第5話 パパとお風呂に入るでちゅー(自暴自棄気味)

「片想いの男性にミルクを哺乳瓶で飲ませて貰った事はある?勿論無いわよね?ある訳が無いわ。ふっ。でも私はあるわよ」


 恋愛に長けたちょっといい女風に、私はすました顔でそんな事を言える身分になった。まあ。絶対に誰にも言わないけどね。と、言うか死んでも墓場まで持っていくわ。


 ······だが、そんな私の武勇伝(?)に新たな伝説が付け加えられようとしていた。それも「片想いの男性に身体を洗って貰う」と言う超弩級の武勇伝(?)だ!!


 いやいやいやっ!!いや絶対に駄目でしょうそんな事!!無理!無理よ!!私の許容範囲を遥かに飛び越えているわ!!


 だが、不幸にも地縛霊に呪いをかけられたパパ(不方泰山)は止まらない。娘(金梨ふさよ二十六歳彼氏無し)の前に座ると、私の衣服を脱がそうとする。


 ちょいちょい!!ちょい待って下さいパパさん!!わ、私二十六歳なの!!赤ちゃんじゃないの!!貴方とは一緒にお風呂なんて入れないの!!


 はっ!?そうだ!!今日の私の下着は何色

?い、いや違う!!重要なのは色じゃない!

今日の下着は一軍?二軍?


 *注釈*


 一軍とはまだ新しい下着の事で、世の女性は主に旅行や意中の男性とのデートの際着し

、その中でも選りすぐりの下着を俗に言う「勝負下着」と言われる。


 翻って二軍とは使い古されくたびれた下着であり、主に特段デートの約束も無い普通の日常に着用される物である。


 尚、一軍の下着もやがて二軍になり、二軍の下着も限界(主にゴムの弛み)が来るとハサミ等で裁断され処分される。


 余談ではあるが、これはシャツにも適用される手法であり、二軍になったシャツは主に部屋着に降格される。


 くっ!愚問だったわ!!恋人も居ない私が一軍の下着を着る筈が無かった!!今日の私の下着は間違い無く二軍(泣)よ!!


 不方さんは私のダウンベストを脱がす。はっ!!今気づいたけど、私は寒空の下で着込んだままの格好だった。


 そしてパパは私のシャツのボタンを胸元から順に外して行く。私は必死に両手を胸に当ててそれを阻止する。


「ふさちゃんー。お洋服脱がないとお風呂に入れまちぇんよー?」


 不方さんは気を悪くした様子も無く笑顔のままだ。いいんです!!ふさよ、お風呂なんか入りたくありまちぇん!!


「こちょこちょ!」


 それは突然の不意打ちだった。こちょこちょと赤ちゃん言葉を発した不方さんは、楽しそうに私の両脇腹を指でくすぐる。


 その奇襲に私は思わず胸に当てていた両手を外してしまった。パパはその隙を見逃さず

、素早く私のボタンを全て外してしまった。


 あれよあれよと言う間に、私はシャツまでも脱がされた。下着姿にさせられ、私は当然の様に両腕で胸を隠す。


 だが、それが裏目に出た。不方さんはがら空きになった背中に手を伸ばし、ブラジャーのホックを一発で外す。


 な、なんてテクニシャン(?)なの!!不方さん!?私は用を成さなくなったブラごと両腕で隠す。


 不方さんは私が両腕を使えない事をこれ幸いと今度はスカートを脱がそうとして行く。

だ、駄目!!や、やめて不方さん!!


 私は思わず両手でスカートを掴んでしまった。そ、その時!!


 不方、ふさよのブラジャーを脱がす→ふさよ。再び両腕で胸を隠す→不方、ふさよのスカートを脱がす→ふさよ、両手で股間を隠す→ふさよ、両腕で胸を隠す→不方、ふさよのパンツを脱がす→ふさよ両手で股間を隠す→ふさよ両手で胸を隠す→ふさよ、壊れる。


 いやあああっ!!茹でタコの様に全身赤面した裸の私を、不方さんは抱えて浴室に向かう。


「パパもお洋服脱ぎまちゅからちょっと待っててくだちゃいねー」


 浴室に私を降ろすと、その出口を塞ぐ様に不方さんが立つ。


 そして宣言通り不方さんは自分の衣服を軽快に脱いで行く。そ、そうだ!!一緒にお風呂って事は、当然不方さんも裸になるってことだ!!


