-o-o- 30

「てゆーか」


玉邑たまむらはあれから喋りっぱなしだ。

お陰で購買に着くまで退屈はしなかった。

一人で行く20倍は耳と精神が疲れたが。


「メガネなんて要らないじゃない、コンタクトでいいじゃない」


買い出しメモリストの内容を探してはカゴに入れる指が止まる。

表情筋が震えた。ノーズパッドが小さく音を立てる。


「何よそのムダな枠とか耳かけ部分とか。馬鹿じゃないの?」

「テンプル」

「え?」


鋭くも大きな玉邑の目が更に丸くなってこちらを見た。


「テンプルだ」


ここだ。


テンプルをつまんで眼鏡の位置を正す。

やはり左ヒンジが少し緩い。

直したい。


「どこの油固めるのよ」


口と足だけが動いていた玉邑が初めて商品棚に手を伸ばす。

買い出しリストにはない油処理剤だ。

……購買にあるのか。


「買うなら自腹よ」


「……いや、いい」


なによわざわざ取ってあげたのに。

そう言いたげな棚への戻し方だった。


品物への一切の乱暴を除外したまま毒を表現できるのは、最早特技と言えよう。

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