第1954話 目標の1つをクリアした

 ノルマを達成した後も、精力的に活動して敵をあぶりだす。


 戻るまでに捕らえた数は、8人。昼食後の3人を除けば5人だな。思ったより少ないと思うべきか、敵が少ないから遭遇できないと思うべきか、どっちなのだろうか? 全員が帰るための数が、存在しているか不安になる。


 地球からの人間の事を考えれば複製されているので、数は神の気持ち次第で増やすことは可能なはずだ。となれば……ポンコツ感が否めないチビ神だが、俺がせっせと貢いでいるので、神としての格は高い。少なくとも俺たちが帰るまでは、数を維持してくれるはずだ。


 俺たちから見れば、こっちの事情を無視して好き勝手にやっている印象だが、創造神の作ったルールの中で好き勝手しているのだ。この状況のまま、放置されることはと思う。


 このゲームが何のために行われているのか分からないが、一定のルールがある以上、ここに取り残されて終わり! ということは無いはずだ。少なくとも終わる時には、帰る条件が提示されると思う。


 何があってもウルを帰すことができるので、気が楽になった。


 色々考えながらだが、山のジャングルを抜ける際は気を張っていたので、特に何もなくて助かった。精神的に緊張している状態が、俺にとって一番つらいかもしれないな。ディスtピアに帰れば、ここまで気を張ることなんてないだろうけど、勝手の違う世界だとそうもいかない。


 バザールは、捕らえてきた人間を収容するための地下牢を、ここの守りに残しておいたエルダーリッチを使って、急造していた。その中には、予想を超える人数が収容されている。


 バザールの本体は数が足りてなかったから、連れ帰っていないはずだから、俺が捕らえた8人以外はライガに捕まったということだろう。牢屋の中には、少なくとも20人はいるだろう。これならバザール分も足りそうな気がするな。


 薬によって強制的に眠らされたこいつらは、衛生面が最悪の状態でここに収監されているのだ。まだ半日も経っていないのに、何年も掃除してない部屋みたいになっていたので、スキルを発揮させるととんでもないことになるので、意識的に行っていない。


「酷い匂いだな……」


「そうでござるな。某は骨でござるから、感覚器官をオンオフにできるでござる」


「骨だからって……それは関係ないだろ。骨なら本来は死んでるからな! ライガ、お前は後何人だ?」


「クサイ……」


 獣人の臭覚には、かなり辛いようだ。


「綾乃殿が用意した睡眠薬は、強力過ぎるでござるな。何を使って、生成したのでござろう……強力過ぎなうえに、筋弛緩のようことも起きているでござるな」


 睡眠薬って強力過ぎると、糞尿を垂れ流しになるのだろうか? 睡眠薬にクダスンデス改みたいな効果が付いているのかな?


「下手に起きられるよりマシでござるから、死なないならそれでいいかもしれないでござるな」


 バザールが1人で納得しているようだな。確かに死ななければ、何の問題もない。


「俺は、後2人だけどライガは何人だ?」


「カウントが間違っていなければ、シュウ様と同じ2人です」


「某は、後13人でござる」


「ってことは、ウル・綾乃・ロジーの3人は帰せるってことか。少しカウントが間違っていても、余分にいるから問題なさそうだな。ウルたちに声をかけにいくか」


 バザールが魔法でふさいだ入り口を、魔法で発掘している。安全のためにやった事とはいえ、少し大変だな……バザールがな!


 発掘が終わると、リビングスペースで3人がくつろいでいた。


「3人とも、ちょっと話を聞いてくれ」


 そう言って、綾乃の聞いた情報が間違ってなければ、3人が帰れることを伝えると喜んでくれた。綾乃は少し複雑な顔をしているが、喜んでいないわけではなさそうだ。何か思うことでもあるのかね?


 帰る準備といっても、持ち込んだものがほとんどないので、すぐに準備が終わる。


「ウル、お父さんはもう少し残らないといけないけど、すぐに戻るから、ミーシャたちやお母さんたちに心配しないように伝えてくれ。細かい報告は綾乃がしてくれるから、ウルは戻ったらしっかりと体を休めるんだぞ」


 帰れる喜びはあるが、みんなで一緒に帰れないので、少し泣きそうな顔になっている。少し乱暴に頭を撫で、髪の毛をワシャワシャする。


「じゃぁ、突然戻ることになるかもしれないけど、驚かないでここで待っててくれ。綾乃、帰る前にちょっといいか?」


 そう言って綾乃を近くに呼ぶ。もしもの時は、シルクちゃんとツィード君にお願いするように伝えた。トラウマみたいになったら困るので、それならいっそのこと忘れさせしまうという選択肢もありと考えている。


 最終的な判断は、妻たちに任せるので、綾乃には俺の考えを伝えてもらうメッセンジャーになってもらう。


 臭い牢屋に戻り、まずは俺が2人を殺す。そうすると、


『やっと50人殺したわね! 話の内容から、ウルちゃんを帰す方向みたいだけどいいの?』


 ……チビ神か。よくも変なゲームに巻き込みやがったな! こっちを巻き込まないように、どれだけ貢いだと思ってるんだよ! 役に立たないならもう貢がないし、送ったデータを全部消すぞ!


『ちょっと! それはダメ! もし消したら、発狂しちゃうじゃない!』


 そんなことは知らん! こういう時に役に立ってくれないのなら、貢物を渡す意味がないと思うぞ。しっかり仕事しろ!


『私だって、このゲームに参加させたくなかったけど、私が介入できる状態になったときには、既にあなたの参加が決まってたのよ。他のメンバーも決まってたから、出来る限りの対策として、あなたたちを同時にその世界に行くように調整したんだから、少しは労ってくれてもいいと思うんだけど?』


 この事態を回避できなかったのに、なんか偉そうだな……俺はともかく、ウルは何とかして参加させないようにしてくれても良かったんじゃないか?


『出来ることならしてたわよ。でも、決定されていたから、覆すことは出来なかったのよ。だからせめてもの抵抗として、あなたと同じタイミングになるように調整したのよ。今回の事は本当に悪かったと思っているわ。あなたを痛い目にあわせたいと思っている神が結託していて、どうにもならなかったのよ……』


 とりあえず、お前の言いたいことは分かった。この件については、俺が戻ってから改めて話し合うことにしよう。俺だけじゃなくて、妻たちの意見も取り入れるからな。それと、結託していた神たちの情報を集めておいてくれ。


『情報? そんなの集めて何に使うの?』


 嫌がらせをされたんだから、嫌がらせをし返すんだよ。


『どういうこと?』


 お前は考えなくていい。ウルを早く返したいから、ディストピアの家に戻してくれ。


『分かったわ。情報を集めるから、データは消さないでよ! お願いだからね! お笑いの定石の、押すなよじゃないからね!』


 それはフリなのか? そんなことはどうでもいいから、ウルを早く送り返してくれ。


『どうでもよくないわよ! ウルちゃんを送る準備をしているから、少し待ってなさい』



 声が聞こえなくなり5分ほどすると、サイレントアサシンを使ってウルたちの様子を見ていたバザールが、


「ウル殿が消えたでござる。消える前に天井を見上げていたから、声をかけられたのかもしれないでござるな」


 ライガもバザールも、50人目を殺すとチビ神から連絡があり、帰す人間の指定を聞かれたようだ。俺みたいに、会話をしたわけではないみたいだ。俺の関係者は、チビ神が対応するのかね? 一先ず、3人を送り返せてよかった。

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