第4話 魔物

僕らが美香がいるリビングに行くと、そこには身長2メートル程の人型の魔物が立っていた。


その魔物は僕達の気配を感じると、ゆっくり振り返り僕らの方を見た。


美香はその魔物の足元で静かに横たわっていた。


まさか、こんなことになるなんて。


僕は恐怖と怒りの入り混じった感情によって拳を強く握った。


「健太、まだ美香ちゃんは大丈夫」


サヤが魔物の動きをしっかり目で追いながら言った。


「うん、これは僕の書いている物語に出てくる魔物だ。つまり、僕はこいつを知っているし、美香の助け方もわかってる」


「健太が冷静で良かったです。8時間以内にあの魔物の腹を切り裂いて、美香ちゃんの魂を取り返さないと、美香ちゃんは死んでしまう」


そう僕らは8時間以内に魔物の胃から魂を取り出さないといけない。


僕の書いているライトノベルの設定と同じだ。


魂が消化されてしまう前に魂を開放しないと、魂を抜かれた人間は死んでしまう。


しかし、美香はある意味幸運だ。


僕とサヤがいれば魔物の腹を引き裂くことが出来る。


きっと助けることが出来る。


「サヤ!剣を!」


僕は魔物を睨んだ。


「はい!」


サヤが胸を張ると、溝打ちあたりから剣の柄の部分が飛び出してきた。


僕はそのサヤの身体から出てきた柄を強く握って、思いっきり抜いた。


「あんっ」


サヤの可愛らしい声が響く。


僕はその声に少し調子を崩されそうになるが気を取り直し、剣を強く握り直した。


「いくぞ!」


僕は剣を大きく振りかぶって、魔物に向かって剣を下ろした。


側から見たらまるでスイカ割りだったんだと思う。


魔物はサッとかわした。


「くそっ!」


僕は魔物に一撃を食らわせそびれた。


「健太、危ない!」


魔物の爪が僕を襲う。


僕は咄嗟に剣を盾にして肉体への直撃を避けたが身体が飛ばされ、壁に背中をぶつけた。


「痛っ!」


「大丈夫ですか?健太」


サヤが僕の側に駆け寄る。


「大丈夫。これぐらい」


僕の人生史上、一位になるぐらいの強がりを口にした。


「サヤ、僕達はどんな呪文を使える?」


そう、僕のライトノベルでは呪文が存在する。


僕がサヤに指示を出すと、呪文が発動する。


呪文には回復呪文、強化呪文、攻撃呪文などがある。


「健太は回復呪文イヤシ、強化呪文マッチョン、攻撃呪文ザゲキが使えます」


「わかった。ありがとう」


僕はこれだけ使えればこの魔物ぐらい倒せると思った。


「よし、イヤシ、マッチョン発動だ」


サヤは「承知しました」というと、口の中から2つの光の玉を出した。


その玉は僕の身体に入り、僕の身体が一瞬輝いた。


「これは凄い。全然痛みがない」


イヤシの効果でさっきの魔物攻撃に傷が癒えた。


イヤシは発動前に受けた攻撃を無効化し、攻撃を受ける前の状態にまで回復させる。


次に、僕の身体がみるみる男らしい筋肉質になった。


これはマッチョンの効果だ。


これを使うと筋力が普通の人間の2〜3倍にまで跳ね上がる。


「よし、これならいける。サヤ!ありがとう!」


僕はもう一度剣をしっかり握り、大きく振り上げた。

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