第6話 惨劇の後
「片想いの男性に紙パンツを履かせて貰った事はある?え?紙パンツよ。紙パンツ。赤ちゃんが履いているあれよ。あら。ごめんなさい。ある訳が無いわよね。ふふ。え?いかがわしい風俗店の話かって?失礼ね。違うわよ。え?それって乳児プレイかって?ち、違うわよ!!プレイじゃないわよ!!本気でよ!ガチなやつなんだから!!」
······なんで独身男性(不方泰山三十歳)の部屋に紙パンツがあるんじゃい!?で、でも不方さんが手にしている紙パンツは心無しかサイズが大きいような?
その時、私は台所に置かれた紙パンツ袋を見た。その袋には、老夫婦の写真が入っていた。
な、なんで不方さんの部屋に大人用の紙パンツがあるのよ!?私はフローリングの床で背泳ぎしながら不方さんから距離を取る。
「ふさちゃんー?早くパンツ履かないと風邪ひきまちゅよー?」
お、お願い!!パパ(不方泰山)!!それだけはやめて!!それだけは勘弁して!!そ、そんな事をされたら、私もう一生立ち直れない!!
「ふさちゃんー。言う事聞かないとチューしちゃいまちゅよー?」
······え?必死に紙パンツから逃れる私の身体の上に、不方さんが覆いかぶさってきた。そして私の頬にキスをする。
それは、この呪い(乳児プレイ)が始まって直ぐに不方さんが私の頬に何度もした軽いキスでは無かった。
······それは優しく、そして長いキスだった
。迂闊にも私はその不方さんの唇の感触に身を委ねてしまった。
······そして破局は訪れた。不方さんは紙パンツ(大人用)を素早く私の下半身に通し装着させた。
私は顎が外れるかと思うくらい大口を開けて固まってしまった。
······生きる屍となった私のその後の記憶は曖昧だ。不方さんにパジャマを着せられ、敷いた布団に私を隣に寝かせて就寝。
本来なら片想いの男性と同じ布団で寝るなんてもう胸の鼓動が止まらないわ♡的な気持ちになるのだろうけど、如何せん紙パンツを履かされた衝撃がそれを上回り、呆然とした私はただミイラのように固まっていた。
そして、天井を見上げる私の視界に見慣れたポスターが映った。
······あれ?あれは私の部屋の天井に貼ったへべれケーズ(超マイナーロックバンド名)のポスターだわ。
なんでこのポスターが不方さんの部屋の天井に突然出てくるの?ん?あれ?隣で寝ていた不方さんがいない?あれれ?
「ここは貴方の部屋よ。ふさよちゃん」
······甘い薔薇の香りがした。私は虚ろな両目を声が聞こえた方に向けると、そこには、白いフリフリドレスを来た玲奈が座っていた。
······私の部屋?と、言う事は、玲奈が不方さんの部屋から隣の私の部屋に瞬間移動させたって事?
「よく頑張ったわね!立派だったわ。ふさよちゃん」
玲奈は親指を立て、私の行為を称賛した。
なんだろう。褒められても一向に嬉しくないんですけど?
「······あの。色々と聞きたい事が満載なんだけど」
生気の薄れた私のその声に、玲奈は少し困った様な表情で微笑み何度も頷く。
何故不方さんの部屋に粉ミルク、哺乳瓶、そして紙パンツ(しかもご丁寧に大人用)があったのか?
「それは私が用意させて貰ったわ。不方泰山君の欲求を満たす為に必要な物だと判断したからよ」
何故呪いにかかっている不方さんが私の名を呼んだのか?何故不方さんは呪いにかかっているとは言え大人(156cm46キロ)である私を不審に思わなかったのか?
「名前を呼んだのは不方泰山君の残留思念にふさよちゃんの記憶があったからね。後は大人のふさちゃんを疑いなく乳児として扱ったのは呪いの副産物ね。泰山君に不都合が無いように貴方が映ったのよ」
······玲奈の言う通りなんて都合のいい呪いなのよ。私がやさぐれていると、玲奈は行儀良く正座をしながら伏せる私の顔を覗き込む。
「ふさちゃん。想像して頂戴。もし、貴方が不方泰山君の欲求を満たさなければ、不方君は外出し、外で見かけた女性に手当たり次第貴方に同じ事をしたのよ」
······私にした事を?外にいる女性に?て、手当たり次第?そ、そんな事をしたら!!
