第1958話 異常事態

 他には敵を発見することは出来なかった。痕跡のようなものはあったが、少なくとも1ヶ月は経っていそうな痕跡だったので、頭の中から排除することにした。俺たちやギリースーツの奴みたいな、イレギュラーな存在でなければ、1ヶ月も生きていられないだろう。


 今日発見したグループは、どれだけ数がいるのかまだ分からないが、1ヶ月は過ごしていないだろう。周囲に痕跡を残すような愚行は犯さないだろうが、生活していれば分かりにくくても痕跡が増えていくのが普通だ。その痕跡が少なかったので、長くても2週間くらいじゃないかと思っている。


 拠点に戻ってくると、見た感じ何も変わっていないな。木の天辺に近い位置から崖を見ることで、入り口がやっとわかる状態だった。それもそこに入り口があると言われて、初めて気付けるような物だった。


 元々あった崖の窪みを利用しているため、よく観察しないと入り口があるように見えない。一番近い木から10メートルくらいあるので、俺たちくらいの身体能力がなければ、辿り着くのも大変かもしれないな。シングルクラスの身体能力なら問題ないだろうけど、苦労してまで行こうとは思わないだろう。


 中に入ると、リビングと寝室が完成していた。リビングに直結する形で、俺とライガの寝室が作られていた。バザールは必要ないとのことで、何かあればリビングで過ごすそうだ。


 バザールがサイレントアサシンを使って、資材などをこちらへ運んでいるので、こっちにも工房を作るそうだ。何かあったときに作れるのは、強みになるからな。


 お風呂も完成しており、すぐにでも入れる状態だった。ライガに勧められて俺が先に入り、ライガが次に入る。贅沢を言えば……リビングの椅子のクッション性能を高くしたい。ベッドはしっかりと体を休めるために必要なので、2人分を持ってきたが、椅子は持って来ていなかったのだ。


 リビングを使う時間は少ないから、バザールが気にしないのであれば問題ないと思う……1週間はいるつもりは無いので、我慢すればいいだけの話か。


 バザールが上下にある外を覗ける場所へ案内してくれた。


「綾乃が置ていってくれた素材を使ったのか?」


「クリアメタルを置いていってくれたでござるから、外側を開け閉めできるようにしてあるでござるから、使っていないときや、見つかりにくい時は隠しておけば問題ないでござる」


「無駄にギミックを仕込んだんだな。ここを使うことは無いだろうけど、お疲れさん。報告することも無いし、飯を食ったら寝るかな」


「そうでござるな。生身の御二方はゆっくり休む方がいいでござる。某は、あのグループの監視と、拠点の整備をしておくでござる。柔らかいクッションの様なものは作れないでござるが、体にフィットするような形にはできるので、座り心地は良くなると思うでござる」


 俺が気にしていたことを、可能な限り整えておいてくれるようだ。


 まだ眠気が残っている深夜に、バザールに起こされた。何事かと思ったが、緊急事態と言うほどではないが、報告をしておいた方がいいと思ったようで、俺を起こしたようだ。ライガもすぐに起きてきた。


「で、何が起きたんだ?」


「今から2時間ほど前に雨が降ってきたのでござるが、その雨が1時間前にスコールの様な大雨に変わり、ずっと続いているでござる」


「雨は問題ないけど、その降っている量がすごいってことか。ちょっと見てみるか」


 俺とライガは、入口から外に出て、外の様子を眺める。


「これは予想以上だな……梅雨前線みたいなのが、この上空にかかっているのかね? これで行動するのは……少し無謀な気がするが、休みたくなかったりするんだよな。昨日発見した奴らの洞窟はどうなってる?」


「出入りを確認したところ、6人は確認できたでござる。サイレントアサシンを倒した勇者を含めると、7人はいると思うでござるよ」


 思ったよりいるんだな。


「入り口から、水が入り込んだりはしていないか?」


「それは無いでござるね。入り口は少し高い位置にあって、吹き込んだ雨の水くらいでござるよ」


 入り口を観察できていなかったので、知らなかった事実が判明した。


「この雨に乗じて侵入するのは……あまりいい作戦とは言えないか。これだけ雨が降ってると、ライガの鼻もさすがに役に立たないよな?」


「雨の匂いが全てを消してしまうので、厳しいですね。普通の雨であれば、問題ないと思いますが、制度は下がってしまうと思います」


 雨なんだから仕方がないよな。俺の気配察知もジャングルの中で精度が下がっているのに、更に雨で制度が下がってしまう。


「やっぱり、この状態が続くようなら、外に出るわけにはいかないよな……食料はライガが生み出せるから、引きこもっても問題は無いけど、することがないんだよな」


「確かにここには何もないでござるからね、体を鍛えたり動かしたりするくらいしかできないでござるな」


「それしかないか。バザール、俺たちがある程度力を入れて動いても、問題ない広い空間って作れたりするか?」


「体への負担を無視していいのでござれば、部屋を頑丈にすることを問題ないでござる」


 バザールに広い空間をお願いして、もう一度寝ることにした。



 起こされたのが体感で深夜の1~2時くらいだと思う。次の日に目が覚めたのは、日が出てくる時間だろう。おそらく6時ちょいすぎくらいだと思う。正確な時間は時計が無いので分からないが、問題は無いだろう。


 バザールはリビングにいなかったので、外の様子を見る。


 様子は変わらず、土砂降りだった。


 これだけ降っていると、地面に水がたまるを越して、小さな池が出来てもおかしくないと思うのだが、それはどうなんだろうか?


 俺が起きてきたことに気付いたバザールが、声をかけてきた。


「雨は止まなかったでござるから、体を動かせるようにしっかりと運動場を作っておいたでござる」


 バザールは、大きな空間を運動場として作ったそうだが、豆腐かかまぼこ型なのではないだろうか? 俺の予想通り、かまぼこ型の空間が作られていた。強度の問題で、豆腐よりはかまぼこにしたらしい。


 ライガに飯を出してもらって、朝食時に情報のすり合わせを行うか。

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