三章

第1話 薬草採取!

 最近ちょっと忙しかったけど、今は落ち着いている、異世界で勇者をやっていたカミリヤです。八歳です。

 今、目の前にあるお野菜に少し悩んでいます。パープルバーです。

 すみません。名前は忘れてしまいました。紫色の棒状のお野菜、パープルバー(仮)です。

 一度食べてみたのですが、あの苦みと渋み、何と表現すればいいのか困りますが、あえて表現するなら、中身がスカスカ、ええと、そうです、柔らかいコルクが近い気がします。その食感です。あと、紫色の皮も苦手です。きゅっきゅっ、とした歯触りで鳥肌が立つような思いでした。

 とにかく、初めて食べたのですが、その時に苦手意識を植え付けられてしまい、なかなか手が出ません。でも、沢山あります。

 しかし、放って置いたら、傷んでしまって農家の方に申し訳ないです。

 ……ツ、ツバキー。助けてくれませんか?

 私はツバキに助けを求めましたが、返答はノーでした。

 く、そう言えば、この前、ツバキに好き嫌いを無くすように言ったのでした。あの時は、よもや、苦手な食べ物があるとは思いもよりませんでした。

 前世でも似たような食べ物はありましたが、その時はあまり気にならなかったどころか、美味しく頂いた記憶があります。

 つまり、子どもの体になったことで、この食べ物を受け付けなくなったと考えられます。

 原因が分かった所で、対処法が分かりません。

 一食で半本、消費しなければ、間に合いませんね。仕方がないので、今は無理矢理食べることにします。嫌々食べるのは失礼ですが、腐らせるよりはマシです。

 これは、次の食べ方を模索もさくする必要がありますね。


 ツバキを連れてギルドに来ましたが、あまり見ない種類の依頼を発見しました。

 薬草採取です。

 いつも収集系の依頼が無いので気になっていましたが、全く無い訳じゃなかったのですね。

 薬草の生えている場所は、恐怖の森。家のある場所、そこから奥が恐怖の森です。

 3件見つけたので、まとめて受けます。

 手続きをするために、受付へ行くと、いつも通り、ヴィンデさんが出てきました。

「この3件を受けたいです。お願いします」

「うん。確認するわね」

 ヴィンデさんに冒険者カードを渡して待ちます。

 私の冒険者ランクと依頼の難易度を照らし合わせて、内容も確認しているようです。

「あの。ヴィンデさん。この、薬草採取の依頼を初めて見たのですけど、なぜこんなに少ないのですか?」

 需要はあるはずなので、もっとあってもおかしくないはず、と言う意味で聞きます。

「あ、うん。薬草採取ね。そうね。出してない訳じゃないのよ。ただ、わざわざ、こんな危険な森恐怖の森や巨木の森で薬草採取するくらいなら、外から買い取った方が安いの」

「そうなのですか。では、なぜ、今回はあるのですか?」

「えっとね、ちょっと待ってね。……うん、やっぱり。この3件とも、恐怖の森にしか育たない植物なの。3件とも同じ人が出した依頼ね。何か特殊な薬でも作るのかしらね」

 ヴィンデさんは依頼書を確認し、そんなことを言います。

 私は今まで、魔物・魔獣狩りの依頼しか受けたことがありません。駆け出しなのに。あまり自分の事をこう言うのは躊躇ためらわれるというか、言いたくないのですが、私のような幼女に魔物・魔獣狩りは、そもそも不釣り合いな仕事ですよね。前々から安全な薬草採取をしたいと思っていたのです。

 しかし、現実は、この周辺では効率が悪いから、依頼が無いと言うことです。

「さて、カミリヤちゃん。わかっていると思うけど、期限までにこなせなかったり、間違ったものを持ってくると、依頼失敗だからね。評価がマイナスになるし、違約金も払わないといけない」

「はい、分かりました。薬草の図鑑は貸して貰えますか?」

「いいわよ。……ええと、確かこの辺りに、……あった。はい。ギルドから持ち出したら駄目よ」

 そういう資料は、受付のすぐ近くの棚にあるのでしょう。ヴィンデさんはその中から薬草図鑑を探し出し、渡してくれました。

 私は礼を言って、すぐに必要な情報を調べます。

 えーと、特徴は……。…………、あの、やっぱり、この図鑑、今回だけ持ち出しても、はい、駄目ですね。貴重なものですものね。言ってみただけです。

 とにかく、メモを取りましょう。あとは、似ている薬草も確認して間違えないようにしなくては、なりません。

 頑張ります!


