閑話・アルの苦悩
突如として異世界に召喚された四人の学生たち。
彼らは最初こそ驚きはしたものの順応力が高いのか、現れた一国の殿下に対して傲慢な態度を取りながら話し掛けていた。
「だからよぅ! 俺様は勇者だぜぇ? だったら贅沢させてもらってもいいよなぁ!」
「もちろんです。我々がお出しできる最大限の歓待をさせていただきます」
「んじゃあさぁ~! イケメンを揃えてくれる? 私の専属執事として~!」
「私には知的で優秀な方をお願いします」
「えっと、あの、私は……いえ、私もその……」
勇者と呼ぶには無理があるような性格の四人を相手に、アルは怒りが表情に出ないよう抑えながら対応していた。
「な、なるべく揃えさせますが、人材は宝ですから全てにお応えするのは難しいかと思います」
「あぁん? てめぇは王子様なんだろう? だったらこれくらいの要求くらい飲みやがれ!」
「そうだ! そうだ~!」
「よろしくお願いしますね」
「あの、私はその、普通でも……」
「……努力させていただきます」
そう口にしたアルは四人を部屋に案内するようメイドたちに伝えると、一度気持ちを切り替えるためにその場を離れていく。向かう先は、もう一人の召喚者の下である。
(あの四人があのような性格だった。という事は、巻き込まれたというあの女性も……はぁ)
内心でため息をつきながらも、任せたリヒトも同じように大変な思いをしているかもしれないと考えると自然と早足になっていた。
そして、到着したリヒトの執務室を前にアルは気を引き締め直していた。
――コンコン。
意を決し扉をノックしてから少し待ち、リヒトが中から現れた。
不安が顔に出ないようにしていたが、汗で髪が額に張り付いている事も忘れて中に入る。
しかし、巻き込まれた女性は自ら自己紹介をすると、殿下であるアルに頭を下げてきたのだ。
岳人たちとの対応に雲泥の差を感じたアルは驚きつつも、リヒトから明日香が心優しい女性であると聞き、心のどこかでホッとしていた。
しばらく三人で話をしていたのだが、アルにはやらなければならない事が山ほど残っている。そして、その大半が岳人たち関連のものだ。
ずっとこの場で話をしていたい、その可愛い笑顔に癒されていたい、そう思う気持ちに蓋をして立ち上がると部屋を後にしようとした。
しかし、せっかくの出会いをここで終わらせるのはもったいないと感じたアルは最後に明日香へ爆弾を落とした。
「そうだ、ヤマト様」
「なんですか?」
「私の事は殿下ではなくアルと呼ぶように」
「……はああぁぁあぁあっ!? ちょっと殿下、それはさすがに――」
「それでは失礼します」
驚きの声をあげた明日香を見て、ちょっとした悪戯が成功したとアルは内心で微笑んでいた。
悪戯をされた方の明日香からすると堪ったものではないが、それでもアルは嬉しかった。
(ヤマト様は何と心優しき女性なのだろうか。それに比べて、あの四人の方々は……)
だが、これから向かう先で出会うだろう岳人たちの事を考えると、次第に気分が落ちていくのは仕方がないだろう。
(……ヤマト様が勇者であれば、こうはならなかったのだろうか)
そして、明日香が勇者であればと思ってしまうのもまた、仕方がないのかもしれない。
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