-o-o- 6

ハスキーボイスの主は、落ち着いた、いや、眠そうな女の人だった。

ボーイッシュな髪型に、メガネ。

四角いんだけど、縁らしい縁が見当たらない。クリア素材?

鼻のとこある豆みたいな形のやつも無い。

不思議な眼鏡だなぁ。


「なんか、ごめん……」


怒りを込めたかくかくしかじかに、彼女がため息交じりに謝った。

赤いメガネはもう僕のことなど見てすらいない。

部屋のドアを開けたり閉めたりしながら、誰かを待っているようだった。


「あたし、明城みょうじょうゆきえ。環境3年」


机に置かれた書類棚を漁りながら、のんびりした声がした。

ああ、よかった。まともな人に出会えた。

しかも一個上。


「岡本です。機械2年です」

「んー」


探しものをしている明城先輩に会釈する。

たとえ誰も見ていなくても、自己紹介では頭を下げてしまうタイプです。


「フルネーム、いい?」


明城先輩は書類棚から一枚の紙を取り出し、僕の前に差し出した。

ご丁寧に、"氏名"と書かれ下線の引かれた入力欄付きの紙だ。


「あ、はい」


言われるがまま、念の為に持ってきておいた筆箱からペンを取り出す。

岡本 一行……と。

もう少しキレイになりたいなあ、字。

練習する気も無いんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る