第6話 追跡
サヤは意識を集中させると、魔物の臭いを敏感に察知出来る。
僕はサヤと一緒に走り出した。
しかし、実際にサヤと並走すると、胸の揺れが気になって仕方ない。
本当に男という生き物は妹の命がかかってるというのに本当に情けない生き物だ。
「あともう少しで魔物が見える距離に入りそうです」
サヤは冷静な口調で教えてくれた。
僕とは大違いだ。
サヤは美香を助けることだけを考えている。
僕らは取り壊しの工事中の廃ビルの前に着いた。
「このビルの中にいますね」
サヤは鼻をくんくんさせながら言った。
「サヤ、僕はあと何回呪文を使える?」
そう、僕の物語では呪文の使用には回数制限がある。もし今の僕がレベル1ならあと一回しか呪文は唱えられないはずだ。
「はい、あと一回です」
今の僕は呪文を1日に3回までしか使えない。
さっきの戦闘でもう既に2回使っている。
相手は空を飛べることを考えると、残りの一回でザゲキを唱えるべきか?
ザゲキは中距離にいる敵に斬撃を飛ばすことが出来る。
しかも、その斬撃は通常の5倍の威力だ。
しかし、かわされた時は一貫の終わりだ。
かなりギャンブル性の高い戦い方になる。
どうすればいい…
「大丈夫ですか?健太」
サヤが僕の悩んでいる様子を察し聞いた。
「いや、残り使える呪文の回数を考えると…」
「確かにあと一回の呪文をどのタイミングで使うかは重要ですね。敵はビルの中にいるわけですから、飛行能力はあまり役に立たないかもですね。ザゲキを使うよりもマッチョンで更に肉体強化の方が良いのかも」
確かにサヤの言う通り、肉体を更に強化して戦う方が狭いビルの中なら追い詰めやすいかと思った。
しかし、何か引っかかる。
僕は使う呪文を決めることが出来なかった。
「仕方ない。ビルに入って魔物との戦闘の中でどの呪文を使うか決めよう。今何を考えても想定外ののとが起きたら無意味だ」
「そうですね。では、ビルに入りますか?」
「ああ、よし、行くぞ!」
僕とサヤはビルの中に入っていった。
ビルの中は電気もないので暗かった。
僕らはなるべく音を立てないように気配を殺しながら魔獣の探索を進めた。
「魔獣の臭いはもっと上の階からしますね」
サヤは鼻をくんくんさせた。
バギッ!
僕らは後方からの音に嫌な予感を感じた。
目を凝らすと、そこには黒い猫がいた。
「あら、可愛いネコちゃん」
サヤはホッとした様子だった。
しかし、サヤよりもホッとしたのは僕の方だった。
僕らはネコとお別れし、上の階を目指した。
「かなり近いです。気をつけてください」
サヤは緊張した口調で僕に警戒心を高めるよう言った。
「了解」
そう言うと僕は唾を飲み込んだ。
「危ない!」
サヤの声がコンクリートの壁で反響する。
魔物が僕の左側から急に現れた。
大きな柱の影に隠れていたようだった。
僕は咄嗟に身を伏せ、魔物の一撃をかわした。
「出たな!魔物!」
僕は魔物に剣を向けた。
「グゥァー!!!」
魔物は雄叫びを上げる。
僕と魔物は睨み合った。
どちらが少しでも動けば即戦闘開始だ。
僕はどう出るべきか考え続けていた。
すると、魔物の正面から攻めてきた。
僕はサッと身をかわし、魔物に向かって剣を振った。
魔物は己の強固な爪で僕の攻撃を弾いた。
僕らはその場で、攻撃、回避、攻撃、回避をひたすら繰り返した。
恐らく、運動能力はほぼ互角。
このままではらちがあかない。
体力だけが無駄に消耗していくのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます