第10話 休日

「さぁ、今日は休日です。どこかに出かけましょう」


サヤが張り切ってカーテンを開ける。


「うぁ」


僕は窓から注ぐ光に目を細めた。


「何やってるんですか?健太。もう朝9時です。朝ごはんを食べて外にいかないといけますせん」


サヤはやけに張り切った様子だった。


「えっ、今日予定あったっけ?」


僕は目をこすりながら聞いた。


「いえ、何もありませんよ。でも、外に出かけるんです。私は出かけたいんです」


サヤは胸を張って言った。


「えっ、僕はもう少し寝てたいよ。昨日の魔物との戦いで身体はボロボロなんだから」


「何を言ってるですか?寝ればHPは全回復です。健太の身体はどこもボロボロではありませんよ」


確かにサヤの言う通り、僕の物語では寝れば回復する設定だ。


実際、僕の身体は健康そのものだった。


「あっ、本当だ」


僕は自分の身体のさまざまな部分を触ってみたが痛みは感じなかった。


「でしょ?じゃあ、行きますよ」


サヤは寝起きの僕の手を引っ張った。


おいおい、朝から刺激が強過ぎないか?


僕はサヤに握られた手をほどくことが出来ず部屋を出ることになった。


僕とサヤは母さんの用意してくれた目玉焼きとトーストに加えてヨーグルトを食べた。


そして、身支度をさっと済ませ、出かけることにした。


「サヤ、ちょっとどこに行くんだよ」


サヤは僕の手を握り元気に歩き出す。


僕はサヤとこうやって手を繋いで歩いていると自分がリア充というやつになってしまったような気がしてきた。


だって今、手を繋いでいる女の子は美少女のサヤだ。


一般的に誰がどこから見てもスタイルも良いし、顔も可愛い。


その子と手を繋いでいる自分は控えめに言ってもリア充だ。


「もうすぐ駅ですね。電車に乗りましょう!」


サヤはまるではじめて電車に乗る子供のようにワクワクが隠せない様子であった。


「ちょっと、一体どこに行くんだよ」


僕はサヤに心も身体も引っ張られながら、素直な疑問を口にした。


「何を寝ぼけたことを言ってるですか?昨日テレビでショッピングモールについての特集やってたじゃないですか?行きたいねって話になったじゃないですか?」


サヤはほっぺを膨らませた。


「ああ、そう言えばそんなこと言ってたな。でも、今日行くとか言ってたっけ?」


「本当に健太はわかってないですね。少し電車に乗ればそのショッピングモールに行けるんですよ。そして、今日は休日ですよ?行くなら今日でしょ!?」


サヤはさも当然のように話した。


電子に乗ると僕とサヤは若い男の子にジロジロ見られた。


それもそのはずだ。


やっぱり他人が見てもサヤは美少女だからだ。しかも、その美少女を連れているのが僕みたいなパッとしない男子高校生なんだからやむ終えない。


しかし、僕は若干の恥ずかしさを感じつつも少しばかり優越感を感じずにはいられなかった。


僕は女の子が苦手だ。


小学校の時に好きだった真子ちゃんのことを思い出すと胸が今でも苦しくなる。



「健太って真子のこと好きらしいぜ!」


クラスのイケてるグループの代表的存在の大輔が大声で言った。


小学校3年生の僕は何も言えなかった。


何か大輔に言い返したかったが、クラスの中心人物にこの僕が何か意見を言うなんて無理な話だ。


カーストが違うのだ。


この学校という世界ではイケてる奴が頂点に君臨し、僕みたいなイケてない奴らには人権なんかない。


だから、僕は学校があまり好きではないし、イケてる奴らも嫌いだ。


この21世紀の日本には未だにカースト制度が存在するんだ。


「えーちょっとやめてよ!」


真子が大輔に抗議した。


そう、カースト最低な男に好かれるなんてあってはならないことなんだ。


もし万が一好かれてしまったら、その子のカーストも下に落ちる。


僕は大輔と真子のやりとりをただ黙って見ていた。


「だって、健太って気持ち悪いし、絶対嫌!」


真子ちゃんがみんなの冷やかしを止める一撃を放った。


流石の大輔も真子ちゃんをイジるのをやめた。それにクラスのみんなも倣った。


確かに冷やかしは落ち着いたが、僕の心は木っ端微塵だった。



僕の女の子対する苦手意識の原体験がこれである。


リア充なんてこんな経験をしていたらなれるはずもない。


そもそも女の子が怖くて彼女を作る気なんかおこるはずない。


だから、こうやってサヤと手を繋いでいる現実は奇跡のようなことなんだ。


「さぁ、着きましたよ!健太!何をボーッとしてるんですか?」


サヤは大喜びだった。


僕らはショッピングモールに到着した。

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