第13話 ダンとのやり取り
本当の私のこと。
そう言えば、記憶を辿ろうとしても、思い出すのはベルリアの過去。
たまに抜けている部分もあるけど。
そこに感覚で残っているような本当の私の記憶。
でも鮮明には思い出せない。
そもそも、私の名前は?
私は豪華な天井を見つめながら必死に思い出そうとするが、全く出てこなかった。
『無理に思い出さずとも、自然に思い出すさ。』
脳内にベルリアの声が響く。
「分かったよ。記憶のことは後でいいや。まずは、ダン。」
私はベットから起き上がり部屋を出てある部屋を目指す。
長い廊下を歩きながらどんどん薄暗い所へ入り込んでいく。
地下牢だ。
地下牢の入口の扉を開けた時、複数の声が聞こえてきた。
進んでいくと、牢屋で手を縛られたダンと、ダンに向かい合っているノバレンが見えた。
「優しく聞いてるうちに全部吐いて。僕もお前を傷つけたいわけじゃない。」
ノバレンの優しい声が聞こえる。
「…話すことは無い。殺すなら殺せ。」
「頼むダン。脅されていると言ってくれ。」
「殺せ。」
ダンは絶対に言わないだろう。それはもちろん兄弟の為。
「…分かった。それじゃあ、悪いけど、ここで死んでもらうしか無い。」
そう言うとノバレンは腰に刺していた剣を抜いてダンに向けた。
それを見ていた私は慌てて間に入った。
「待てノバレン。」
「ベル?来てたの?」
ノバレンは剣を鞘に収めると駆け寄ってダンから距離を取らせるように手を引いてきた。
「ノバレン、ダンと2人で話したい。」
「…分かった。」
「ありがとう。あと、紙とペンを頼む。」
ノバレンは近くにいた兵士に指示を出すと直ぐに紙とペンと、あと、机と椅子が用意された。
無駄に豪華な机と椅子。
この場所には合わなすぎて少し笑ってしまった。
ノバレンは心配そうに私たちから離れると、姿を消した。
多分、会話が聞こえるか聞こえないかのギリギリのところに居るだろう。
私は気配を確認してダンに向き直って話し始めた。
「ダン。私と少し昔話をしないか?」
ダンは警戒しながらも私の向かいの椅子に座った。
「そんなに力むな。ただの昔話だ。」
私は直ぐに紙に書き始める。
「私とダンが初めて出会った場所を覚えてるか?」
(人質は兄弟?)
ダンは紙を見て私の意図がわかったようだった。
「…港の奴隷市場。」
(兄弟みんな捕まってる)
「そうだ。あの時、1人だけ売れ残ったお前を買ったのが私だった。」
(誰に?)
「あの時のことは本当に感謝してる。でも、今はもう違う。」
(コール・ディアンベル)
ベルリアの言った通りだ。
「それはどういう意味だ?」
(なんで本当のことをしゃべらない?)
「意気地無しの皇帝はもういらないってことだよ。」
(聞かれている。もし喋れば兄弟が殺される。)
「私が戦を始めないのがそんなに不満か?」
(いつから?)
「不満だ。酒に溺れ、今は人殺しを趣味にして、それなのに戦争はせず、殺すのは味方ばかり。挙句奴隷を買ってきて、そいつらも殺して。本当は俺も殺すつもりだろ!」
(ベルに助けて貰ってすぐ。)
「なるほど。しかし、それは仕方ないと思わないか?私は皇帝だ。民は皆私のものなんだ。どうしようが勝手だろう?」
(分かった。あとは任せろ。)
「このっ!!あんたは人の命をなんだと思ってる!!」
(ありがとう。ベル。)
「ただの玩具だ。ノバレン!!こいつを私の部屋に縛って置いておけ。今日で夫婦ごっこは終わりだ。」
私はノバレンを呼び今までのやり取りを記した紙を折り畳んだ。
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