第1951話 話し合いが通じるか?

 俺に近付いてきていた、もう1人の敵は……いつの間にかいなくなっていた。


「失敗したかな? こっちの気配をうかがっていた敵が1人、いなくなってたわ」


 目的の2人を殺せたので、後2人だな。これから遭遇した奴は捕らえる方向だから、無効化を優先するから1人くらい大丈夫だろう。一応、偵察をしていた奴のいた方向に進んでみるか。斥候なら逃げた先に仲間がいる可能性があるしな。


 敵の気配を感じた場所に戻り、痕跡を探すことにした。


「確かこのあたりだったと思うんだけどな……あったあった。ちょっと不自然に見える。完全に痕跡を消せる人間なんてまずいねえからな。バザールの操る影を移動する魔物くらいしかできんだろうな。この痕跡から……俺たちを追ってきてたんだな」


 痕跡をたどっていくと、戦闘が見える位置ではない所で、折り返して逃走しているようだ。


「俺の戦闘を見る前に離脱したのか。移動の速度や気配をむき出しにしていることを考えて、俺の戦闘力を考えて逃げたのかね? 戦闘を見ていたなら、終わった後に気付けたよな……ん~、俺たちを追跡している時より、丁寧に痕跡を消しているか残さないようにいどうしているのかな」


 地面を移動している以上、どこかに痕跡があるはずだな。俺みたいに木の上を移動していても、木の枝にだって多少の痕跡は残るから、専門家の様な人間なら追跡が可能だ。


 痕跡は~こっちかな。


 折り返したというよりは、コースを変えて逃げているな。偽装ではなさそうなので、辿っていく。


 しばらく進むと、地面から痕跡が消えた。どうやら、木を登って地面に痕跡を残さないように移動したみたいだな。


 登ってみたが、俺には専門家の様な知識は無いので、追跡は諦めることにした。まさか、俺の言った事がフラグにでもなったんじゃないよな?


「逃げられたでござるな。もっと探すでござるか?」


「いや、無駄に時間を潰すくらいなら、気配を大きくして森の中を探してみるよ。昨日みたいにあぶりだされる奴は少ないだろうけど、慌てて逃げる奴ならいるかもしれないしな。そう言う奴は追いかけやすいから、そうなってくれた方が楽でいいな」


 また森の中を縦横無尽に走り回る。


 お昼の2時間走り回り、収穫は2人。昨日の数を考えれば、減っているな。まだ補充されいないのか、昨日の騒ぎで逃げ出したか……前者の方が正解な気がするな。


 バザールに連れ帰ってもらって分で、俺の1回目のノルマは達成できるから、後はバザールやライガのためにせっせと稼ぎますかね。


 今日の昼ごはんは、昨日から準備していたウルが、朝食と一緒に作ってくれたサンドイッチだ。コッテリした照り焼きやカツサンドもあるし、さっぱりとしたハムレタス、たまごサンドなど色々準備してくれていた。


 ライガの分も準備していたが、あいつの場合はお腹いっぱいになる量を持たせると、大変なことになるので、俺と同じ量だけ持たせて出発させている。足りない分は自分で作り出してもらう。


 食事中も気配を大きくしていたのだが、引っかかる人間はいなかった。人が少ないだけなのかね? ここまで無防備に見えると、反対に警戒を強めてしまうかもしれないか?


 気持ち気配を抑えて、素人が頑張っている程度の感じにしてみた。俺が勝手に思っているだけなので、周りから見て本当にそう見えるかは謎である。


 先ほどよりは気にするが、思いっきり痕跡を残すように移動している。素人臭すぎかね?


 30分ほど進むと、違和感を感じる。気配がつかめていないので、敵は俺の範囲より遠くから、何かしらの方法でこちらを補足している可能性が高いな。


 千里眼に近いタイプのスキルかね?


 ここであからさまにこの違和感に気付くと、このターゲットが逃げる可能性があるので、隠れているつもりになりながら進んでいこう。後ろからではなく前に違和感があるので、多分そっち側に何かがいるのだろう。


 もう30分ほど進むと……ビンゴ!


 どうやら、グループのようだな。気配が感じられるのは3人、違和感も続いているので、俺を狙っている敵が4人はいると思う。仲間が全員出てきているとは思えないが、即戦闘になるだろうか?


 内心緊張しながら進んでいくと、索敵スキルに反応があるくらいに接近する。そうすると、


「止まれ! 下手な動きを見せたら、矢で射貫くぞ!」


 そう警告された。この世界に、索敵スキルを欺くような装備を持ち込めているとは思えない。一番近い奴が40メートルほど。そいつが俺のことを狙っていたとして、銃弾でもあるまい、かわすことくらいは余裕だろう。


 一応、相手の言うとおりに止まることにした。警戒態勢は解かずに、敵の動きに注視する。


「お前は何処から来た?」


「あっちに見えている、山の南側だ」


「この世界での話じゃない」


「あ~、そう言うことか。俺は、チビ神にダンジョンマスターとして、有無を言わさずに送り出された、哀れな羊だよ。その世界でせっかく落ち着けたのに、今度は意味の分からない世界に飛ばされて、うんざりしているところだ」


「召喚された人間か……お前に仲間はいるか?」


「元の世界には、たくさんいるけど、この世界には仲間はいないな」


 嘘を言っているように聞こえるが、実は1つも嘘を言っていないのがミソである。何かしらの方法で、嘘を見抜ける奴がいたら困るので、本当の事しか言っていない。


 この世界に仲間はいない……バザールたちは? と思うが、バザールは隷属させているので、仲間というよりは便利屋だな。綾乃とは事実はともかく勇者とダンジョンマスターなので、敵対関係。ライガは、仲間ではなく部下の部下。ロジーは居候。ウルは娘。


 抜け道ともいえないが、嘘は言っていない。俺の仲間と言われてパッと思いつくのは……妻たちかな? でも、妻なので仲間というのも変だな。対等な関係という意味で仲間を捉えると、俺には仲間がいなくなるのでは!?


 問答中に俺は、嫌な事実に気付いてしまった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る