第31話:魔獣との遭遇 4
「……本当にごめんなさい、イーライ」
「いや、初めての解体で気絶する奴は騎士の中にもいたりするからな」
「そうなんだ。……ちなみにイーライは?」
「俺は故郷でもやっていたから普通だな」
この世界では魔獣の解体は日常茶飯事なのかと考え、明日香は職業冒険者を選ばなくて本当によかったと心底思っていた。
「……それにしても、ジジさんも普通に解体を見ていますね」
「ジジさんも昔は冒険者だったらしいし、ポーションの素材には魔獣の素材も含まれているからな。明日香も調合をしているなら分かるだろう?」
「……そうなの? 私はまだ下級ポーションしか調合した事がないから分からなかった」
「って事は、やキュアポーションやカースポーションはまだって事だな」
イーライの話のよると下級ポーションでもキュアポーションやカースポーションには魔獣の素材が含まれていると聞き、明日香は感心しながら耳を傾けていた。
「……もしかして、魔獣の素材がないから基本のポーション調合をやらせてくれたのかな? でも、マジックポーションは?」
「そこはジジさんの判断だろうな。とはいえ、今日で魔獣の死体も見た事だし、明日からは全種類のポーション調合もあるかもな」
「そ、それはそれで頑張るよ! 私の仕事だもの!」
少しばかりからかいの気持ちもあったイーライだが、明日香の素直な決意を耳にすると申し訳なさを覚えてしまう。
「……まあ、そうなったら必要な素材があれば俺が取りに行ってやるよ」
「え? でも、護衛だよね? ってか騎士の仕事は?」
「お前のためだと言えば殿下もバーグマン様も認めてくれるだろう」
「いやいや、本職を疎かにしてまではさすがにダメでしょ?」
「いいんだよ」
「……でも」
「いいんだ!」
申し訳なさからくるイーライの態度に首を傾げていると、解体が終わり今度はリザベラが魔法で遠方の索敵を開始する。
リザベラの索敵魔法が発動されると、明日香は不思議なものを目にする事になった。
「……うわぁ」
「どうしたんだ?」
「なんだろう、リザベラちゃんから波のように緑色の何かが外へ押し出されているよ?」
「お前! ……あー、なるほど。そういう事か」
明日香の発言に驚きの声をあげた直後、イーライは何かを察したのか顔を押さえて納得する。
「ど、どうしたの?」
「……それ、絶対に人前で口にするなよ? たぶん、そのメガネの効果だから」
「……そうなの?」
「アスカが見た波はおそらく魔力の波動だろう。ただし、普通は魔力を見る事なんてできない」
「……あ、ジジさんもそんな事を言っていたような気がする」
「そのメガネが魔力を可視化しているんだろう。だから、絶対に口にするなよ!」
改めて念押しされてしまい、明日香は何度も頷く事しかできなかった。
「……大丈夫です。だいぶ先まで索敵しましたが、魔獣はいないみたいです」
「そうですか。では、中に入って薬草採取を始めましょうか」
「索敵済みの場所より奥へ向かう事になったら、またご報告いたします」
「私は索敵漏れがないよう、常に動き回っているからね!」
「ほほほ。よろしくお願いします」
二人による索敵も終わり、明日香は差し出されたイーライの手を取って立ち上がる。
なんとか動けるようになっており、明日香は改めて気合いを入れ直して歩き出す。
「……まあ、合格ラインだな」
「ん? どうしたの、イーライ?」
「いや、独り言だ」
「ほほほ。行きましょうか、アスカさん」
「あ! はーい!」
森の入口から少し外れた場所を横目に見ながらイーライもジジたちに続いて歩き出すと、明日香は初めて薬草採取を始めたのだった。
――薬草採取を始めてから二時間が経過した。
索敵をしながら護衛を務めているキャロラインやリザベラ、高齢にもかかわらず自ら薬草採取に足を運んでいるジジ、そして日頃騎士として訓練を積んでいるイーライ。
「……はぁ……はぁ……ふぅ……ふぅ……み、みんな……凄いなぁ……」
そんな中で一人後れを取っていた明日香は大きく肩で息をし、足取りもふらついていた。
「……お前、体力なさ過ぎるだろう」
「……か、会社員、舐めるなよ~。デスクワークばっかり、だったんだからね~」
「……何を言っているんだ?」
「……ごめん、なんでもない」
ちょっとした弱音を吐きながらも時折しゃがみ込んでは薬草を採取して腰に下げた布袋に入れて進んでいる明日香。
それらの薬草は森歩きに慣れているジジが見落とした薬草でもあり、イーライはその姿を驚きのまま見つめていた。
「……あー、実は、これもメガネの効果なの」
「そ、そうなのか?」
「うん。視界に映った薬草だけなんだけど、ポップアップみたいに名前が出てくるんだよね」
「……ポ、ポップ、アップ?」
「まあ、名前が出てきて、ここにあるよーって教えてくれるみたいな感じ?」
ざっくりとした明日香の説明でもなんとなく状況を理解したのか、イーライは感心した様子で明日香のメガネを見つめた。
「ステータスの鑑定だけじゃなく、素材の鑑定も自動的にやってくれるのか。本当に凄い魔導具だなぁ」
「……イ、イーライ? その、近いんだけど?」
まじまじと見過ぎてしまいゆっくりと近づいている事に気づかなかったイーライ。
明日香に指摘されて気がつくと、その距離は30センチも離れていなかった。
「――!? す、すまない!」
「ほ、本当だよ! 全く……あー、暑いねー!」
森の中の方が涼しいのだが、慣れない森歩きのせいで汗をかき体も火照っている。
イーライもこの時だけは顔が熱くなっており明日香に同意を示した。
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