第11話 大勢

「これはどこから見ていいかわかりませんね」

サヤは目をキラキラさせながら周りを見渡した。

「そうだね。でも、とりあえずちょっ疲れたから休暇しようよ」

僕はショッピングモールに入ってすぐのカフェを指差した。

「何を言ってるんですか?着いてすぐに休憩なんてダメですよ」

サヤは早くお店を見て回りたそうであった。

「あ、でもあれ美味しそうですね!」

サヤは新作のフラペチーノを指差した。

僕はサヤの気持ちがカフェによっていくのがわかった。女の子は甘い物に弱い。これは女慣れしてない僕でもわかる事実だ。

「じゃあ、あれ飲んでからゆっくりモールを回ろうよ」

僕はサヤの気持ちを汲んで再度カフェに行くことを提案した。

「仕方ないですね。健太がそこまで言うのならカフェに行きましょう」

サヤは目をキラキラさせ、フラペチーノの広告を見上げた。

「あーやっぱり、ズタハのコーヒーは苦くて目が覚める」

ブラックコーヒーのガツンとした苦味が僕の脳を刺激した。

「よくそんな苦いもの飲めますね」

サヤは目当ての新作のフラペチーノを吸った。

「わかってないね。ブラックの苦味が読書したり、執筆したりするのにちょうどいいんだよ」

僕はコーヒーの入ったカップをを持ち上げた。

「私には理解出来ないですね。こっちの方が甘くて絶対美味しいのに」

そういうとサヤはフラペチーノを思いっきり吸った。

「キャー!!」

僕らがカフェでゆっくりしていると、突如モール内で女の子の声が響いた。

もちろんこの悲鳴は僕らの耳にも入った。

「魔物だ!」

僕とサヤは目を見合わせた。

「早く行かないと!」

サヤは僕よりも早く立ち上がり、悲鳴の聞こえた方へ向かった。

僕はサヤの後を追った。

モール内にあるイベントなどで使えそうな大きなスペースの近くに、魔物がいた。

あんなところにいたら本当にヒーローショーみたいだ。

魔物は巨大な蛇だ。

胴体は木のような太く、大人でも簡単に丸飲み出来そうだ。

「大丈夫。僕はこの魔物を知っている」

僕は魔物の前に立ちはだかった。

「サヤ!剣を!」

僕はサヤから剣を抜いた。

「あっん!」

サヤの声が響く。やっぱり少し調子が狂う。

「サヤ!マッチョン発動!」

僕は速攻で強化呪文を唱えた。前回の戦闘でははじめに呪文を使わなかったからダメージを受けた。しかし、今回は同じミスをしないようにした。

「はい!健太!」

サヤの口から光の玉が飛び出し、僕の身体に入る。

僕の身体はみるみる筋肉が付き、力強くなった。

「速攻で決めてやる!」

僕は大蛇の魔物に切りかかった。

「グゥァー!!」

傷口から血が飛び散る。

魔物の身体に傷をつけることができた。

しかし、魔物の皮膚は硬く一刀両断というわけにはいかなかった。

この大蛇の魔物は僕が決めた物語の設定では前回の魔物と大してレベルの差がないことになっている。つまり、今の僕なら勝てる。

しかし、前回はマッチョンを2回使ってやっと勝てたわけだから今回も、もう一度使うべきか?呪文は3回までだ。まだ相手の出方を考えた方がいい。

「グゥァー!!」

魔物が巨大な尻尾を振り回した。

モールを支えるコンクリートの柱に尻尾が当たり砕けたコンクリートが僕らに飛んできた。

「危ない!」

僕はとっさにサヤを守る為に盾になった。

「うぐっ」

僕はコンクリートの破片をもろに食らった。

「大丈夫ですか!?健太!」

サヤが焦った表情でうずくまる僕に近づいた。

「大丈夫だ。やっぱり呪文は凄いよ。この程度の攻撃なら致命傷には至らないな」

僕は痛みこそ感じたがまだまだ戦える実感があった。

前回の戦闘経験を活かして、はじめにマッチョンを発動させたのは作戦勝ちだ。

僕は立ち上がり、剣をしっかり握り直した。

さぁ、ここからどうするか?

相手は俊敏なタイプの魔物ではない。しかも、身体は大きいから的もでかい。

ザゲキを試してみるか?

まだ2回呪文は使える。ザゲキで仕留め損ねても、またもう一回ザゲキを使うことも出来るし、マッチョンで更に肉体を強化するのもありだ。

「よし、サヤ!呪文だ!攻撃呪文ザゲキ発動!」

僕は大きな声で叫んだ。

「はい!」

サヤが返事をすると、サヤの口から光の玉が飛び出し、僕の身体の中に入り込んだ。

僕が天に剣を向けると、剣が金色に輝き出した。

僕は思いっきり、剣を振り落とした。

「ザゲキ!!」

金色の斬撃が魔物に向かった。

「グゥァー!!!!」

大蛇の魔物は完全に真っ二つになった。

「やった!」

僕はサヤとハイタッチをした。

魔物はザゲキによって完全に機能停止状態だ。

はじめて使ったがザゲキがここまでの破壊力があるとは驚いた。


タッタラー!


ゲームでよく聞くような音が聴こえてきた。

「健太、今の戦闘でレベルが1上がりました」

サヤが説明をする。


タッタラー!


またしても、ゲームのような音が流れる。

「レベルが上がったおかげで、新しい呪文を覚えました。ムータイという呪文です。ムータイは特殊呪文で、自分以外の時間の流れを30秒間ハイパースローにすることができます」

サヤがしっかり説明した。

僕は早速良い呪文を覚えることが出来た幸運を喜んだ。ムータイが使えたら、高速で移動する敵でも攻撃を当てることが出来る。ムータイの発動中に連続で攻撃しまくるのもありだし、ザゲキをお見舞いするのもありだ。時間操作系のスキルはチートにしてくれる。

しかし、覚えたての呪文に喜んでいると…


ダーン!!!


急に天井から何か落ちてきた。しかも凄いスピードで。

コンクリートの床は粉々に砕け、大きな砂埃を巻き上げていた。

砂埃の中から日本刀のなうな物を持った女型の魔物が見えた。

その女型の魔物は黒いボディスーツ姿で、背中から悪魔のような翼がついていた。

僕はこんな魔物知らない。

僕の物語にこんな魔物は出てきたことがない。

というか、僕はこんなにスタイルの良い魔物を書いていない。

一体、この女型の魔物は何者だ。

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