第33話:魔獣との遭遇 6

 三匹を相手にしているキャロラインは身動きが取れず、唯一対応に回れるリザベラも突然の事に動きが遅れてしまう。


「はあっ!」


 しかし、最後のホーンラビットの存在に気づいていたイーライだけが即座に回り込み、突っ込んできたホーンラビットを細切れにしてしまった。

 何が起きたのか理解できなかった二人の動きが止まってしまったのだが、そこへイーライの怒声が響き渡る。


「動きを止めるな! まだ魔獣がいるんだぞ!」

「「は、はい!」」


 動きを止めていたのは二人だけではなく、三匹のホーンラビットも同じだった。

 そのおかげもあり二人は素早く動き出してあっさりと三匹を仕留めると、キャロラインが駆け足で戻ってきた。


「ご、ごめんなさい!」

「申し訳ありませんでした!」

「索敵は済んだのか!」

「「す、すぐにやります!」」


 謝罪が先かと思いきや、イーライの指示に従って二人は周囲の索敵を全力で始める。

 その間、イーライは腰に手を当て、まるで教官のように二人の動きを観察していた。


「……あの、イーライ?」

「これは、大マイナスだな」

「大、マイナス?」


 何を言っているのかと思ったが、目の前で索敵を必死になって行っている二人を見ているとそちらに気を取られてしまう。

 しばらくして戻ってきたキャロラインが問題ない事を伝えると、改めて謝罪を口にしてきた。


「本当にごめんなさい!」

「私たちのミスです! 休憩中だからと気を抜いてしまいました!」

「あ、あの、私たちはみんな無事ですし、そこまで謝らなくても……」


 あまりにも切羽詰まった感じで謝ってくるので明日香がフォローしようとしたのだが、そこにイーライの厳しい言葉が降り注ぐ。


「護衛依頼を甘く見過ぎだ! お前たち、護衛対象を守るつもりがないのか!」

「ちょっと、イーライ。言い過ぎじゃない?」

「いいや、これくらい言わないと意味がない! これからも同じような事をされたら、他の依頼人たちが被害に遭うんだぞ!」


 被害に遭う、そう言われて明日香は何も言えなくなってしまった。

 今回はイーライがいたから何事もなく終える事ができた。

 そもそも、彼がいなければ最初の襲撃で最悪の事態が訪れていた可能性だってあるのだ。


「……ごめん、なさい」

「……すみませんでした」

「……ほほほ。イーライ、そのくらいで終わりにしておきましょう。後は、彼らに任せて」


 最後にジジが二人の肩に手を置きながらそう口にすると、五人の後方の茂みから一人の男性冒険者が姿を現した。


「……気づいていたのか?」

「あぁ。最初からな」

「この子たちのケア、よろしくお願いしますね」

「……分かった。二人とも、こっちに来い」


 突然現れた男性冒険者に驚いたのは二人だけではなく、明日香も同じように驚いていた。

 二人と男性冒険者が何やら話をしている横で、イーライは明日香に声を掛ける。


「あいつは二人がちゃんと依頼をこなせるか見張っていたベテラン冒険者だろうな」

「……そ、そうなの?」

「あぁ。その辺りはジジさんの方が詳しいと思うが、俺の予想だとギルドも一枚噛んでいるな」

「ほほほ。イーライの言う通りじゃな。駆け出しを育てるために、彼もギルドから依頼を受けた冒険者じゃよ」


 明日香が視線をジジへ向けると、彼は微笑みながらすぐに答えてくれた。


「……そ、そうなんだ。えっと、イーライはその事を知っていたの?」

「いいや。だが、マゼリアを出た時から誰かがついてきているのは気づいていたからな。悪意もなかったし、こういう事だろうと思ってジジさんにも遠回しに確認を取ったんだよ」

「……全然、気づかなかったんだけど」

「あっちもそれなりに経験を重ねてきた冒険者だろうからな。上手く気配を消していたよ」

「……それに気づけるイーライって、やっぱり凄いんだね」


 明日香が感心していると、肩を落とした状態で二人が戻ってきた。


「……うぅぅ」

「……はぁぁ」

「……あの、大丈夫?」

「「……はいぃぃ」」


 返事はしてくれたのだが明らかに大丈夫ではなく、明日香はとても心配になってしまう。

 そんな姿を見て、今度はイーライが男性冒険者の方へと歩いていく。

 何やら話し込んでいる姿を見て、明日香は二人に視線を戻した。


「気にしないでね? 二人はまだ駆け出しなんでしょう?」

「そうなんだけど……うぅぅ」

「アスカさん、ジジさん。どうか最後まで、よろしくお願いします」

「ほほほ。もちろんですよ」

「が、頑張る! 挽回するもん!」


 リザベラが決意を口にすると、ジジがそれを受け入れて、キャロラインがやる気を取り戻す。

 その姿に明日香はホッと胸を撫で下ろすと、そのタイミングでイーライが戻ってきた。


「何を話していたの?」

「二人の事を伝えていた」

「……それ、プラスの感じで?」

「……まあな」

「「え?」」


 驚きの声は二人からだった。


「色々と指摘するべき部分は多いが、駆け出しでこれだけやれたのは良い方じゃないか?」

「……えっと、どこが?」

「それを本人が言うか?」

「あっ! ご、ごめんなさい!」

「でも……私たち、どこか良いところ、ありましたか?」


 キャロラインだけではなくリザベラも良いところが見当たらないようで聞き返す。

 イーライは口にすべきか迷っていたが、彼が口を開く前に男性冒険者がやって来た。


「彼の言によれば、良い部分と悪い部分、気になる部分と色々指摘してくれた。その中で、確認作業は当然ながら魔獣と相対した時の気迫は大したものだと。また、ホーンラビットの動きもしっかりと見極めており、魔獣の研究もしっかりと行っているのが垣間見えた、との事だ」


 その報告をした本人の前で言う事かとイーライは内心で思っていたが、二人からの追及がなくなり、直接伝える事もなくなったので最終的にはよかったかと考えていた。


「最終的な細かな報告はギルドで行うとして……二人は最後まで護衛依頼をこなすように」

「「はい!」」


 男性冒険者の言葉に二人が元気よく返事を返すと、彼はそのままマゼリアへ戻っていった。

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