 メモを取り終え、ヴィンデさんに図鑑を返します。

「それにしても、なぜ、この依頼が残っていたのでしょう?」

 そんなに難しい依頼ではないと思うのですが。報酬も割の良い依頼です。何か問題があるのでしょうか。

「ああ、……ん-と。それは……、そう、恐怖の森だからね」

「それが何の問題になるのですか?」

「ううん、何でもない。ソーネ。不思議ネ。ナンデ、ミンナ、この依頼を受けなかったのカシラ?」

 何故、棒読みなのですか。気にするな? ええ、まあ、そう言うのであれば、少し気になりますが、気にしないことにします。

 さあて、ツバキ? ……また貴女、おやつを貰っていたのですか。すっかり馴染みましたね。良いことですね。

 いつの頃からかツバキは、ギルド内の皆様、特にギルドの職員のお姉さま方からおやつを貰うようになっていました。

 おやつを貰っては、でてもらっているようです。マスコット的な存在になったのでしょうか? え? いやしを求めて、ですか? まあ、ツバキは可愛いから仕方ありませんね。確かに、ツバキのもふもふ具合は癒しですからね。

 あ。リリエお姉さん。そう言えば、私が来たときはいつもギルドに居ますね。クッキーをくれるのですか。ありがとうございます。ではさっそく、さくさく……、さくさく……、美味しいですね。もう1枚……、って、どうして抱き着くのですか。どうして頭を撫でるのですか。アホ毛引っ張らないでください! 誰がアホですか! いえだからそれは本体じゃなくて……、全然わかってないです。アンテナでもないです。はーなーしーてー!! こんなことしてると……、ほらぁ! ギルドのお姉さま方が集まってきました! 私はツバキじゃないので、いくらお菓子を貰っても……、でも食べてるよねって、罠にはめたのですか!? この世界では貰ったお菓子を食べてしまうともみくちゃにされてしまう文化でもあるのですか!? わきゃっ、く、くすぐったっ……、だ、だれですか。っていうか、いつの間に私の髪形をいじったのですか。この状況で凄い器用な方が居ますねぇ! ツバキ助け……、貴女買収されましたね! 目をらしても目の前のお菓子で丸わかりですよ! だれでもいいのでたすけ、やーめーてー! かいほーしてくださいぃぃぃぃぃっ!


 ようやく解放されました。

 あれ? 首元がすーすーします。

 誰にやられたのか、お団子ヘアーと言うものになっていますね。しかも手が込んだことに、三つ編みでお団子にしてあります。自分ではしないし、出来ない髪型です。そもそも三つ編みがどうやっているのかもわかりません。前世では、とにかく戦いやすいように、それと手早くしていたので、こういうことはからっきしです。

 ちょっと落ち着かないので、もったいない気もしますが解いてしまいましょう。

 そう思って頭の後ろに手を持って行くと、その手をツバキに、かぷり、と咥えられてしまいました。

「あの、ツバキ? 手を離して貰えませんか?」

「わふわふ」

 離してくれません。もしかして、この髪型のままが良いのですかね。

 ツバキがそのままでいて欲しいというのなら、そのままにしておきます。まあ、薬草の採取だけですし、問題ないですね。

 では、行きましょう。

 まずは、恐怖の森の、家に近い所から行きましょう。

 川の近くです。湿しめった土を好み、木漏こもが当たるくらいの場所に生える薬草です。

 その薬草を見つけ、必要分だけ、袋に詰めます。あまりたくさん取り過ぎると、次が生えてこなくなってしまうかもしれません。

 その採取中、ツバキには魔物や魔獣に襲われないように見張って貰います。

 正直、居てくれるだけで襲われないので、とても助かります。

 この薬草は、穂のところを煎じて飲めば下痢止め、患部に塗れば腫れが引くのですか。便利そうなので、個人用に少し持っておきましょう。

 あまり人が来ないのか、大量に生えていますね。この薬草は、と言うより、今回の依頼の採集物は恐怖の森と死の森と言う場所でしか生育しない物らしいです。

 たくさん取って帰れば、儲かりますかね。……いえ、勝手なことはやめておきましょう。

 お次は、珍しい植生ですね。ヤドリギと言う、樹木の寄生植物。そのヤドリギの上にしか生えてこない薬草です。寄生の寄生ですね。

 ヤドリギを片っ端から調べていきます。

 樹木を登り確認し、次へ、と言う作業を繰り返すこと五回。

 ヤドリギが、元気に生い茂っているように見えたところにありました。

 生い茂っているように見えた半分が薬草です。ぱっと見、ヤドリギの葉と薬草の葉が似ているのです。

 採取する時も、ヤドリギの葉と間違えないように気を付けました。

 今日はもうここまでとします。家に着くころには真っ暗でしょう。


 翌朝。家を出発し、お昼をまわる頃に、薬草が生えている場所に、たどり着くことができました。

 最後の依頼の薬草は沼の真ん中に生えている一本の大きな木。その根元に生えていました。

 困ったことに私は泳げません。泳げたとしても、この沼の中を泳ぎたくはありませんね。

 どうしたのですか、ツバキ。この感覚、久しぶりですね。ツバキにくわえられて、ぽい、と軽く放られました。

 ツバキの背に着地します。

 これは、乗っていろと言うことでしょうね。私を乗せてこの沼を泳ぐつもりですか?

