第5話 村に到着
数日後。
今日も今日とてツバキの背に跨り、森の中を進みます。あ、ツバキというのはこのデカ犬の名前です。かわいい名前だと思います。そう思いますよね?
だいぶ森での生活に慣れてきました。肉中心の食生活は少し進化して、その辺の野草も食べるようになりました。えへん。ある時、ツバキがむしゃむしゃと食べていたのを見たので、食べられる草だと判断しました。あと、ツバキが居るせいか、野生動物には襲われることはありませんでした。
さて、いつもならそろそろお昼時ですが、変ですね。ツバキが止まってくれません。そのまま、少しずつ川から離れていきます。なんででしょうか。
たまにしか見かけませんが、食べられる木の実を見つけて保存してあるので、それを食べて待つことにします。
ツバキの上で
ほほう、こんな場にこんな立派な小屋があるとは、驚きです。ツバキは知っていたのですかね。人が住んでいるとありがたいのですが。
小屋に着くとツバキが止まったので、降ります。とりあえず撫でておきましょう。良い子良い子。
その後、扉を見つけてノックします。……反応がありませんね。とりあえず外から様子を伺いますか。
窓を探して小屋の周りを歩いていると、小さな畑を見つけました。家庭菜園ですね。でも、草がボーボーで手入れがされていないように見えます。もしかして、人は住んでいないのでは。
窓は見つけましたが、雨戸がしてあり、中は見えませんでした。とりあえず、扉を開けてみましょう。がちゃ、ぎいぃぃ、おや、意外と
改めて、外に出て観察します。
その建物は二階建てとなっており、屋根は三角の形ではなく、フラットな形状なものに傾斜がついているだけですね。ああ、雨樋が付いていて、それが貯水槽に向かっています。雨水を効率よく集めるために、この形状にしたのですか。そして、その貯水槽からトイレと台所、風呂場に管が伸びています。外の水場にも管が行っていますね。雨樋も管も竹が使用してあります。
つまり、この小屋は物置とかではなく、人が住む為のものとなりますね。
お腹が空きました。そういえば、まだ昼食を食べていませんでした。ツバキも待っています。いつの間にか枝も集められていますね、賢いです。
あとは、火をつけて肉を焼くだけですか。その間に野草を集めましょう。健康のために食べ始めたものですが、今では普通においしくいただいております。肉をくるんで食べると乙です。
手入れのされていない畑にちょうど良く、いつも食べている草がありました。いただきましょう。ツバキの分も合わせて、こんなものでしょうか。ん? この蔓は何でしょうか。引っ張ってみます。あそこが根本ですね。やはり、これは芋ですね。久しぶりの炭水化物です。貰っていいですかね。良いということにします。なぜなら、食べたいから。
ドラゴンさんの
台所をお借りして、洗ってから火の中に放り込みます。楽しみです。
肉を食べ終えて、火も消えました。お楽しみのお芋タイムです。ツバキは、あ、いらない?
皮をむいて、塩を少々。はむっ。はむはむはむっ。ほぁ……、ほくほくでおいしいですぅ~。
食べ終えて、少し休憩していると、ツバキが私を
連れていかれたのは、外の水場です。
石鹸もありました。ありがたいです。
1時間後、身も心もさっぱりした私が居ました。いやー、文明的な生活っていいですね。
次はツバキの番ですか。良いですよ。さ、川に戻りましょう。
川に身をくぐらせたツバキは私から少し離れて、ぶるぶると身を震わせます。私に水がかからないように配慮してくれます。とってもいい子です。
さて、先へ進みましょう。え、乗れって? あなた、今水浴びしたばかりでしょう? 遠慮しときます。
それから、30分くらい歩きました。
なんと、そこには人が居ました。集落です! 村です! やっとたどり着きました!! 長かった、実に長い旅路でした。途中でこんな場所に転移させた女神様を恨みかけたこともありましたが、たどり着きました。終わり良ければすべて良しです。
「ありがとう女神様!」
さて、さっそく、ギルドでこの重い荷物を換金してもらいましょう。村に着いたのですから、お金は必須です。お金がなければ何もできません。身分証として、冒険者カードも必要ですね! って、あれ? ツバキ、そんな場で立ち止まってどうしたのですか?
