閑話 ヴィンデの混乱

 こんにちは! あたしはヴィンデ。ギルドの受付嬢をやっているわ。

 ここに勤め始めて3年くらいになるかしらね。今ではこのギルドにたむろしている冒険者とはだいたい顔見知りよ。

 それと、一応、人の魔力が見える特技があるけど、冒険者カードで魔力数値を確認できるから、役に立たないわ。

 仕事にも慣れてきて、魔物や魔獣の素材も先輩に聞かなくてもほぼ分かるようになったわ。強力な魔物の素材はなかなかお目に掛からないから、自信は無いけどね。

 そんなあたしだけど、いま、ちょっとパニックを起こしているわ。表面上は落ち着いて見えるように取りつくろえたことをめてあげたいくらいよ。

 ギルドに入ってきた可愛らしい女の子……、そうね年齢は6~8歳くらいかしら? 真っ白できれいな髪の毛はセミロングのストレートで、赤い瞳が特徴的ね。あどけなさのある顔はちょっと庇護欲ひごよくき立てられるわ。服装はそこら辺に居るありふれた村娘の服装ね。うん。それで、その女の子がギルドに入ってきて、微笑ほほえましく対応していたんだけど、彼女が持っていたものがね、その、あの、……あんまり自信がないんだけど、たぶん、あの『エンシェントドラゴン』の素材だったのよ。

 レッサードラゴンの素材なら見慣れているって程じゃないけど、何回も見たことあるわ。魔物の強さのランクで言えば中級に当たるCランクだから。

 でも、『エンシェントドラゴン』となると話は別よ。だって、上級とか特級というのではなく、災害級だもの。災害級の魔物が村にやってきたとしたら、無駄な抵抗はせずに村を捨てる方が選ばれるわ。まさに災害ね。そのくらいやばい魔物なの。

 最高位の冒険者で討伐隊が組まれて、万全の準備をした状態で攻めた場合、何とか勝てるけど、その場合は、手加減なんてできないから、うろこや牙は結構壊れちゃうらしいの。だから、冒険者一人が鱗1枚、多くても2枚とかそのくらいの取り分になるらしいわね。

 ここ最近、その討伐隊が組まれたとかいう情報もないし、彼女が持ってきた素材の量が有り得ない。鱗3枚に牙を3本。通常の6倍。聞けば、保護者もいないと言う。

 その服装も、そこら辺に居る村娘と変わらないものだし、少なくとも冒険者の服装ではないわ。そして、話を聞けば、どうにも一人で討伐したっぽい。うそでしょう!?

 でも、彼女からは嘘を言っている気配もないし、何より、彼女からあふれ出ている魔力が半端ない。こんな魔力、見たことないわ。後光ごこうが差しているようにも見えるわね。あたしが見てきた魔力の最高値は冒険者カードの数値にして497よ。それを圧倒的に上回るわ。

 何が言いたいかというと、物証から見て、目の前の女の子は少なくとも普通の討伐隊の6分の1程度の人数の少数精鋭討伐隊に選ばれ、もしくは単騎で挑み、そして、『エンシェントドラゴン』に勝ってしまう実力者だということよ。

 とりあえず、先輩――にも手に余るわね。ギルドマスターに相談しましょう。


 相談しました。ギルマスもあたしの見解と同意見だそうです。ただ、そんな子が有名になっていないことや、冒険者登録すらしていないことが気になります。……気になりますが、怖いので聞けません。ギルマスに、あまり詳しいことは聞かずに、この村に定住してもらいように誘導しなさい、と言われたわ。知られたくない秘密を聞き出してしまった場合、違う村に行く可能性があるから、と言っていたわ。ギルマスはこの女の子に留まってほしいようですね。一体どんな秘密があるのかしら。知っていけないことだったら困ります。とりあえず、何でもかんでも特例ということにしていいから、様子見のために、この村に留まるように仕向けます。

 まだ8歳? 年齢が足りませんが、良いです。特例で冒険者登録できるようにします。お金がない? 良いでしょう。特例で手数料無く冒険者登録をします。ただし特例ですから、この村以外ではこのカードは使えませんよ。良いですね? よし、物分かりが良い子は好きです。

