第12話 不知

砂埃の中から見える女型の魔物が日本刀をグッと握るのが見えた。


「来ます!」


サヤが僕に警戒を促した。


ドン!!!


一瞬だった。

僕は魔物の攻撃を剣で受けたが、5メートルほどだろうか?いや、10メートルぐらいか?奴の衝撃で後方に飛ばされ、壁に背中を打った。

圧倒的スピードだった。マッチョンで強化した僕でも歯が立たないぐらいのスピードだ。

レベルが違い過ぎる。

攻撃の直撃を剣で防ぐのがやっというところだった。

これは不味い。

一体こいつは何者なんだ?僕の物語にはこんな奴はいない。もしかしたら負ける?

僕は色々なことに考えを巡らせた。


「また来ます!!」


サヤが叫ぶ。

速すぎる。また僕は10メートルほど飛ばされた。

女型の魔物は飛ばされている僕よりも速く僕の後方に周り、攻撃を仕掛けてきた。

僕は空中で体勢を変え、女型の魔物の攻撃を剣で受けた。

また、僕は10メートルほど飛ばされた。

僕は女型の魔物にピンポン玉のように弄ばれた。

飛ばされた先で女型の魔物が攻撃を仕掛けてくる。


「グハッ」


僕はまた身体を壁に打ちつけた。

このままだと確実に負ける。

呪文を使うしかない。

上手くいくかわからないが覚えたての呪文ムータイで時をコントロールするしかない。

女型の魔物が刀を握り直した。


「サヤ!ムータイ発動だ!!」


僕が指示を出すと光の玉がサヤから飛び出し、僕の身体の中に入った途端、僕以外の物と時が止まった。いや、正確にいうと超スローモーションになった。

女型の魔物が砂埃をあげて、こちらにゆっくり向かってくる。

僕はスローで動く女型の魔物に近づき、身体を剣で斬った。

女型の魔物は斬られことすら気付いてない。


更にもう一回、斬る。


更にもう一回、斬る。


僕はムータイの持続時間である30秒間、女型の魔物を斬り続けた。

あと、5秒、4秒、3秒。

僕はサッと間合いを取る。

2秒、1秒。


「グゥァー!!」


女型の魔物が叫び、身体中の傷口から血が噴き出した。

僕の30秒間の攻撃が1秒に圧縮され、女型の魔物を襲った。

女型の魔物は、口から血を吐きながら苦しんでいる様子だった。


「グワァ、オマエ、オモッテタ、ヨリモ、ヤルナ」


魔物が話し出した。


「アノ、オカタニ、ツタエナイト」


魔物は背中から羽根を出し、飛び立とうとした。

しかし、魔物は僕に受けたダメージが大きかったせいか上手く飛び立てずにいた。


「もう、よい。楽になれ」


もう一体、大きな剣を持った魔物が女型の魔物の後方から現れ、彼女の背中を切り裂いた。


「グゥァー」


女型の魔物は地面に倒れ込み、息を引き取ったようだった。

この目の前に現れた魔物は何か違う。

圧倒的な強さを感じる。

僕は剣を握り直した。

しかし、この人間の言葉を操る魔物は何者なんだ。

僕の頭の中で様々な思考が駆け巡る。


「いくぞ」


大きな剣を持った魔物はそう言うと、剣を振り上げ、勢いよくおろした。

高速の斬撃が僕を襲う。

僕はかわすことが出来ず、剣で受けた。

その衝撃はあまりにも強く、マッチョンで強化した身体にもダメージを与えた。


「健太!」


サヤが叫ぶ声が聞こえた。

僕はそのダメージのあまり吐血し、辛うじて地べたに倒れ込まずに済んでいる状態だった。


「健太、まさかお前が世界の改変能力に目覚めるとはな」


大きな剣を持った魔物が話し始めた。

どこかで聞いたことのある声だ。


「世界はまさに虚構であることがわかったようだな。しかし、こんなにもくだらない世界に変えおって」


親父だ。この声は親父だ。

大きな剣の魔物は僕の父、神文春樹だった。

ゼェゼェ言う僕の前で父は話続けた。


「健太、お前が今使っている能力は神文家の者しか使えない世界を改変する力だ。これは神文家の中でも選ばれし者しか使えない。お前はたまたま文章を書くことを続けていたから覚醒したんだろうな。俺もそうだった」


サヤや魔物をこの現実世界に呼び出したこの力は神文家のものだったのか。


「しかし、お前はこの神文家の力、イマジンを自分だけの為に使った。しかも、こんなにもくだらないことに。このイマジンは人類全体を巻き込むんだ」


親父の説教は続いた。僕だって望んでやったわけではない。こんなことを急に言われるなんて理不尽だ。僕の中で怒りが湧いてきたのを感じた。


「うるせえ!!」


僕は立ち上がり、剣を親父に向かって振り下ろした。


「くそ!」


親父は大きな剣で防いだ。

僕は何度も何度も剣を振り回した。


「無駄なことはやめろ。健太、お前は俺に勝てない」


僕は親父に何を言われようが止める気はなかった。

僕は僕の書いた物語がくだらないものと言われたのが悔しかった。

サヤが否定されたのが辛かった。

勝てないことぐらい僕だってわかってる。

もう、呪文も使えないから一発逆転のチャンスなんてありもしない。


タッタラー


こんな時にまさかレベルアップの音が聞こえてくるなんて。

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