あらら、お座りしてしまいました。ツバキが村の中に入るとパニックになるということですね。分かりました。そこで待っていてください。なるべく早く戻ってきます。その間、ドラゴンさんの卵、守っていてください。
村を歩いていると、いかにも荒れくれ者という風体のおじさんが二人、私の前に現れました。
「よう、嬢ちゃん。こんな場で何してんだい? よかったら、俺らに付いて来ねえか?」
「いい場所に連れて行ってやんよ、いひひひ」
久しぶりの人の声です! 多分、今、私はめっちゃ喜んだ表情でしょう。困った様子の私に、声をかけてくれたのでしょうか。良い人たちですね! できればこのまま、お言葉に甘えて付いて行きたいところですが。
「すみません。私、今お金を持っていなくてですね。出来る事なら、ギルドに案内してほしいのですけれど」
「嬢ちゃんみたいな子がギルドに? 無理無理。そんなことより、俺たちについて来いよ、な? お金のことは心配しなくてもいいからさぁ」
にこにこと一人のおじさんが話しかけてくれますが、もう一人のおじさんが急に青ざめたと思ったら、私に背を向けて二人で話し込んでしまいます。
むぅ、仲間外れは嫌ですね。話している内容は小声過ぎて聞き取れません。
内緒話が済んだのでしょうか、二人のおじさんがくるりとこちらに向き直り、ギルドの場所を教えてくれました。感謝です。
おじさん達は付いてきてくれませんでした。その誘ってくれた、良い場所とやらに行く途中だったそうです。
さて、ギルドに着きました。とりあえず、受付のお姉さんのところに行きます。
明るめな茶髪で、長めの髪はバレッタで束ねてあるみたいです。すこし、気の抜けていそうなというか、ふわふわとした空気を纏っている優しそうなお姉さんです。
話しかけやすくて、助かります。
「すみません。採集物を換金してほしいのですが、出来ますか?」
「えっと、君、何歳?」
「8歳です」
精神年齢は30歳超えています。あ、でも、身体年齢に引っ張られている感じもしますから、やっぱり精神年齢も8歳でしょうか。
「ごめんね、お嬢ちゃん。15歳未満は冒険者登録できないから、換金も出来ないの。親御さんは?」
なるほど、15歳未満は駄目でしたか。それでも、優しい笑顔で話してくれるお姉さん。良い方ですね。
それはそうと、異世界云々は黙っておいた方が良いですよね。私自身、実際に体験しないと信じない自信があります。頭がアレな子扱いは面倒ですし、何より嫌です。と言うわけで、そこら辺の事は
親御さんは居ないです。保護者も同様です。でも、今日お金がないと森に帰らねばなりません。どうにかなりませんかね。おいしいもの食べたいです。服も何着かほしいです。
そういうことを言うとお姉さんは、改めて私の身なりを見て、ぎょ、とした表情になりました。
「ちょっと、上に掛け合ってみるから、待っててね」
そう言って、お姉さんは事務室的な部屋に引っ込んでしまいました。
なんでしょうか、私の身なりを見て、
ぽけー、とその場で待っていると、他の冒険者の方が近寄ってきて、邪魔だこのクソガキ、という目で見てきたのですが、私の身なりを舐め回すように見てから、諦めたようにギルド内にある喫茶店のようなところの席にそそくさと座りました。彼もまた私を見て譲ってくれたとか、大目に見てくれたということでしょう。良い方です。
そういうことが三回ほどありました。お姉さんがようやく戻ってきました。正直、心細かったので、安心します。
「上に掛け合ったところ、特例として冒険者登録させていただきます」
その後、登録用の用紙が渡されたので、必要事項を紙に書き込んでいき、無事にこちらの世界の冒険者カードを貰うことができました。ほんとは手数料などもいるようですが、特例だそうです。特例なのでこちらの村のこのギルドでしか冒険者として認められないみたいです。あまり荒事に首を突っ込みたくないので、割とどうでもいいです。
無事に換金を終え、手に金貨500枚を渡されました。ええ、銅貨ではなく、金貨です。
他にも何か言われたけれど、衝撃的過ぎて頭に残っていません。
「この村の物価はどうなっているのですか……。リンゴ1つでおいくらですか?」
「だいたい銅貨1枚よ」
元の世界と大差ないです。ということは、金貨500枚って……、えぇ……、貰いすぎです。まぁ、貰えるものは貰います。これなら服もおいしいものも買えます。ツバキにも何か買ってあげましょう。さて、泊まる場所ですが、今更ツバキと離ればなれは嫌です。ペット同伴可の宿でもあればいいのですが、ありますかね。
「このくらいの犬なのですが、大丈夫なところはありますか?」
ペットが居ると言い、身振り手振りでツバキの大きさや見た目などを伝えました。
「えっ、それって、ハンターウルフ……」
ツバキはハンターウルフと言うらしいです。犬ではなく狼でしたか。そして、魔獣でした。
ふむ、一応、魔獣使いの方も使用する宿屋があるらしいのですが、ハンターウルフの大きさは拒否されるらしいです。困りました。と、なると、駄目元ですが、森にあった家について聞いてみました。
「あ、あの家を知っているのね。そうよね、知っててもおかしくないわね」
お姉さんが言うにはあそこはギルドの管理している建物の一つだそうです。冒険者の方に1年に金貨1枚で貸し出しているそうです。ううむ、安い。
「じゃあ、この契約書にサインしてね」
私はすぐにサインして、さっき貰った金貨を1枚渡します。これで、金貨499枚です。サービスでもらった巾着袋が重たいです。うれしいです。
お姉さんにお礼を言い、早速買い物に行きました。お腹は満たされているので、まずは服ですね。あと、調味料の類と――
時間を忘れて買い物をしてしまいました。ツバキを村の外で待たせたままでしたね、反省です。お詫びもかねて、遊び用のボールを買いました。途中で荷物を持ちきれなくなったので手押し車を購入しました。これは便利です。なんやかんやで金貨495枚まで減りました。手押し車が意外と高かったです。
「ツバキ、お待たせしました。先ほどの家に戻りましょう」
「わふわふ」
私がドラゴンさんの卵を手押し車に乗せると、ツバキが屈みました。
乗れということですね、では、遠慮なく。手押し車は……、あ、ちゃんと分っていますね。器用に前足で押しています。うん? ちょっと、毛がしっとりしています。また水浴びしたのですか。綺麗好きですね。
森の家に着くとまずは寝室の片づけです。布団は新しく買ったので、古いものはタンスに押し込みました。そのあと、積もっている埃を掃き出し、拭き掃除。ベッドに新しい布団を敷いたりしていると、日が暮れてしまったのでここまでです。
村で購入したパンと香草の効いた肉、温かいスープを夜ご飯として食べます。文明的な食事です。
ツバキは森で狩ってきたウサギを食べています。ハンターウルフの名は伊達ではありませんね。ちなみに、このウサギはホーンラビットという魔獣だそうです。
ちゃんと焼いてあげたのですけど、私の肉を羨ましそうに見ていました。今度はちゃんと調理したものをあげてみましょう。
こうして、私の求めた普通の生活が始まったのです。
いきなり森の中をさまよってサバイバル生活をしたり、ハンターウルフを飼うなど、普通の事ではないような気がしますが、気にしません。
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