第3章 火山地帯

第71話~第75話

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第71話 特技・操縦


9人を乗せたハングライダーは空を飛んでいました。


ローズ「す、すごい、飛んでる!」


フィスト「いやそりゃ飛ぶでしょ」


キャッツ「自分で作っといて自信なかったの?」


ローズ「そ、そうじゃなくて」


マリア「そうよねー。本来なら、滑空するわけだから、ゆっくり落ちててもおかしくないのに」


リーフ「う、うん、全然高度が落ちてない」


ジャンヌ「すごいのね、浮遊石の力って」


サリー「う、ううん、違うの……浮遊石は落ちるスピードはゆるやかにできるけど、落ちるということ自体は避けられないの……だから、今これが飛んでるのは浮遊石の力じゃなくて……」


マリン「………………!」


ブラド「マリンやん!」


マリン「わかってんなら黙ってて!集中できない!」


マリンはハングライダーの持ち手を巧みに操りながら、的確に翼で風を捉えて、機体を浮上させ続けていました。


ローズ「す、すごい……」


9人の眼下には青い海が見えます。


リーフ「わー!海……!すごい……」


マリン「これで海を越えるなんて……ほんとにできるの?」


キャッツ「操縦してる本人が言わないでよー(笑)不安になるでしょー!…………無理、なの?」


マリン「……わかんない、やったことないもん……うまくいかなかったら……」


マリア「海の藻屑ね……」


フィスト「わぁー!海の藻屑って初めてナマで聞いた!」


ジャンヌ「聖職者がしみじみ言うと刺さるね……」


サリー「大丈夫だよ、マリンちゃん。私、潮流を操る術も使えるから……もし失敗して海に落ちても、みんなで手を繋いでいれば、岸まではたどりつけるよ。だから、ひとりで背負わないで」


