第3話 二日目と犬

 二日目。

 お腹空いた!!

 朝日と共に目が覚めた私は、大樹さんから地面に降り立ちます。大樹さん、一晩守ってくれてありがとう! お腹空きました!

 体に精神年齢が引っ張られているからでしょうか、空腹を我慢できません。

 昨日は避けていたけど、今日は獣の居そうな場所に行きます。

 小さな巣穴は特に重点的に探す。く、ここもダメか。

 かれこれ2時間は探しただろうか、一向に見つからない!

 疲れたよー、喉乾いたよー、ひもじいよー。

 何でもいいから何か食べたいです。

 何かないかと、右に左に、前に後ろ。ダメだ、木しかない! いや、そうだ、木の実があるじゃないですか!

 すぐさま、地面に這いつくばって落ちている木の実を探す。が、

「落ちてない! 生っているのをとりましょう!」

 と、上を見た。うん、ちゃんと生っていますね。

 狙いを定めて石を投げると、簡単に木の実が落ちてきました。一つ拾ってみる。

「……これって、昨日食べてみたのと同じですよね?」

 つまり、食えたものじゃない。そもそも実が小さくて腹に溜まらないのです。

 そう言えば、こんなに簡単に落ちてくる木の実が、地面になかったのが気になります。つまり、この木の実を食べている野生動物がいる!

 そうと分かれば、もう一回石を投げて落ちている木の実を増やし、この場から少しの間離れることにします。

 木の枝を拾いながら、時間を潰し、ついでに川も見つけました。

 これを下って行けばいつか集落に着くはずです。

 小一時間程度かな。木の実を落とした場所に戻ると、ウサギみたいな生き物が数匹集まっていました。みたいなというのは、額から立派な角が一本生えていたからです。あと、私の知っているウサギよりも大きいです。

「肉っ!」

 思わず声に出してしまい、ウサギが正しく脱兎のごとく逃げ出す。

 拾っていた石を投擲。一匹の後頭部に直撃して、きゅう、と倒れました。やった!

「お肉~、お肉~♪」

 とりあえず、頸動脈けいどうみゃくを昨日貰ったナイフで切り、ウサギの足を持って持ち上げました。良い具合に血抜きされていっています。

 このまま急いで川まで行く。川に着いたら、皮を剥ぎ、内臓など取り除く! 水で洗う! 集めていた木の枝に精霊魔法の小さな炎で火をつける! 解体したウサギっぽい何かの肉を焼く!

 そして、食べる! うまい! ジューシー! あぁ、お腹が満たされていく。お塩が欲しいけど無い。でも、うまいです。

 ふぅ、幸せです。やっぱり、お腹が満たされていると、生きているって感じがしますね。食べるって大切です。

 お腹が満たされたことで冷静さを取り戻したことで、いい加減私も覚悟します。

 この森を抜けるのに、どれだけ時間がかかるかわからないということです。

 そうと決まれば、今後の行動指針を決めます。とりあえず、食糧確保は必須ですね。水は川を見つけたので問題なし。食べ物も、さっきのウサギを確保しておけば良いです。

 寝るときは昨日みたく、木の上で寝れば安全なようです。

 川に沿って下っていくのは、確定でいいでしょう。ドラゴンさんで推測した方向とほぼ一致します。

 よし、行きましょう。まずは再びウサギを捕まえます。下処理をして、んー、焼いておきましょう。生のままは怖いですからね。

 そういえば、空腹のあまり勢いで食べてしまいましたが、毒とか含まれていませんよね?

 2度目の中毒死は嫌です。もう食べてしまいましたが。精霊魔法に解毒の奇跡はないのです。困りましたね。もう、なるようにしかなりません。今が大丈夫なら大丈夫だと思っておきましょう。

 さて、進みましょう。日が暮れる前にちょうど良い木も見つけておかねばなりませんしね。

 荷物を引き摺ること2時間ほど。ちょうど、太陽が真上に来ました。昼時ですね。

 用意していた肉を温めなおしていただきます。塩がないのが本当に残念です。

 ウサギ肉をおいしくいただいていると、ふと、何かの視線を感じました。

「もぐもぐ、ごくん。ふむ、あっちの方角ですね」

 目を凝らしてみてみると、あれは……犬、でしょうか。

 そうしている間にも、どんどん近づいてきます。はっ、まさかこの肉が目当てでしょうか。あげませんよ。これは私の食糧です。

 がるる、と私なりの威嚇をしていましたが、その犬はついに、私の目の前に来てしまいました。しまった、逃げていればよかったですね。っていうか、これは犬なのでしょうか?

 …………デカすぎません?

 私よりも背が高いです。体長という点では話になりません。デカいです。今の私など一飲みでしょう。素直に怖いです。年端もいかない少女と巨大な野生動物って絵面、結構ピンチですね。

 私がどうやって逃げようかと画策していると、そのデカ犬はゴロンと寝ころびました。

 そのデカ犬はそのまま寝返りをして、腹を上に向けました。一言で言ってしまえば、完全降伏のポーズです。なにゆえ? ……、とりあえず撫でてみましょう。このモフモフの毛並みは気持ち良さそうです。よーしよしよしよしよしよし!! わしゃわしゃー。ふむ、無抵抗ですね。このまま枕にして寝ても大丈夫そうです。まだ怖いのでやりませんが。

 またゴロンと寝返りを打って元に戻りました。お、顔を近づけてきましたね。頭撫でろということですか、完全降伏したくせに生意気ですね。撫でますけど。

 それにしても、この森にはこのサイズの動物が沢山いるということですか。確かにウサギも私の知っているウサギよりも一回り大きかったです。それと、頭に何か付けるの、流行っているのですか。この犬の額には宝石のような何かが埋まっています。

 とりあえず、敵対の意思が無いようで安心しました。

 さて、昼食も終わりましたし、先へ進みますか。

 私が立ち上がると、犬も立ち上がります。あなたも付いてきますか。そうですか、良いですよ。その代わり、夜は枕です、いいですね? 約束です。

 って、あ、どこ行くんですか。そっちではないです。ああぁ、行ってしまいました。

 そうですよね、野生動物ですものね。その割には私に馴れ馴れしかったのは謎ですが。

 少し、しょんぼりしながら歩いていると、デカ犬が帰ってきました。どこ行っていたんですか、少し寂しかったですよ。

 デカ犬はウサギをくわえて戻ってきました。なるほど、夜ご飯の調達ですか、良い心がけですね。血抜きと内臓処理はやってあげます。3匹ですね。今日はこれでいいですが、明日からは、私の分まで取ってきてもらえると嬉しいです。あ、分かりましたか。賢いですね。

 その日の夜はもふもふに包まれてぐっすり眠れました。満腹だったせいもあります。

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