 貴女の、そのきれいなもふもふが、泥まみれになってしまいます。やめましょう。え? 違う? じゃあ、どういう……?

 私が疑問を口にしていると、沼から離れるように歩いていたツバキが反転し、沼に向けて全力疾走。

 情けない悲鳴をあげながらも、振り落とされないように、しっかりとツバキにしがみついた私、えらい。

 途中、加速が無くなり、ふわ、とした浮遊感。

 ああ、うん。ツバキは己の身体能力の高さを生かし、強引に沼の真ん中に跳んだのですね。

 はい、確かに、沼の真ん中に生えている木にはたどり着きました。

 とても怖かったです。先に伝えておいてほしかった。伝えていたら断ると思ったのでしょうか。確かに断っていたかもしれません。

 とにかく、木にはたどり着きました。ツバキは上手に木の上の方の枝から螺旋状らせんじょうに降りて勢いを殺し、下の方の枝の上に着地しました。お見事です。枝は一本も折れていません。

 お礼を言って、ツバキの背から降ります。

 いつかの、荷物をっていたつたを取り出します。

 時間が経ってちるどころか、ちょうどいい柔らかさと力いっぱい引っ張っても全く千切れそうにない丈夫さを増していました。

 その蔦を薬草の真上の枝にくくり付け、垂らした蔦をつたい、下りていきます。

 薬草が取れる高さまで下り、蔦を体に巻き付けて結び、両手が自由になったので、これで、薬草の採取が出来ます。

「わわっ。揺れると、怖いですね。作業もしづらいです」

 風も無いのになぜ揺れるのか。気にしても仕方ありません。

 揺れの所為でしょうか? 上から何かが落ちてきました。果物の種に見えます。


 それが沼面に落ちると、じゅ、と音を立てて溶けてしまいました。


 ひいぃぃぃぃっ! 何ですかこの沼!? こんな危ない所だとは聞いていませんよ! 酸の沼ですか!? こんな所さっさとおさらばです!

 さっさと採取を終え、上に戻ると、ツバキが果実を美味しそうに食べていました。

 上を見ると、ツバキが食しているものと同じものが生っています。

 ……貴女がその果物を取るために移動したから、揺れたのですね。まあ、良いですけど。私の分は……、あるのですね。うん。許します。

 これは……、見たことのない果実です。見る人が見たら黄金色と言ってしまいそうな綺麗きれいな山吹色で、つやつやしています。大きさは私の拳よりも少し大きいくらいで、綺麗な球です。

 ツバキが皮ごと食しているので、私もそのまま頂きます。

 かぷり、とかじり付くとあふれんばかりの果汁がお口の中に広がり、よくじゅくした果肉は舌に触れただけでとろけました。しかし、不快感は無くむしろ心地よい食感。絶妙な甘さと酸味のバランス。お口の中に残った皮は酸味と少しの苦みで、さっぱりさせてくれます。

 これは美味しいですね! ツバキはこの果実の事を、前から知っていたのではないのでしょうか。この木へ跳んだ時、妙にこなれていましたからね。

 そう言えば、髪の毛をお団子のまま来たのは、ツバキに解くのを止められたからでしたね。

 もし、解いていたら、髪の毛はこの沼に浸かり、溶けてしまい、最悪、慌てた私は髪の毛を跳ね上げて、沼の液体を自分自身にかけていたかもしれません。恐ろしい……。

 さて、思わぬご馳走にありつきました。後は帰るだけですね。

 私はツバキの上に登ります。

「帰りましょう。ツバキ、お願いします」

 ツバキは何故か、私の方に振り向き、首を傾げます。

 何をしているのでしょう。早く帰らないと日が暮れてしまいます。だから、来たときと同じように、……。…………。同じように? 来たときと?

 何となく、ツバキの背から降りました。

 あの、ツバキ? もしかしなくても、この木への到達方法は片道切符なのですか? ああ、うん。聞かなくても分かります。来たときと同じような助走は無理ですよね。ここの足場は木の枝しかありませんからね。ええ。とんでもないことをしてくれました。どうしましょう。依頼の期限は三日以内。いえ、それも問題なのですが、それ以上に、そもそも、帰れない。

 まだ、日は高く、諦めて眠る時間ではありません。

 いえ、そもそも、ツバキはここに来たことがあるのですよね? ならば、帰る方法もあるはずです。

 前に来たときはどうやって帰ったのですか? 教えてください。いや、そんな困った顔されても困ります。思い出してください。以前来たとき、どうやって帰ったのか。いや、寝ないでくださいよホントで困っているのです私も寝ろってやめてくださいそんな尻尾であやされてもねむったりなんか、すやすや……。

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