ブラド「使い魔たちに頑張ってもらえば、サメ除けくらいにはなるしね」


ジャンヌ「そうだよ。みんなのことはみんなで守るの。マリンだけにやらせたりしないよ」


マリン「……ありがと……でも、岸から目的地の火山まではだいぶあるからさ、できればこのまま行きたい……」


キャッツ「火山かぁ……綺麗な海とは大違いの景色なのかなぁ」




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第72話 着地


9人の少女がハングライダーで空を飛んでいます。

そのはるか先で、火山が噴煙を上げています。


滑空するハングライダーの下に広がる景色は岩石地帯。

その上空で、言い争う声が響きわたっています。


ブラド「もぉー!話ちがうやーん!」


ローズ「え?そうだっけ?」


フィスト「着地の話なんかしてなかったでしょ!」


キャッツ「サリーー!なんとかしてー!」


サリー「ご、ごめんなさい!浮遊石は落下はしないけど、前に進むスピードのコントロールまでは……」


9人の少女を運ぶハングライダーは、高速で進みながら、ゆっくりと高度を落としていきます。


リーフ「えっと……木や茂みに突っ込めばクッションに」


マリン「どこにあんのよ!そんなもん!」


マリア「このままじゃ全員、激突死かな」


ブラド「マリアやめてぇぇぇ!」


ジャンヌ「みんなでせーので飛び降りたら、どうかな?浮遊石の力でゆっくり落ちることができるんでしょ?」


リーフ「あ、あたし絶対無理……」


ローズ「あのさ、前に進まなきゃいいんだよね?」


フィスト「だから止まれないんだからしょうがないでしょうが!」


ローズ「そうじゃなくて、上に向かって進めばいいんじゃない?」


キャッツ「?」


ローズ「そしたら、すぐに進めなくなって、失速するよね」


マリン「そうか、失速!失速すればいいのよ!」


ジャンヌ「?」


マリン「機首上げする!みんなしっかりつかまってて!」


マリンが骨組みを操り、ハングライダーの先端を上に向けました。

一瞬高度があがり、すぐに勢いがなくなりました。

飛ばした紙飛行機が急激に上昇した後、失速して地に落ちるような動きです。


サリー「……よかった、これなら、あとはゆっくり落ちるだけ」


9人全員が手をつないで、ゆっくりと地に降り立ちました。


ジャンヌ「…………ふぅ……なんとか、なったね」




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第73話 火山地帯


ジャンヌ「…………ふぅ……なんとかなったね」


マリン「よかったぁ……ありがとサリー」


サリー「そ、そんな……マリンちゃんが、ずっと風を読んでくれたおかげだよ……」


マリア「ふたりとも、ずっと集中してたから、疲れたでしょ。少し休みましょ」


ブラド「それはいいんだけど……休むって言ってもさ」


ローズ「どこで休もう(笑)」


9人の周りは見渡す限り、岩、岩、岩。

草木の緑も、泉の青も見当たりません。


リーフ「な、なんか怖い……」


フィスト「確かにね……草木が1本もないと、この世の終わりみたいに見えちゃうね」


マリン「なんか、空も暗く見えるね……」


ローズ「噴煙と火山灰のせいだよね……服、汚れちゃう」


キャッツ「火山から離れてるけど、やっぱり暑いねー」


サリー「えっと……一旦これ、片付けちゃうね」


サリーが術を唱えると、9人用のハングライダーは小さくなってサリーの鞄の中に吸い込まれていきました。


マリア「落ち着いたら、またテントの形に戻さなきゃね」


ブラド「でさ、こっからどこに行ったらいいんやろ」


ジャンヌ「そうだね、地図じゃ詳しくはわからないし」


リーフ「鳥さんとかいたら、近くの様子も教えてもらえるんだけど……」


フィスト「これじゃ動物もいなさそうね」


???「お、お前ら!なにもんだ!!」


キャッツ「?」


9人が一斉に声の主を探しました。


マリア「あ!あそこ!」


マリアが指す方を見ると、近くの岩の陰から、9人の方を見る顔がありました。

怯えて、ちらちらと顔を出したり隠したりしながら、9人の様子をうかがっています。


岩は大きくないので、声の主は岩の陰でしゃがみこんで隠れているのがわかります。


サリー「男の……ひと……?」


マリン「このへんに住む人かな?」


キャッツが岩の陰の人物に声をかけます。


キャッツ「ねぇ!ちょっと!私たち旅してて、ここまで来たんだけど!近くに休めるとこない?」


ブラド「出ておいでよー」


岩の陰の人物は戸惑いながら、姿を見せました。

しゃがみこんでいたわけではありませんでした。

声の主は、本当に小さかったのです。




**********

第74話 ドワーフの男


岩の陰から、おそるおそる出てきた人物は、小さな背丈でした。

9人の腰ほどの高さです。

しかし子どもというわけではありません。

顔には立派な髭を生え揃えています。


ゆっくりと、警戒しながら近づいてきます。

背丈に比例して短い手足を慎重に動かしています。


マリン「驚いた……ドワーフ?初めて見たわ」


???「お、お前ら、敵か?」


ドワーフの男は手に持った斧を9人に向けながら問います。


ローズ「かわいいー!!」

ブラド「かわいいー!!」


???「ひぃっ!」


ジャンヌ「ちょっと、落ち着いて」


9人が先に、ひとりずつ名乗ると、ドワーフは少し安心したように話し始めました。


ロックス「俺はロックス、この近くの里に住んでる。言っとくが嫁も子どももいるし、お前らの2倍以上は生きてるんだ。かわいいなんて二度と言うなよ」


ブラド「ごめんごめん(笑)悪かったわよ」


ローズ「失礼しました。気を悪くしないで」


ロックス「おう、わかりゃいいんだ」


サリー(……かわいい)


リーフ「あの、近くに里があるんですか?それなら、少し休ませてもらえないですか?」


ジャンヌ「私たち、旅立ちの塔っていうところから飛んできて、ここに降りたのよ。どこになにがあるかわかんなくて……」


ロックス「このままじゃ、みんな仲良くのたれ死にってわけか…………里に入りたいのか?」


キャッツ「……?なによ?」


マリア「怪しい奴らは里に入れにくい?」


ロックス「あんたらがいい気分にならんかもな」


フィスト「よそ者がこんなところまで来るなって目で見られるわけね」


ジャンヌ「なるほどね。まぁそんなの、のたれ死に比べたらどうってことないわ。とにかく落ち着いてこれからのことを話せる場所がほしいから、案内してくれる?」


ロックス「……ついてきな」


ドワーフが9人を先導して歩きます。


マリン「ここから遠いの?見渡す限り、里なんてなさそうだけど」


サリー「ほんと……ほとんど岩だけ……」


ロックス「ドワーフは洞穴の中に住んでるんだ。ここからは見えん。大人の足で10分くらいでつく。少し黙ってろ」


マリン「なによぉ」


彼が言った通りの時間をみんなで歩くと、先頭を歩いていたドワーフが立ち止まり、言いました。


ロックス「ついたぞ」




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第75話 里の入口


ロックス「ついたぞ」


マリン「どこに?」


ロックス「里の入口だよ!お前らがつれてけっつったんだろうがよ!」


マリン「ごめんごめん、それはわかるんだけどさ」


ブラド「里なんかないやん」


ロックス「チッ……」


リーフ「あ、舌打ち」


ロックス「黙ってろ!エルフの小娘が!」


リーフ「うぇーん!」


キャッツ「ちょっとぉ!やめなさいよー!」


ロックス「ふんっ!」


ジャンヌ「なに?エルフ嫌いなの?」


マリア「知の試練によると、ドワーフは吸血鬼と仲良いのよね?じゃあさ、ロックスさんは、ブラドには親しみを感じるの?」


ブラド「そうなん?よろしく頼むで!おっちゃん!」


ロックス「ん?あぁ、お嬢ちゃんは吸血鬼か。昔は交流はあったけど、今はないな。あんたのご両親くらいまでは仲が良いんじゃないか?気安くしゃべりかけんな」


ブラド「……」


フィスト「仲良くないじゃん」


ロックス「……今はドワーフはどことも関わりを持とうとしてないからな」


ローズ「そうなの?どうして?」


ロックス「勝手に調べな。もういいか?じゃあ、入るぞ」


フィスト「ちょ、ちょっと待って!ねぇ……ここが、ほんとに里の入口?」


ロックス「?そうだが?」


そこには大小様々な岩がたくさんありました。

でも、それだけです。

入口らしいものは、ありませんでした。


サリー「えっと、どっから入るの?」


キャッツ「合言葉を言うと入口が現れるとかかなぁ?」


ロックス「よそのお嬢ちゃん方はそういうのが好きなんかい?」


ロックスはそういうと、岩のひとつに近づきました。

その岩は、大きいけれど高さはなく、板のような形でした。

その端を、ロックスは片手で掴みます。


ロックス「……よっと」


マリン「!」


彼は板のような岩の片側を、いとも簡単に持ち上げました。


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