-o-o- 10

「まゆ」


「おー、ゆきえ。今日は早いわね……ん?」


背中まであるストレートの黒髪。

前髪は眉下でぱっつりと切り揃えられている。

ノースリーブの紫ワンピースにいくつかネックレスを下げたレギンス姿の"まゆ"と呼ばれた彼女は、僕の存在に気がついた。


「岡本、かずゆき君。です」


「あの、はじ、はじめまして!」


衝撃的な登場シーンに、背中に走った緊張が大きな声を出させた。


「ふ〜ん、新入部員?」


僕の目を見たまま、ずい、と一歩近づいてくる。

すすっ、と一歩後ずさる。

うぅ、すこし、こわい。


「いや……そうじゃなくて、あの……色々ありまして、なんか、その……」


ずずい、と更に一歩。

視線を僕の目からまったく離さぬまま、目と鼻の先まで近づいてきた。

背丈は僕よりずっと低いのに、ものすごく強大に思えてしまう。


「気が変わりなさい。今すぐ帰ったほうが身のためよ、こんなとこ」


「えぇー……?」


ワイルドな組織の勝ち気なヒロインからしか聞いたことの無いようなフレーズが飛び出してきて、全身の力が抜ける音が声になってしまった。


彼女はそれだけ言うと

小さくため息をつきながら身をひるがえ

肩にかけたカバンを下ろしながら

たぶん部室こんなとこの端にある大きな棚の方へと歩いていった。

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