第21話:ラクシアの森 3
街道に溢れていた魔獣からラクシアの森も似たような状況だろうと予想していた。
しかし、多くの魔獣が溢れていたのは森の入り口付近だけで、ある程度進むと魔獣は影を潜めて姿を見なくなってしまう。
「……まさか、この前のアースドラゴンと同じ状況なのか?」
「どういうことなの?」
「あの時はガゼリア山脈からカフカの森まで魔獣が続いていたが、あれはアースドラゴンから逃げてきたことで起きた現象だった。ここには魔獣がいないが、さっきの魔獣たちは似たようなものだろう」
イーライの予測は正しい。ただし、彼は一つの事実を見逃していた。
逃げてきた魔獣は活性化している通常よりも強い魔獣であり、野生の本能に目覚めた魔獣だ。
それらですらも逃げ出す存在が現れたということに、イーライは気づいていなかった。
「アスカ、二人がどこにいるかわかるか?」
「ちょっと待ってね!」
イーライの言葉に明日香は首を左右に振ってメガネが何か情報を拾わないかを確認していく。
「……あっ! あっち、左の方に二人がいるわ!」
「わかった!」
「でも……えっ? これ、なんなの?」
突然困惑の声を漏らした明日香に、レイの足を止めてイーライが振り返る。
「どうした?」
「……わ、わからない。でも、メガネがちゃんと、機能してないの?」
「だから、何がどうしたんだ?」
「その、二人とは別に何かいるんだけど……情報が、文字化けしているのよ」
メガネは確かに夏希とガゼルの情報を捉えている。
しかし、同時に文字化けする二つの謎の存在についても確認していた。
「モジバケ?」
「ちゃんと文字にならないで、意味不明な文字列になっているの」
「よくわからんが、そいつは味方なのか?」
「たぶん……違う」
「なら、やることは一つだ。大丈夫か、アスカ?」
二人を助けるために、イーライはレイを走らせる。彼はついて来られるかを確認していた。
「もちろんだよ、イーライ!」
そして、彼女は即答した。
不確定要素は多くある。それでも二人を助けるための選択肢は一つしかないのだ。
「アースドラゴンの時みたいに、サポートを頼むぞ!」
「わかった!」
明日香のメガネは相手を視界に収めると、次の行動を文字にして示してくれる。
彼女のサポートがあれば大抵の敵には勝てるだろう。
しかし、明日香は返事をしたものの頭の片隅では不安を覚えていた。
(相手の情報が文字化けしている。この状況でちゃんと次の行動が出てきてくれるの?)
不安が明日香の体を緊張させて、イーライにしがみついている腕に力が込められる。
(それに、どうしてここには魔獣がいないの? アースドラゴンの時は少なからず残っていたのに……)
全ての魔獣がラクシアの森を出ていったのか。それとも、別の理由から存在していないのか。
どれだけ考えても、明日香には想像すらつかない。
不安だけが頭の中に広がっていき、彼女のさらに力を込める。
「……大丈夫だ、アスカ」
「……イーライ?」
「何があっても、俺はお前を守る。ガゼルさんもいるんだ、ナツキだってきっと無事なはずさ」
明日香が緊張していることを察したイーライが、できるだけ優しい声音で語り掛ける。
その気遣いが嬉しく、明日香はなんとか気持ちを浮上させていく。
「……ありがとう、イーライ。そうだよね、きっと大丈夫だよね」
そして、言葉にすることでさらに自分を奮い立たせていく。
(そうだよね。私がこんな状態だと、イーライが心配しちゃうわ。気をしっかり持つのよ、大和明日香! 私にはできる、絶対に二人を助けるんだ!)
顔を上げた明日香の視界に映るのは、二人の名前と文字化けした二つの存在。
何が起きているのかはわからない。
それでも今は、前に進むしかないのだ。
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