 私の視界に不方さんの胸板が入った瞬間、私は目を逸らす。ふ、不方さんって意外と筋肉質なのね。って!ち、違う!今はそんな感想を言っている場合じゃない!!


「ふさちゃん。お待たせー」


 全裸になった不方さんが浴室に侵入して来た。め、眼鏡を外した不方さんだ。私は必死に視線を不方さんの下半身から逸らす。


 折り畳み式の扉は閉められ、広くも無い浴室と言う名の密室に大人の、しかも裸の男女が向かい合っている!!


 だ、だだだ駄目よ!不方さん!付き合う前の男女がこんないかがわしい行為をしては!


「最初は髪の毛を洗いまちゅよー」


 不方さんがシャワーからお湯を出し、流れ出る湯に手を当て温度調節をする。不方さんは床に座り、片膝を立てる。そして私を仰向けに寝かせ首を片膝の上に乗せる。


 胸と股間を隠すのに両手を使っていた私は

、抵抗する間も無く不方さんのなすがままだ


 そして不方さんは私の肩までの長さのお下げを解いていく。そして片手でシャワーヘッドを持ち、片手で私の髪の毛を優しく洗って行く。


「ふさちゃん。熱くないでちゅかー?」


 浴室に充満していく湯気の中で、私の両目に映る不方さんは本当に優しそうに笑みを浮かべていた。 


 ······な、何だろう。この感じ。心臓はずっとバクバクしてるんだけど、あ、あれ。なんかこれ。


 好きな人に髪の毛を洗って貰う。それは私の普段の無駄な妄想でも考えもしなかった事で。で、でもこれは。


 ······き、気持ちいい。


 私は非現実的なこの状況の中で、小さな夢

。否。想像の遥か先の地平線にあった僥倖に一瞬身を委ねてしまった。


 だが、不方さんの次の一言が私を現実(とは思いたくない)に引きずり戻す。


「はーい。ふさちゃん。次は身体を洗いまちゅよー」


 か、か、身体ぁっ!?だ、大丈夫です。わ

、私!ふさよは大人(二十六歳彼氏居ない歴九年)なんで洗って貰わなくても平気ですぅ

!!


 私は右腕で両胸を、そして左腕で股間をガードする。こ、このガードは死んでも死守せねば!!


「ふさちゃんー?お手てどかさないと、洗えまちぇんよー」


 だが、男性の力に抗いようも無く、私の腕は容易くどかされ、最後の砦が陥落してしまう。


「はーい。身体を綺麗にしまちゅよー」


 い、いいでちゅ!!ふさちゃん、綺麗にしなくてもいいでゅー!!やめちぇパパーッ!


 不方さんは綿の手拭いで私の首元から丁寧に洗っていく。て、手拭い越しだけど、不方さんの手の感触が私の身体に伝わって行く。


 そしてその感触が胸に移動しようとしていた。だ、駄目!!お願い、やめちぇパパーッ!!



 ······どれ位、時間が経過しただろうか。不方さんによって全身をくまなく洗われた私は

、パスタオルを巻かれてフローリングの部屋に寝かされていた。


 私は死後硬直した遺体の様に未動き出来なかった。恥じらい。恥部。赤面。羞恥に関するこの世の全ての枕詞を凝縮させた感情が私の全身を支配していた


 ······も、もう駄目。不方さんに。好きな人にこんな形で裸を見られるなんて。そ、それ所か身体を(くまなく丁寧に)洗われるなんて。


 耐えられない!信じられない!こ、これ以上の恥ずかしさなんてこの世に存在するの?

ある訳が無いわ!!


 ちょい!ちょっと神様(理の外の存在)よ!!この羞恥以上の辱めがあるなら私の前に出してみなさいよ!!


 その時、パジャマ姿に着替えた不方さんが私の前に座った。右手には何か白い物を持っている。


「ふさちゃんー。パンツ履きまちゅよー」


 ······それは、乳児が必ず装着する紙パンツだった。不方さんのその言葉に、私は前言を地獄の底から後悔していた。




 

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