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 肌では暑いと感じていなかったが、季節が夏に向かっているせいか、駅前の大通りに出るころにはじんわりと汗をかいていた。


 少し涼んでから帰ろう。


 休めるところがないか探すと、ちょうどいい距離に本屋を見つけた。そういえば家で過ごす時間の中に読書はなかった。ちょうどいいからなにかいいものがないか見てみようと足を向ける。


 店内は快適な温度で保たれていた。


 汗が引いていくほど涼しくはないが、外との温度差が少ないのは菜月の体にとってありがたい。


 ずらりと並ぶ本棚を眺め、新作の棚からハードカバー、新書、文庫の順で渡り歩く。きれいな風景写真やかわいい絵柄のカバーがずらりと並んでいて目移りする。


 流行りにも本にも詳しくない菜月は、題名と表紙が気に入ったものを適当にいくつか手に取る。その中から裏表紙のあらすじを読んで面白そうだと思った一冊を購入した。


 袋を手に提げて本屋を出ると、出入り口近くに無料の求人雑誌がおいてあるのに気がついた。


 いつか復帰でもできれば、と思っていた就職先は、手術前に退職をしていたようで菜月が戻る場所はなくなっていた。


 一緒に住んでいるとはいえ、このままずっと金銭面を拓巳の世話になるつもりはない。短時間でもいい、どこか菜月を必要としてくれる場所があれば、そう願って雑誌を手に取った。


 家に戻って帽子を外した瞬間、昼食を買うのを忘れていたことに気がつく。久々の外出にそこまで浮かれていたのかと少し自分を恥じた。


 また外に出る体力は正直今の菜月には残っていない。コンビニもスーパーもマンションから少し歩く。仕方がない、冷蔵庫に残っているもので適当に済まそう。


 洗濯機を回してからキッチンに移動する。


 一通り材料はそろっていてなにか作るには申し分はなかったがどうも食欲がわかない。そうはいっても薬が菜月を待っている。食後と記されている以上、なにか胃に入れなければならない。


 悩んだ末、結局食べずに病室の冷蔵庫にしまっていたフルーツゼリーを手に取った。少し眺めてミカンを選ぶ。ビニールのふたを取ってスプーンで流し込むように食べ、薬を飲んだ。ごみを捨てたところでタイミングよく終わった洗濯をベランダに干し、ソファーに座った。


 一息ついて文庫本を手に取ってページをめくる。

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