第7話 私の願い

私は1度も「おかえり」なんて言ってもらった事がなかった。


両親が居ないからだ。


正確には、本当の両親が居ないから。


本当の母は私を産んで直ぐに亡くなったという。

父は知らない。どこにいるのかも、誰なのかも、生きているのかさえも、分からない。


物心着いた頃には1人だった。

家には誰も居ない。


違う。居たけど、居ないようなものだった。


育ての両親は無口な人達だった。

私の事をなるべく遠ざけようとしているのも分かった。


話しかけると嫌な顔をして無視するか部屋に籠ってしまう。


それでも必要なものを紙に書いておけば用意してくれてた。


ご飯もちゃんと毎日作ってくれてた。


ただ、会話が無かっただけ。


だから、学校に行っても人との話し方がわからず、ずっと独りだった。


だから私は、本を読むようになった。


初めて読んだ本は主人公のコミュ力が中々高かったのを覚えている。


人と話したかった私は、その本の主人公の真似をするようになった。


話し方も、テンションも。


けれど、遅かった。


1度植え付けられた印象はそう簡単には変わらないもので、勇気をだしてクラスメイトに話しかけた時、


「キモイ。」


と言われ、もう無理なんだと気づいた。


大人になって仕事を始めた。

人と関わらなくていい仕事だった。


お金が少し貯まると家を出て一人暮らしを始めた。


私はこの時、本当に一人になった。


家に帰ったら今まではあった人の気配が全くない。

それはそれで寂しくて。


たとえ話さなくてもいいから、私にとっては育ててくれた2人が親だったから、せめて、同じ空間にいるだけでも良かった。


私にはずっと願いがあった。

それは、一言、「おかえり」と言って欲しい。

誰でもいいから。一言だけ。1度だけでいい。


「おかえりなさい。愛しのベル。」


この一言で私の世界は一気に変わった。


たとえ本当の私に向けてじゃなくても、今はベルリアである私に言ってくれている。


初めて聞いたそれは思ってたよりも嬉しいもので、つい泣いてしまった。


こんなにも心が暖かくなるなんて。


泣いていると、誰かが私の頭を撫でているように感じた。


あぁ、ベルリア、ありがとう。あなたが愛されてる人でよかった。


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