第22話:ラクシアの森 4
しばらく進んで行くと、森の奥から何やら自然のものとは思えない音が聞こえてきた。
「イーライ、この音って?」
「間違いない、戦闘音だ!」
金属が発する甲高い音や爆発音、さらに魔獣の者と思われる咆哮も聞こえてきた。
しかし、咆哮はこの場に至るまで耳にしたどの魔獣のものとも一致せず、イーライは小さく舌打ちをする。
「ちっ! こいつは未知の魔獣かもな」
「でも、戦闘音がするってことは、二人はまだ無事だってことだよね!」
「……あぁ。間違いない、その通りだ!」
明日香の言葉を受けて思考を切り替えたイーライは、枝葉の隙間から見えた影に目を見開いて声をあげた。
「アスカ! ナツキのところで降ろすから、守ってもらえ!」
「わ、わかった!」
レイの腹を蹴って駆け出すと、大回りをして夏希の後方に回り込む。
「夏希ちゃん!」
「えっ? あ、明日香さん! それにイーライさんまで!!」
後ろから突然現れた二人に驚きながらも、夏希は聖女の守りを途切れさせることなく自らとガゼルに発動していた。
「助太刀します、ガゼルさん!」
「助かる、イーライ! だが気をつけろ! こいつら、強いぞ!」
『キイイイイイイイイィィイイィィッ!』
『ハアアアアアアアアァァアアァァッ!』
漆黒の体に覆われた四本腕の人型魔獣と、宙に浮いている涙を流しているかのような表情の人型魔獣。
ラクシアの森に生息している人型といえばゴブリン、人があまり足を踏み入れないような奥にオークが縄張りを作っている。
初めて見たイーライはそのどちらかの上位種が活性化したうえで突然変異を遂げたのだと思っていた。しかし――
「明日香さん! あの二人、凛音さんと冬華さんなんです!」
「……ええぇっ!! う、嘘でしょ!?」
「まさか、そんなことがあり得るのか?」
「本当だ! どうするよ、アスカのお嬢さん!」
「わ、私ですか!?」
何故か決定権を投げつけられて困惑する明日香だったが、この時点でメガネの表示に変化が現れた。
「えっ? ふ、二人の名前が、ちゃんと表示された?」
そして、直後に出てきた表示を見て目を見開き声をあげた。
「気をつけて! 魔法が来ます!」
「「――!?」」
『ハアアアアァァッ!』
賢者と呼ばれていた冬華の表示が出る涙顔の魔獣の周囲に、大量の火の玉が顕現する。
「バブルボム!」
そこへガゼルの水魔法、バブルボムが放たれた。
火の玉を包み込むように顕現したバブルボムが火の玉を消化しに掛かる。
しかし、水の量よりも火力が勝っているのか、先に消滅したのはバブルボムの方だった。
「ナツキ!」
「はい! 聖女の守り!」
何度も攻撃を防いで消滅しそうになっていた七色に輝く壁を再構築して守りを固める。
放たれた火の玉は威力こそ軽減されているが、それでも耳鳴りを誘発させるほどの爆発音を響かせて聖女の守りに激突した。
「こ、こんどは凛音ちゃんが来るわ!」
「こっちは俺が引き受ける! イーライはお嬢さん方と一緒にそっちを倒せ!」
「わかった! アスカ!」
「は、はい!」
今度はイーライから名前を呼ばれて反射的に返事をした明日香だったが、彼の顔が真剣そのものだと気づくとキュッと表情を引き締めた。
「俺は手加減なんてできない。だから、こいつを斬る」
「あっ……冬華、さん」
自分が助かるためなら、相手を殺すしかない。
その事実を嫌というほど理解させられた夏希は俯いてしまう。
「だが、もしもアスカが助けたいと願うなら、その方法を見つけて欲しい」
「私が?」
「あぁ。そのメガネでわからなければ、俺たちに二人を助ける方法は見つけられない。その時は覚悟していてくれ」
漆黒の魔獣が二人だとわかった途端に表示されたそれぞれの名前。
このメガネには、まだわからないことが多いのだと明日香は実感している。
ならば、自分の望みに応えるため新たな力に目覚める可能性もあるのではないかと考え始めるようになっていた。
「……五分だ。それを過ぎても方法がわからなければ、俺はこいつを斬る、いいな?」
「……わかった。それまでには絶対に助ける方法を見つけてみせる!」
「……明日香、さん」
「夏希ちゃんはイーライとガゼルさんを守ってあげて。これは、冬華ちゃんと凛音ちゃんを助けるためなんだからね!」
俯いていた夏希だが、明日香の力のこもった言葉を聞いて顔を上げると、二人を助けるためだと言われて表情にも変化が起きた。
「……わかりました、私も頑張ります!」
「よし! 私たちで二人を助けるわよ!」
「はい!」
「それじゃあ、いくぞ!」
『ハアアアアァァッ!』
二人の言葉を受けたイーライが駆け出すと同時に、漆黒の魔獣と化した冬華が咆哮をあげた。
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