第二十二話
~第二十二話~
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あぁ…一応身内に一人居たな、まともな年寄り。
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「まさか断りを入れに来るどころか自薦の為に乗り込んで来るとはな…正直意外だったよ」
「"貰える物は病気以外貰っとけ"はウチの家訓でしょうよ?」
「…義父上にはそろそろ発句を控えて頂きたいものだね」
「もうぞろ家訓録を積み上げたら庭の生垣くらいは越えるんでない?」
「甘いな、既に二階の天井に届かんばかりだよ」
「いや試したんかい」
王宮の敷地内に建てられた近衛統帥部、総隊長の執務室で祖父と久方ぶりの再会を果たした。衛兵が茶の用意を整える間にも進まんとした話の腰を折って雑談で時間を稼ぐ。控えてるのが従兵なら問題は無かったんだが…。
「あまり警戒し過ぎずとも良いと思うのだがね…此処に来る前に話は通して来たんだろう?」
「…お耳の早ぇこって、影働きの連中も息災の様ですな」
「お前も近頃は似た連中を用いる様になったらしいね?…孫の成長が嬉しいよ、エカテリーナは気付いていないようだが」
暗に『早さだけではないよ』と言いたいのだろう。満足げに頷いて見せこそすれ、眼光の鋭さを隠そうともしない。此方が敢えて放った草の存在を"見せる"様に動かした事にも察しがついているに相違ないだろう。
「…まぁ総隊長殿のご手腕に比べれば飯事程度に使ってる間諜ですがね、"腹芸に疎い"って評価が少しは覆ると期待しましょう」
「考えておこう」
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「新編大隊の部隊構想だ、人員が整うまでは統帥部直下の実験部隊として運用する心算でいておくれ」
差し出された書面にざっと目を通す。大凡そは事前の調査通り…『近衛特務監査大隊』、ねぇ…。大仰に見えなくもないが、後の事を考えればさもありなんか。
「編成について、何か意見が有れば聞いておこうか」
机上に肘を突き手を組んだ祖父が無感動な風を装って訊ねてくる。要は"書面の粗を探せ"ってぇ試験の一環な訳だ。
「…"当面は独立大隊として運用"って事であれば、編成に威力偵察の部隊が必要でしょう」
「従士第二大隊から抽出した騎兵中隊をそれに充てる予定だったのだがね?」
「いやご冗談でしょ…ヴィクトリアは二軍じゃあ珍しく野戦向きの指揮官です、有事の際に止めに使うべき部隊を斥候にゃ出せませんよ」
言うなれば二軍の仕事を一部肩代わりする部隊だ、どうせなら序でにジョルジュの捜索騎兵も引き抜いて全体の機動力を底上げしたい。抑々指揮官補佐にコレーを置いて特技兵中隊を俺の直卒にするなら”同郷で一人だけ仲間外れ”ってのも後で何を言われるか知れたもんじゃねぇ…。
「あまり気心の知れた顔触れで固め過ぎるのもどうかと思うがね…」
「あの連中が俺に遠慮して統率がなぁなぁになる事は絶対ぇないから大丈夫でしょうよ…何より次席指揮官がアイツじゃあねぇ…」
「あぁ…それもそうだね、御愁傷様」
事も無げに言いやがる…やっぱこの人も狸具合で言うなら大概だったわ…。
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