後は小学五年生の弟が一人いて、この4人で実家に住んでいる。


 鬱々とした日々の中、俺はある妄想に取り憑かれる様になった。それは、という妄想だ。それはただの妄想だったのだが、イジメられている毎日を過ごす内、妄想は現実的な計画へと発展していく。

 俺をイジメている主導格のメンバーは全部で4人。そいつらを一人ずつ殺すのは面倒そうなので、一気に全員を殺してしまいたい。

 ──という訳で4人を殺すのには、爆弾を使用する事にした。爆弾を使うと俺が作ったという事がバレてしまう可能性もあるが、そんな事よりも奴等を一気に消し去ってしまうという快感には抗えそうにない(単にそれ以外の計画を練るのは、大変そうだったというのもある)。

 計画に本格的に取り掛かる事にした日から、インターネットや図書館などで、爆弾に関わる情報を集め、こっそりと材料なども集め始める。自分の自転車を漕いで、なるべく遠くの廃工場などへ行き、そこで実際に爆薬を使用してみたりするなどの実験も行っている(爆薬には主に農薬から抽出した物を使用している)。

 そして、密集さえしていれば数人は一気に吹き飛ばしてしまえそうな威力を持つ、『爆弾』を作る事に、俺は成功していた。


 問題はどうやって4人だけを同じ場所に集めるかだが、俺はなるべく1人ずつ順番に運動場の隅にある、用具室に集まるように言伝てした。そこには体育祭のような大きなイベントでしか使わないような器具が仕舞われてあり、小屋のような建物に集まるようにメンバー全員に伝えた。そこは奴等の溜まり場でたまにだが、そこで屯っている場所であり、用具室の扉に付いてある南京錠の合鍵を何故か奴等は所有している一応、それが俺をイジメている主犯格の指示であると、放課後になってから伝えてあった(首謀格には他のメンバーが来て欲しいと言っていると伝えた)。


 放課後、俺に呼び出された連中が、用具室へと集まって来ている。俺はその様子を、少し離れた校舎の陰から監視していた。最後の一人が集まったのを確認したから、タイミングを見計らい、爆弾のスイッチを入れる予定だ(爆弾はすでに用具室の隅に、わからないように設置してある)。

 ちなみに4人の内訳のザッとした説明になるのだが、全員が俺と同じクラスの生徒であり、一人は女子だ。


 用具室にはすでに3人が集まっている。後は主犯格のメンバーが集まるだけなのだが、なかなかやって来るのが遅い。ソワソワしながら様子を観ていると、

「お前、そんな所で何してんの?」

と、後ろから誰かが声が掛けてきた。

 驚いて振り向く。それは遅れていた主犯格のメンバーだった(名前は瀬川マサキという)。


「おっ?オタも一緒に来たの?」

 用具室に入ると、正面の平均台に座っている、チャラついた感じのチビがそう言った。こいつの名前は富士野ふじのシュウタ。

「またオタをいじって遊ぶ為に集まったのか?放課後はそんなに暇がないんだけどな」

 俺の右斜め前辺りにいる、諸々の小道具が置かれてある棚に、尻をかけてもたれ掛かっている、背の高い男がそう言った。こいつの名前は築山つきやまコウヘイという。

「このまま、どっかに遊びに行かない?オタもいるしさ」

 左側のマットの上に、体育座りしている女子がそう言った。名前は古谷こたにマイカという。

「こいつの様子が怪しかったから、見張ってたんだよ。お前らを集めたのもこいつの仕業だ」

 みんなの視線が、一気に俺に集まった。

「なんでそんな嘘ついたの?」

「それはわからない。なんで俺たちをここに集めたんだ?」

 俺は学校指定の鞄を胸の前で抱きかかえながら、俯いて立ち尽くしている。頭をフル回転させて、どうするべきかを考えていた。とりあえず、嘘でここに集めた理由は誤魔化して、なんとか取り繕うべきだろうか?

「なんか怪しいな……。その鞄に何か入ってるのか?」

 右斜め前にいる築山がそう言った。俺は内心ギクリとする。

 そして、前にいるチビが俺から鞄を強引に取り上げた。それから鞄の中を漁りだした。

「……なんだコレ?」

 チビが俺の鞄の中から『トランシーバー』を発見した。実はこれが俺の爆弾の起爆装置だ。近くで爆弾側の受信機と周波数を合わせ、起爆をさせる仕組みになっている。ちなみに爆弾は、用具室の入り口の右側の隅の床に、段ボールに入れて置いてある。

「なんだよコレ。これで誰かと連絡取るつもりか?」

 チビがトランシーバーのスイッチを入れ、「もしも~し」とか言って遊んでいる。

 俺は急いで駆け寄り、トランシーバーをチビから奪おうとしたが、駄目だった。後ろにいた瀬川に、すぐ羽交い締めにされてしまった。

 チビがトランシーバーの上に付いている、周波数を合わせるつまみを少しだけ回した。するとノイズ音が小さくなり、代わりに低い『ピーッ』という音が鳴りだした。

 俺は内心、驚愕している。これは爆弾側の受信機との周波数が合わさった時の音だ。この音がした後、5秒後に爆弾が爆発する仕組みだ。

 俺は瀬川の羽交い締めから逃れようとしたが、まったく上手くいかない。

「……はやく逃げろ!爆弾が爆発するぞ!」

 俺はそう叫んだが、4人は逃げようとはしなかった。

「いきなりなに言いだしてんだ、コイ……」

 チビがそう言い終わる頃、用具室は眩い光と、とてつもない熱風に包まれていた。

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