第8話 妹

「お兄ちゃん、早く早く!」


美香はウキウキした様子で僕を急かす。


「本当に飽きないよな」


僕はやれやれと思いながら妹のお願いを聞いてあげることにした。


僕は足元の小石を拾い、川に投げた。


小石はぴょんぴょんと3回跳ねたあと川に沈んだ。


「凄い、凄い!」


美香は手を叩いて喜んだ。


美香は少し身体が弱い。


よく風邪もひくし、あんまり体力がなかったから同い年の子と遊んでもすぐ疲れてしまう。


そんな美香は小学生の頃は同級生と遊ぶよりも、僕と遊ぶことが多かった。


僕は美香の身体のこともよくわかってるし、美香が調子に乗って遊び過ぎないようにも誘導出来た。


「美香、そろそろ寒くなってきたから帰るぞ」


「えーもう一回やってよ」


「ダメダメ。風邪ひいたらどうするんだ」


「うん、わかったよ。でも、明日もまたここに来ようね」


美香は妹らしく可愛い笑顔でニッコリした。



ドンッ!


僕は躓いた。


転けてはいけないタイミングで転けてしまった。


なんでこんなとこに小石が沢山あるんだよ。


僕は地面についた手を見ながら思った。


美香、本当にごめん。


今あいつに逃げられたらもう間に合わないかも知れない。


何やってんだよ。俺は。


自分で生み出した魔物のせいで妹が死んでしまうなんて。


最悪のストーリーだ。


僕が凹んでいると、後ろから声がした。


「健太!諦めるなーッ!!」


サヤだ。追いついたサヤが僕にげきを飛ばした。


僕はサヤの言葉でハッとし、目の前の小石を握った。


まだ勝負は決まったわけじゃない。


僕は小石を持ち上げ、思いっきり振りかぶって魔物に向けて投げた。


「グゥァー!!」


当たった。


魔物は少しよろめいた。


僕は川辺で散々小石を投げてきたんだ。


案外コントロールは良いんだ。


しかも、呪文で肉体強化した僕が投げる小石はプロ野球選手のボールよりも速い。


流石の魔物もノーダメージで済む訳ない。


僕はもう一個小石を拾い、思いっきり投げた。


「グゥァー!!」


今度は魔物の顔面に直撃した。


「よし!」


魔物がバランスを崩し、空から落ちて来る。


「今よ!健太!」


サヤの声が空全体に響いた。


「おう!このストーリーの結末は決まった!」


僕は剣を握り、魔物の落下地点に向かって駆け出した。


「くらえ!!魔物!!」


魔物の腹を僕の剣がえぐった。


魔物は声にならない声を出し、倒れた。


すると、魔物の腹から淡いピンク色の光が飛び出した。


その光の玉は僕らが来た道の方へ飛んでいった。


「やりましたね。健太」


サヤが僕の側にきた。


「ああ、危なかったよ。ありがとう。サヤ」


僕はホッとすると一気に疲労を感じた。


「それにしても僕は魔物のことは知っているけど、実際戦うとなるとキツかったよ。自分で考えた魔物にここまで苦戦させられるとは」


「そうですね。知っているのと実際に経験するのでは違うってさっき言ってましたもんね」


サヤは僕をからかうかのように顔を近づけた。


サヤ、本当にそうだよ。


僕は君がこの距離にいると凄く緊張するんだ。


僕は君のすべてを知っているにもかかわらず。


「じゃあ、帰りますか。美香ちゃんが待ってますよ」


サヤは僕に背を向け、歩きだした。


「待ってよ!サヤ!」


僕は疲労で動きの悪い足にカツを入れることにした。


しかし、それにしても謎だ。


何故、サヤや魔物達がこの現実に飛び出してきたんだ。


一体何が起こってる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る