第2話 出現

「うぁー」


僕は目を覚ますと、隣の席に座っているサヤと目があった。


クラスのみんながクスクス笑い出す。


先生はそんな僕を横目に淡々と授業を続けた。


僕は、ブレザー姿のサヤに違和感を感じながらも黙って凝視した。


すると、サヤがニコッと笑った。


なんで?サヤが何故現実の世界にいるんだ?


僕は頭が混乱した。


もしかしてまだ夢なのか?そう思った僕は自分の太ももの肉を強くつねった。


「痛いっ!」


やっぱり現実だ。


かなり古典的な確認の仕方だったがリアリティのある痛みだ。


目の前のサヤに話しかけたいが、今は授業中だ。


僕はこんなにも時計の針の進みが悪い授業も久しぶりだと思った。


キーン、コーン、カーン、コーン


授業の終わりを知らせるベルがなる。


やっと授業が終わった。


僕は手早く教科書や筆箱を鞄になおし、サヤに小さな声で「帰るぞ」と言った。


サヤはコクっと頷き、僕の後をついてきた。


「この辺なら大丈夫か」


僕は人気のあまりない道で呟いた。


「君はサヤだな?なんでこの現実に君がいるんだ?」


僕はサッと振り返り、目の前の美少女に尋ねた。


「なんでも何もないですよ。あなたが私を書き続けた。だから、私は今ここにいるんです」


なんて可愛らしい声なんだ。


僕はサヤの発した言葉の内容よりもサヤの肉声が聴けたことに感動した。


「僕がライトノベルを書き続けたから君が現実の世界に現れたのか?」


僕は感動を抑え、冷静な口調で聞いた。


「はい、そうですよ。文章は世界を変えます。この世界は虚構なんです」


サヤは胸を張って言い切った。


世界は虚構…


そう言えば昔、作家の父さんがよく言ってたな。


文章は世界を変える力がある。


やはり作家だけあってそう信じていたんだな。


僕の父親は有名な小説家だ。


今は作品を作るために世界各地に赴き、様々な場所での経験を文章に変え、物語を作っている。


旅する作家だ。


その父さんの書いた本が凄く売れるから、母さんも僕も妹の美香も不自由なく暮らしていけている。


でも、僕は父さんがあまり好きではない。


作家の父さんには仕事もプライベートもなく、常に文章を書いている。


父さんと遊んだ記憶なんて数えるほどしかない。


だから、僕は父さんに対してなんの愛着も持ち合わせてないんだ。


今頃、父さんはどこで何をやってるんだろうか。


まあ、僕には関係ない話だ。


僕にとって父さんの方がよっぽど虚構な存在だ。


「虚構ね…確かにサヤの言う通りかもね。ところで君は僕以外の人間にも見えるの?」


「見えますよ。世界はそう書き変わったので」


凄いな。こりゃ。


僕は自分の想像力、いや創造力の凄さに感動した。


「じゃあ、今から家に帰るんだけど僕の家族が君を見ても何も驚かない?」


「そうですね。私が健太と一緒に暮らしているというのが当然の世界に書き変わっていますので何も問題ないです。ちなみに健太の部屋に居候している女ということになってます」


こうして僕とサヤの不思議な生活が始まることになった。

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