第11話 見られた。知られた。参加しようとして来た
「······金梨さん?あれ?俺部屋間違った?ここって不方の部屋じゃ?」
広くも無い玄関に立ち尽くす稲荷孝さんは
、上ずった声で私と不方さんを凝視していた。ふ、不方さん!何でドアの施錠をしていないんですか!?
「不方さーん。聞いて下さいよー。この馬鹿兄貴に居酒屋に付き合わされて······」
稲荷孝さんの背後から頭を出して来たのは、その妹の稲荷果歩ちゃんだった。
「······え?か、金梨さん?」
兄の稲荷孝さんと同じく、アルコールで頬が朱色になっていた果歩ちゃんが、私を見て不審な声を漏らす。
か、果歩ちゃんまで!!ど、とうする私?
こ、この状況を二人にどう説明すればいいの
!?
状況説明仮案 ①
「今晩は。稲荷さん。果歩ちゃん。今、不方さんと一緒にご飯(粉ミルク)を食べて。いえ、飲んでいたの。粉ミルクってとっても栄養があっていいのよ。あ、果歩ちゃんはダイエットしてるのよね?粉ミルクってダイエットにもいいかも。ふふ」
「ふふ」じゃねーよ私ぃぃ!!だ、駄目よ!!こんな言い訳!!私が仰向けに不方さんの膝の上に寝ているこの状況をどう説明すんのよ!?どうやって二人に納得して貰うのよ!?
状況説明仮案②
「今晩は。稲荷さん。果歩ちゃん。今不方さんと乳児プレイごっこしていたの。この遊び
は童心に帰れるとても崇高な遊戯なのよ。良かったら二人もどう?あの頃の純粋な心を思い出してみない?うふふ」
だがら「うふふ」じゃねーよ私ぃぃぃ!!二人を乳児プレイに誘ってどうすんのよ!?幼児プレイを認めてどうすんの!!と、言うか?乳児の頃なんて童心以前に記憶が無いわよ!!赤子の頃に戻って何になるのよ!?
······だ、駄目だわ。私の混乱する頭ではこの状況を二人に納得して貰う説明が出来ない
。もう終わりだわ。
私と不方さんは夜な夜な乳児プレイをする変態カップルと思われてしまった。もう全てが終わりだわ。
明日にはこ噂が界隈町を駆け巡り、もう私はこの町に居場所を失ってしまうのよ。
「······そうか。幾ら俺が誘っても金梨さんが乗ってくれないのは、そう言う事だったのか
不方と金梨さんはそう言う間柄だったのか」
顔を俯かせながら、稲荷孝さんは両肩を震わせながら重苦しく口を開く。か、確定だわ
。稲荷さん兄妹に完全に乳児プレイカップルと誤解されたわ。
「······でも!それでも!!俺は諦めない!!俺は金梨さんが好きだぁっ!!」
稲荷孝さんが靴を脱ぐのも忘れてそのまま一歩部屋に踏み込んで来た。な、何?い、稲荷さん?今なんて?
「金梨さん!!俺!求められるなら乳児プレイだって出来るから!!実はそう言う風俗店
、上司に誘われて行った事があるんだ!!正直に言うと、そんなに嫌いじゃ無かった。だから!だから俺、乳児プレイオッケーだから!!」
要らんわそんなカミングアウトォォ!!と、言うか別の意味でそれアウトよ!!それは一生貴方の心の中に貼り付けておいて下さい!!
稲荷孝さんが突然の告白とカミングアウトをした刹那、今度は妹の果歩ちゃんがハイヒールのまま踏み込んで来た。
「わ、私だって!!ずっと不方さんが好きだったんだから!!ふ、不方さん!私、実は同人誌でBL漫画描いているの!!BLも乳児プレイも親戚みたいな物よ!!だ、だから、私だって幼児プレイくらい出来るから!!」
妹ぉぉっ!!だから要らんっつーのそんなカミングアウトォ!!BLと乳児プレイを勝手に親戚にしないで!私がとんでもない事を言い出した兄妹に驚愕しいると、突然稲荷孝さんが床に仰向けに倒れ込んで来た。
そして次の発言に、私は口の中に残っていたミルクを再び吹き出した。
「金梨さん!本当だから!俺、乳児プレイオッケーだから!ミルクプレイだって出来るよ
!ほら!飲ませて見てよ!ミルクくだちゃい
!ばぶーっ!!」
そして兄に続いて妹が床に仰向けになる。
「ふ、不方さん!私だって出来るから!!パパっ!!マンマくだちゃい!ばぶーっ!!」
何をやっておられるんだ稲荷兄妹ぃぃっ!
!何してんのよ!!二人共何をやっているか分かっているの!?
それまで静観していた不方さんが動いたのはその時だった。不方さんは稲荷孝さんには目もくれず果歩ちゃんの頭を優しく撫でる。
「かほちゃーん。マンマはふさちゃんが終わるまで待っていてくだちゃいねー」
その笑顔。その柔らかい声色に、果歩ちゃんはアルコール分を吹き飛ばして赤面する。
「は、はい!!かほ、待ってまちゅ!!」
果歩ちゃんの歓喜の声に、兄の孝さんは駄々をこねる子供の様に身体をジタバタさせる。
「た、たかしもマンマ欲しいでゅー!ママ!ミルク!なんなら直接オッパイでもオッケーでちゅー!!」
ちょっと待て稲荷孝三十歳!!アンタ今どさくさに紛れてとんでもない事を私に要求して来なかったか!?
······界隈町またたび商店の二階には、二部屋の社員寮があった。その一部屋では、男女四人による異常な言動が何時までも響いていた。
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