 さて、能力値は……、あれ、変ね。ごく一般的な、初心者と同じくらいよ。

 具体的に言うと、LV 04 HP 032/032 MP 040/040 ATK 023 DEF 026 MAT 030 RES 030 AGI 025 です。書いてあるので間違いないわ。こんな能力値では『エンシェントドラゴン』どころか、そこら辺の低級、Fランクの魔物、ビックスラグにも負けてしまうかもしれないわ。

 でも、あたしの目は強大な魔力を見ているのよ。……まあいいわ。そのうち、分かることでしょうから。

 さて、ひとまず、素材と引き換えに金貨500枚を渡しました。ちょっと驚いているみたいです。その様子は見ていて可愛らしいですね。

 物価を聞かれました。どこの村でも大差ないのですけど。

 リンゴ1個で銅貨1枚だと答えると、金貨を見て何か考えていました。ちょっと恐る恐るといった感じで、渡した巾着袋に金貨を入れています。

 え、宿? そのお金があれば、どこでも泊まれると思うけど……、あ、ペットが居るのね。どのくらいの大きさかな? ワンちゃんね。それなら問題ないけど。うん。……うんうん。うん? 待って待ってもうちょっと詳しく特徴を教えてくれないかしら?

 うんうん。背があなたよりもかなり大きいのね。だいぶ嫌な予感がするわね。いいえ、こっちの話よ。賢くて、体長はこのくらい、体毛は白くて、額に宝石? それって……

「えっ、それって、ハンターウルフ……」

 さすがにそれはギルドの特例でも無理よ。だって、特級、Sランクに指定されている魔獣よ。手練てだれの冒険者10人で勝てるかどうか……。村が一瞬でパニックに陥るわね。っていうか、この子、魔獣使いなの? しかも、ハンターウルフを使役するって、すごい上位の魔獣使いじゃないと出来ないことよ。

 ちょっと戸惑とまどっていると、女の子の方から、村の端にある家について聞かれたわ。あそこって、森のすぐ近くというより、森の中にあって魔獣とかに襲われる可能性があるから、誰も住みたがらないのよね。そもそも、あの森、恐怖の森と言われていて、任務以外で、誰も中に入るどころか、近づこうともしないわ。あの家の存在を知っている人も少数よ。あ、でも、ハンターウルフ連れているって言ってたわね、恐怖の森で出会ったのね、なるほど。

 ギルドで管理しているところなので、手続きとかも面倒がなくていいけど、こんな女の子をそんな危険な場所に住まわせていいのかしら。監視や護衛をつけようにも、この村で任務や依頼以外であの森の中に入ろうとする人はいないわ。でも、ハンターウルフを連れているなら問題ないわね。よし、解決。

 その後、簡単な手続きをしてもらい、女の子にはお帰り願いました。つ、疲れたわ。もう今日は、早く上がりたいです。女の子の存在が謎すぎて、頭が混乱しています。とりあえず、ギルマスに報告ですね。


 ギルマスに報告しました。あたしがあの女の子の担当になりました。おい、ふざけんな! いえ、ふざけないでください。あたしの手に余ります。うん? 危険手当を上乗せ……? ふむ、良いですね。その話乗ったわ。あたしに任せなさい。っていうか、ギルマス、危険手当上乗せってことは、危険なことだっていうことですよね? まあ、良いですけど。

 持ち場に戻ると、何人かの冒険者の方に質問されました。鬱陶うっとうしいわね。あたしだって、聞ける相手がいるなら質問したいくらいよ。

 疲れたように愚痴ぐちったら、労ってもらえたわ。

 あ、ギルマス、今日はもう上がりですか。今日疲れたので、ご飯おごってください。厄介ごとを押し付けた自覚あるんでしょう?

 やったわ。奢ってくれるらしいわ。あの女の子に感謝ね。よし、今日はいろいろあって疲れたけど、明日から頑張るわ。今日、戸惑ったり、混乱した分、あの女の子をいじって楽しむようにするわ。楽しみね。八つ当たりやいじめじゃないわ。あたしの心の平穏のために必要なことよ。

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