第1952話 やっぱり無駄だった

 質問されたので答えたが、こいつらは何を企んで俺に質問をしてきているのだろう? 問答している間にも、質問してきている男以外の気配は動いており、俺を逃がさないように囲っている感じだな。


「お前は、この世界の事を知っているか?」


「憶測を含めているが、ある程度の事は分かっていると思う」


 回りくどい言い方だが、【憶測を含めている】この部分が今回のミソ。綾乃が手に入れた正確な情報を元に、【憶測を含めている】のだ。嘘は言っていない!


「……なら、知っていることを全部話せ」


「それはお断りする。苦労して手に入れた情報に考察を入れたんだ。ただで渡すバカがどこにいる」


 どうやらこいつも、この世界の情報を集めているようだな。そのことから推測すると、ダンジョンマスターだと思われる。俺を視認できる位置にいるので、あいつが勇者なら前の質問はおかしい。聞かなくても分かっている事を、あのタイミングで聞く必要はないと思う。


 地球から来た人間なら、情報も欲しいと思う。個人差はあるがある程度、神から情報を得られているのであれば、声をかけずに不意打ちで殺すのが正解だろう。50メートルで止まるように言ったのは、索敵スキルの範囲を把握している、ゲーム盤の人間だからだろう。


「立場が分かっていないようだな。主導権はこちらにある。お前の周りには「お前以外に2人が、俺の後方側にいるんだろ?」なっ、気付いていて会話に乗ったのか?」


「会話に乗ったというより、今まで遭遇すれば即戦闘になっていたから、警戒くらいはするさ。それでも落ち着いて会話をしていることから分かると思うけど、あまり過激な対応は控えていただきたい」


「……1人でいることを考えれば、それなりに実力はあるだろうが、お前も同じ立場なら分かるだろう。こちらは、お前と同格が3人もいるんだ、自分の命と情報を天秤にかけるつもりか?」


「俺と同格ね……それが本当なら、お前らは全員ダンジョンマスターで、ダンジョンバトルのランカーってことでいいのかな?」


 ランカーと聞くと、驚くような気配が感じられる。あいつらは、ランカーではないってことか。話し合いが出来そうかと思ったけど、情報を搾り取りたいだけか?


「ランカーだったとわね。だからといって、何があるわけでもない。ダンジョンマスター自体はそこまで強くないのが定石だ。それに対して俺たちは、ダンジョンを作って稼いでいるのではなく、戦闘を生業に生活をしている変わり種のダンジョンマスターだ。分かったら、情報を話してしまった方がいいぞ」


「情報を話したところで、命が保障されるわけではない。情報を搾り取られて、殺されるなんて未来もあるからな。もしこの対応で情報を盗めると思うなら、お前らのいた世界はぬるい世界だったんだな」


 こいつらは、自分たちが有利だということを強調して、無傷で情報を得たいのだろう。戦闘を生業にしていたといっても、事実なのかは分からない。そうだったとしても、この世界では怪我をすることで、命取りになる可能性が高いからな。


 戦闘を回避したい気配が、分かりやすすぎるだろ。お前たちが本当に強いなら3人で奇襲して、俺を捉えるのが正解だったのにな。索敵スキルに反応があるから、奇襲はむりだろうけどな。


「話し合いが通じるかと思ったが、お前たちは敵なんだな。こんな世界に送り込まれたことを、自分たちの遊び道具として送り込んだ神たちを恨むんだな」


「なっ!? 話の出来る奴だと思ったが、そうではなかったらしいな」


 おや、交渉を諦めたか? というか、交渉をしているつもりだったのだろうか? 俺の命を対価に交渉しているつもりだったのかな?


 どうでもいいか。もし今は殺すつもりは無くても俺の話を聞けば、俺を生かしておく理由がなくなる。むしろ、自分たちが狙われる側になると分かったら、問答無用で殺しに来るだろうな。


「最後の警告だ。痛めつけられて情報を吐くか、自分から情報を吐くか、今一度考えるといい」


「愚問だな。お前たちが俺の情報を得たら、俺の事を生かしておく理由がない。痛めつけられても、情報を持っているという事実が、俺の命をある程度保障してくれる。それも、お前らが俺に勝てればの話だけどな。お前たちに、ランカートップクラスのダンマスの実力を見せてやるよ」


「ちっ! 仕方がない!」


 なんとなく会話をしてみたが、やっぱりこの世界で知り合い以外と同行するのは困難だな。同行する気も無いけど、何か面白いことがあればと、会話に応じてしまったのが間違いだったかね?


 戦闘態勢になった敵の気配を前方に1つ、斜め後ろ後方に2つ感じで思案する。前を先に倒して後ろ2つを相手するのがベターかね?


 戦闘を生業にしていただけあって、強そうな気配をさせているが、斥候タイプの人間と合流できなかったのか、そもそも斥候が一緒に来ていないのか分からない。


 ダンジョンマスターなら、お互い魔法を使えない。同じ条件で巣の戦闘力を競う形だな。


 前の人間は、真正面から来るようだな。俺の前に姿を晒した。マジか! なんとなく強気な感じがしている理由が分かった。


 俺がこの世界に送り込まれた時と、天と地ほどの差がある装備を身に着けていた。


 この世界では初めて見る装備だな。間に合わせの装備で我慢している俺に謝れ! どう見ても、高位の魔物の素材を使った装備を身に着けているのだ。綾乃に素材を出してもらって、装備を強化しているとはいえ、そもそも加工が難しい魔物の素材は、今の施設では作るのが困難だからな……


 でも、俺にとっては朗報だ。俺の記憶が間違っていなければ、あの素材はAランク魔物の熊系だったはず。革鎧を覆っている毛が、人間の髪の毛以上に頑丈で、切り裂くのが困難な装備だったはず。


 元の世界の装備な問題ないけど、今持っている武器で切り裂くのは無理だな。あのタイプの魔物を討伐するときは、刺すタイプの武器で戦うのがセオリーなんだよな。


 色々気にして攻撃する必要はなさそうだな。当たり所が悪ければ、骨折で済むだろう。


 相手が何かを言おうとした瞬間、俺は全力で接近する。

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