第5話

 肩を揺すられて目が覚める。駅までユウキを迎えに来た男が、困った顔で笑いながらユウキを起こしていた。

「ああ、泉さん。目が覚めましたか。よかったです。つきましたよ。あまり寝ていないんですか? ずいぶん疲れていたうようで、途中からぐっすりでしたよ」

「……すみません、すぐ降ります……」

 足元に気をつけてと言われながら車を降りる。降りた場所を見渡すと、何もない大きな倉庫のような場所だと思った。窓はなく、四方はただ壁で覆われている。大きな扉が見えるから、あそこから入って来たのだろう。別の壁にあったガラスのスライドドアをくぐる。これが玄関のようなものだろうかと推測した。

 ここから研究所ですよと声を掛けられる。つやつやした白い、長い廊下を、ひたすら男について歩いた。人の気配の全くしない建物だ。二人の靴音のみが響く。一定のリズムで繰り返される反響を聞きながら、ユウキは、寝起きのせいかまだ少しふわふわしているようだと思っていた。靴がいつもより柔らかく感じる。

「最近夜も蒸し暑くて、寝にくいですよねえ」

 よくしゃべる男にあいまいに返事をしながら進む。

 さて、そうだったろうか。寝不足かと聞かれれば、昨日はレポート作成中に根を詰めていた分を取り戻すかのようにぐっすりと寝たのだが。誰かとの会話中に寝てしまうほど疲れていたのか。

 まあ実験のことで緊張して眠りが浅かったのかも、と考えていると、何の表示もない白いドアの前で男が立ち止まった。

 柔らかい笑顔のまま、ユウキに振り向いた。

「ここで少し所長からお話があります。以前電話でした話と重複していると思いますが、進行上、必要な最終確認と考えてください」

「わかりました」

 ドアの横のパネルを男が操作する。軽快な機械音がなったのと同時に、ドアが横にスライドした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る