第1957話 強敵がいるのか?

 バザールに案内されて連れてこられた場所は……思ったより見晴らしが良かった。山の中なのでジャングルのような場所なので、見晴らしがいいというのもおかしな話だが、切り立った崖があり、その上からみると高い木の上を見ることができたのだ。


 この切り立った崖は、周囲の木の高さより高い崖だ。見晴らしはいいが、山や森の中は全く見えないという、何とも言い難い景色だな。


 バザールの意見は、崖の20メートルくらいの地点に、入り口を作ってはどうかというものだ。身体能力の上がっている、俺たちと同じゲーム盤の駒なら登れる距離だが、カモフラージュをするのでそもそも登ろうとは思わないだろう……という意見だ。


 確かに安全性という意味では、前の拠点よりは侵入しにくい場所だな。それにそこから上下に掘って、森の中も木の上も見られるようにするらしい。そこまでする必要は無いと思ったが、バザールは寝なくてもいいので暇なのだとか……それで拠点を広くしたいわけだな。オーケー許可しよう!


 とりあえず、寝る場所と風呂、食料庫を始めに頼む、俺たちは周囲に敵がいないか確認してくるわ。


 山の中なので敵が多いとは思わないが、ギリースーツの奴みたいにイレギュラーがいたら困るので、初めに索敵をしておこうという考えだ。


 俺は気配を、ライガは匂いを元に敵の有無を判断するので、2人で調べれば安心だろう。ジャングルなのでライガの能力の方が、俺よりは確実性が高いが、1人での確認より複数での確認の方が絶対にいい。安全確認は念入りにしておくべきだ。


 2人で一緒に敵がいないか探していると、2キロメートルほど先で敵を発見する。山の頂上側でも森側でもなく、同じくらいの標高の位置に、複数人が集まっているのを発見する。


 拠点を作った位置は、シュウが移動していた場所から、結構な距離を西に進んでいるので、俺が数日間探していたときの範囲外で、こいつらの存在に気付けていなかったようだ。森の中も西に向かって探していたけど、ちょうどあいつらの位置を避けるような形だった。


 さて、敵を発見してしまったがどうしようか? バザールにも声をかける。


「某は、拠点作りの方が大切でござるから、2人で殲滅できるなら数を稼いでもらって構わないでござる。最悪2人が先に帰っても某なら、食料も必要ないでござるし、寝る必要もないでござるから、何とでもなるでござるよ」


 とのことだ。この中で帰る順番をつけるなら、俺・ライガ・バザールの順だってさ。ライガは、俺が帰る前に戻ることは無いと言い切っている。バザールは先に帰る理由がない。俺は今回の事を改めて家族に説明する必要があるから、先に帰った方がいいと言われている。


 早く帰りたい気持ちはあるけど、2人を置いていくのもできれば避けたいので、数が揃うように調整するつもりではある。まだ2週目の1桁なので、ここで10人くらい殺したところで、誤差の範囲に収まるだろう。


 そう判断して、敵の拠点らしき場所を奇襲することに決まった。


 例の如く、俺とライガは木の上からゆっくりと近付き、敵の拠点を観察することから始めた。


「ライガ、どう見る?」


「多分洞窟があるのではないかと思います。そのなかに水源があるのではないかと判断します」


 ライガは、洞窟があってその中に、潤沢に使える水源があると考えているようだ。その判断の理由として、匂いをあげていた。数日間体をきれいにしていない人間の匂いは、すぐに分かるのだとか。でも、その特有の匂いが薄いので、体を清潔に保てるだけの水が存在していると判断したようだ。


 洞窟の中を川が流れている可能性もあるか? それとも地底湖の様に、水が溜まっていたりするのだろうか?


 どちらにしても、山の中を通って湧き出ている水が水源であれば、飲むのにも適している可能性が高い。体を洗うことができるくらいの水源であれば、複数人が生活するのは問題ないだろう。


 問題になるのは食料位なものだが、広い空間があるのであれば、動物を仕留めて捌くことも出来るだろうし、生活の拠点としては悪くない場所だと思う。


 どうやって攻めますかね……綾乃の置ていってくれた薬の出番か? あの眠り薬は強力だから、使いどころを間違えなければ一網打尽にできそうだが、洞窟の広さが分からないので、無駄に終わる可能性も高い。


 ということで、バザール先生! 中の偵察をよろしく頼む!


 俺にサイレントアサシンみたいな隠密行動できる技術があれば、自分で行きたかったのだがさすがにあいつほど上手く行動できないからな……なにせ、影ができる場所なら、姿を隠したまま移動できるとか、反則だよな。


 10分くらいすると、バザールが声をあげた。


「しくじったでござる。あの洞窟の中をある程度調べられたでござるが、中に勇者がいてサイレントアサシンが見つかり、殺されてしまったでござる」


「ここにきて、そこそこ優秀な勇者の称号もちか……操っていたのは、強化したサイレントアサシンか? まじか~、強化した方をあっさりと倒すのなら、シングルクラスの力があると考えた方がいいな。俺とバザールは、相性が悪そうだな」


 まだ若い勇者だったようで、レイリーみたいな年の功があるわけじゃないのが救いかね。戦力で考えれば負けは無いと思うが、不確定要素は排除しておきたいな……バザールに監視を任せて、敵が何人くらいいるのか確認してから殲滅するという話になり、他に敵がいないか探すことにした。

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