第32話:魔獣との遭遇 5
「ほほほ。時間的にもそろそろお昼ですし、一度休憩を挟みましょうか」
「でしたら、キャロちゃんに戻ってくるよう連絡します」
明日香が遅れている事に気づいていたジジは、タイミングを見計らって休憩を挟む事にした。
索敵に出ていたキャロラインを呼び戻すために別の魔法をリザベラが発動させると、少ししてキャロラインが戻ってきた。
「へぇー。そんな魔法もあるのね」
「魔法というか、魔力をキャロちゃんが索敵に向かった方向に飛ばしているだけなんです」
「私たちだけの合図だよねー!」
一定の波長で魔力を飛ばし、その波長をキャロラインが受け取ると戻ってこいという合図なのだとリザベラが教えてくれた。
「二人だけの魔法って事だね!」
「うん! 私とリザちゃんだけの魔法なんだ!」
「で、ですから、魔法と言えるものではないんですよ!」
明日香とキャロラインが楽しそうに魔法だと口にした事で、そうだと思えないリザベラは恥ずかしそうに否定する。
三人が楽しそうに話をしていると、食事を鞄から取り出したジジが近づいてきた。
「皆さん。食事はこちらで準備していますよ」
「えぇっ! そうだったんですか! ありがとうございます!」
「ちょっと、キャロちゃん! あの、私たちは私たちで準備しますから、お構いなく」
「ほほほ、気にしないでください。みんなの分を用意しておりますから」
ジジの微笑みながらの発言に二人は顔を見合わせると、キャロラインがあっさりと食事を受け取ってしまった事もありリザベラも折れるしかなかった。
「本当に申し訳ありません。依頼主にご迷惑を掛けてしまって」
「こっちが勝手に準備したのですから、気にしないでください」
「……本当にありがとうございます」
「リザちゃん! これ、ものすごく美味しいよ! それに食べやすい!」
「キャロちゃん! 勝手に食べないでよ!」
キャロラインは森の中だという事も忘れて美味しそうにジジが用意した食事――明日香が命名したサンドイッチを頬張っている。
ため息をつきながらリザベラも口にすると、その美味しさに目を見開いてすぐに二口目を頬張っていた。
「まさか、森の中でこのように美味しい食事をいただけるとは思いませんでした」
「パンも普通のパンだね! 硬いパンじゃないよ、リザちゃん!」
「ほほほ。
魔法鞄が一つあるだけで荷物が減り、身軽に動く事ができる。
いつ、どこで魔獣に襲われるとも限らない冒険者にとっては当然と言える話なのだが、キャロラインとリザベラは苦笑いを浮かべた。
「そ、そうなんですけどね~」
「魔法鞄はとても高価ですから、私たちではまだまだ手が出ません」
「そんなに高価な品なの?」
「ほほほ。1メートル四方の質量を持つ魔法鞄でも、大銀貨一枚は必要になるはずじゃ」
「大銀貨一枚って事は……ひゃ、100万リラ!?」
あまりの高額に明日香は大声をあげてしまう。
日本で仕事をしていた頃にも、それだけの金額を手にした事はない。
そう考えると、駆け出しの冒険者である二人が魔法鞄を持っていないのも納得だ。
「まあ、いずれは手に入れたいと思っていますけどね」
「そうだよね~。二人だけとはいえ、荷物は多くなっちゃうもんね~」
まだまだ先の話になるとリザベラが口にすると、キャロラインはため息をつきながらサンドイッチを完食してしまった。
「……まだまだだな」
まだ食事の途中ではあるが、イーライは残りを全て口に放り込むと立ち上がり剣を抜いた。
「ど、どうしたの、イーライ?」
「来るぞ」
「え?」
何が来るのか、そう明日香が思ったのと同時に奥の草むらからホーンラビットが群れを成して飛び出してきた。
「キャロちゃん!」
「うっそ!? どこから現れたんだよ!」
「御託は後だ! まずは目の前の魔獣に集中しろ!」
「「は、はい!」」
群れの数は全部で十匹。
正面から突っ込んできた二匹をイーライが剣を薙いで首を両断すると、後続の二匹は袈裟に切って胴体が分かたれる。
「魔獣を殲滅しつつ、護衛対象をしっかりと守れ!」
「行くね、リザちゃん!」
「こっちは任せてちょうだい!」
護衛として役目を果たす、その想いが強く出たのかキャロラインが前に出た。
当然ながらリザベラが明日香たちの前に立って魔法で援護を行う。
右から突っ込んできた一匹を叩き切ると、大外から後ろに回り込もうとしていたもう一匹に剣を向けて威嚇する。
左からは三匹のホーンラビットが迫っていたが、リザベラが風の刃――ウインドエッジを飛ばして近づけないようけん制していた。
「こっちは終わった! そっちに行くね!」
手早く右の二匹を仕留めたキャロラインは素早く反転して左へと駆け出す。
正面に立っていたイーライが後方に下がったのを確認したキャロラインは、意識を左の三匹に集中させる。
魔獣の接近に気づけなかった事は不覚だが、ここで挽回しようとキャロラインも、実はリザベラも必死になっていた。
だが、ここで二人はさらなるミスを犯してしまう。
ホーンラビットの数は十匹。
イーライが切ったのが四匹、キャロラインが切ったのが二匹、左に三匹。
この時点で二人の視界に収まっているのが九匹である事を見逃していたのだ。
『ギュルルルルウウウウゥゥッ!』
「「えっ!?」」
最後の一匹だけが姿を見せる事なく、茂みの中を進みながら後ろに回り込んでいた。
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