「強制わいせつ罪。間違い無く不方泰山君は逮捕されるわ。そしてその犯罪行為の記憶は一切彼には残らないの」
玲奈の真剣な表情と驚くべき事実に、飛び起きる様に私は上半身を起こした。で、でも
。私が人身御供になったから、これで不方さんの呪いは解けたよのね?
「ふさよちゃん。残念だけどそれは違うわ。貴方のお蔭で泰山君の欲求は満たされた。けど、それは今晩だけの事なの。明日また夜が来れば、彼の呪いはまた発動するの」
あ、明日また?って事は、その次の日も、そのまた次の日も呪いが毎日発動するの?
ど、どうすのよ!?
わ、私、今日のとんでもない体験でお腹いっぱいよ!?あ、明日も明後日も今晩と同じ事をするなんて身も心も絶対に持たないんですけど!?
「······それはふさよちゃんの自由選択よ。不方泰山君の呪いの防波堤に貴方になって貰う。そう命じる強制権なんて私には無いから」
玲奈は神妙な面持ちで沈んだ表情になる。
ず、するい!そんな言い方って卑怯よ!不方さんが外を歩く一般女性に強制わいせつを働く行為を、分かってて見て見ぬふりなんて出来る筈が無いのに!
その時、ある疑問が私の脳裏に浮かんだ。何故この「理の外の存在」と名乗った玲奈は
、不方さんの呪いのストッパーとして私を選んだのか?
不方さんと私が同僚だっから?部屋が隣同士で私に彼氏が居ないから都合が良かったから?
······どれも違うわ。玲奈は私に言った。不方さんの暴走を止められるのは私にしか出来ないと。
玲奈な知っていた。ううん。分かっていた
。私が不方さんの暴走行為(乳児プレイ)を放って置けない事を。
「······玲奈。貴方知っていたのね。私が不方さんに片想いしている事に」
私は玲奈の表情の変化を見逃さない様に意識を集中する。すると玲奈は可愛らしい口元から舌を出して笑った。
「その通りよ。ふさよちゃん。だから貴方にお願いしたの」
や、やっぱりそうなのね!!くうっ!神の集団と名乗るだけあって、私の個人情報なんて筒抜けなのね!!
はっ!?と、言う事は!?私の脳みそがフル回転し始めた。玲奈は私を不方さんの呪いのストッパーに選んだ。
私が選ばれたと言う事は、他に適任者が不在だったと言う事に他ならない。じゃ、じゃあ!!不方さんに現在恋人は居ないって事?
そ、そうよね!そう言う事よね!!もし不方さんに恋人がいれば、その彼女にこの役目を依頼している筈よね!!
「うーん。それはふさよちゃんの想像にお任せするわ。不方泰山君のプライベートな事項を勝手に話す訳には行かないの」
玲奈が首を傾げてとぼけた口調でそう言った。何がプライベートじゃい!!人にはとても言えない濃密なプライベートてんこ盛りの乳児プレイをさせといて!!
で、でも!今の玲奈の言い方で確信出来たわ!不方さんに彼女は居ない!!普段から仕事中でもそれに関する情報にはアンテナを張っていたけど、今はっきりしたわ!
不方さんに彼女がいたら流石に絶望的だったけど、これなら私にも少しは希望があるかもしれない。
で、でも。不方さんが厄介な呪いにかかった現状を考えると、呑気に盛り上がってなんていられないわ。
······そうだ。呪いを解く方法な無いの?そうすれば、不方さんも私も元の日常に戻れる
!!
「······あるにはあるわ。不方泰山君の呪いを解く方法が」
玲奈の思わせぶりな言葉に、私は全力で食い付く。それは、私の想像を超える内容だった。
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