第1948話 区切りが見えた!

 結構な速度で移動しているな。それなのに気配が薄く、通った後の痕跡が分かりづらいのは、逃げている人間の能力なのだろう。斥候タイプの人間かな? 視界に入っていないし距離も離れていたので、地球の人間か神たちの駒なのかは分からない。


 神経が研ぎ澄まされている俺からすれば、追跡するのには問題ない。普通なら見失ってもおかしくないだろう隠形の技術、見習いたいところではあるが、俺が隠形を使う機会なんてないだろうけどな。


 逃げている奴は、痕跡をできる限り隠すように動く必要があるが、俺にはそんな必要は無いのでかまわずに追跡できる。音や気配は出来るだけ消す必要があるが、逃走しているやつよりは気を使わなくていいのは楽でいい。


 5キロメートルくらい移動しただろうか? 時間にして20分もかかっていないが、山でジャングルの中を移動している人間にしては、かなりのハイペースだな。斥候の技術が高いだけなのか、斥候の技術も高いのか……どっちだろうか?


 俺の戦闘する姿を見て、実力差を感じて逃げ出したと思うから、戦闘能力は俺たちと比べれば高くないと思いたい。


 願望ばかりだな。


 止まったみたいだけど、休むのか? 地面の近くだと、草やツタ、細い木が邪魔して観察しにくいんだよな。強襲をかけるわけではないので、木の上から観察しますかね。


 100メートルも離れていると、ツタや木が折り重なって見えないな。もう少し近付くか……


 気配のする位置から極力見つかりにくい場所を選び、慎重に枝を飛び移る。50メートルほどまで近付くと、索敵スキルに反応がある。


 4つ……


 俺が潰し損ねたグループか? ここ2日、近くを移動していたと思うけど、行き帰りだけだったから気付けなかったのかもな。


 おや? 索敵スキルに反応はあるのだが、見えない。ツタとかに隠れているわけじゃなさそうだ。少し近付くと、原因が判明する。気配が地面の下にあるのだ。


 俺たちと同じように、地下に拠点を作っているのだろう。このせいで気付けなかったのかもな。


 拠点の中がどうなっているか分からないのに、突入するわけにはいかないな……


「バザール、中を見てこれるか?」


「どういうことでござるか?」


「気配が、ちょうどあの辺の地下からするんだけど、入り口が近くにあるから、見てきてくれないか?」


「そう言うことでござるか。ちょっと見てくるでござるから、少し待っているでござる」


 1分もしないうちに帰ってきた。何か問題でもあったのか?


「見てきたでござるよ。問題なんて無いでござる。サイレントアサシンの気配が分かるのは、勇者かギリースーツの奴くらいでござるよ。あの中は、四畳半くらいの狭い空間に4人いたでござる」


 勇者はいないのか。じゃぁ、ダンジョンマスターか地球からの人間のどっちかか。


「突入するのは……無謀かな?」


「時間をかけたくないのでござるなら、突入するしかないでござるよ」


「ちょっと考えるわ」


 突入の仕方を考える必要があるな。手持ちの道具は、麻痺毒付きのナイフと刀、バックパックの中に……おっ! 火をつける道具があるな。煙の出る生木を燃やせば……って、駄目だな。生木を燃やすだけの火力を準備できないわ。


 なんだこれ? バックパックに入れた覚えのないビンが入ってる。


「バザール、これ何か知ってるか?」


「……何でござるかね? 薬液っぽいから、綾乃殿ではござらんかね? ちょっと聞いてみるでござる」


 バザールが確認してくれるようだ。薬品だとすれば、この状況を簡単に打破できるかもな。


「分かったでござる。緑色の蓋の方が、睡眠薬でござる。黄色い蓋の方が、睡眠薬の中和剤みたいでござる。黄色い方を服用してから、緑色の方を撒けばみんな寝るみたいでござる」


 うん、解決した。そして、もう1つビンが入っているのに今気付いたわ。


 バザールに撒いてきてもらい、俺は中和剤を服用する。


「バザール、もし俺が寝たら、拠点に連れ帰ってくれ」


 了解してもらい、敵の拠点の中に入っていく。なんかクラッとするが、すぐに戻る。何度か不思議な感覚を繰り返した。これって中和剤じゃなくて、強制的に覚醒させるような薬なんじゃないか?


 4人ともしっかり寝ているな。心臓に刀を突きさして、息の根を止める。


 さて、次だ。


 微妙にコースはズレたけど、問題ないだろう。少し迂回して、他に人がいないか探してみよう。拠点を見る限りでは、もう1人か2人いるっぽいんだよね。もしかしたら、遭遇できるかもしれない。


 期待して移動したが、山のジャングルを抜けるまでに発見できなかった。


 昨日もここまで来たけど、余り探索できずに帰ってしまったんだよな。日帰りと考えると、限界があるからな。ウルをディストピアに帰えすまでは、夜には戻らないと心配だなんだよな。


 時間がもったいないから、敵からきてもらいたいところだな……ちょうど良さそうな枯れ木を拾い、火をつけて放置する。煙に気付き、誰かが動くことを期待しての焚き火だ。


 今までは慎重に移動していたが、今からは全力で音を立てながら移動をしよう。気配も隠さずに、駄々洩れで移動する。こうなれば、今まで以上に早く移動できる!


 10分も移動すると、慌てて逃げるような気配を捕らえた。


 すぐに追いついた。


「た、助けて! 殺さないでくれ!」


「一言目に殺さないでって言うことは、お前も殺しているんだろ。まぁ殺してなくても、お前の結末は変わらないけどな」


 命乞いを無視して、首を飛ばした。


 確実に死んだので残心もせず移動を開始する。


 今考えると、ギリースーツの奴って本当にヤバいやつだったな。逃げずに不意打ちからの直撃。ライガの攻撃も普通に対応してたしな……


 この後、山を越えた先の森で大暴れした。


 気配に気付き、興味本位で遠巻きにこちらを覗くやつが多かったので、今日の収穫はウハウハだった。でもその収穫したものが人の命と考えると、ウハウハとはいえないな。


 今日中にと思っていたが、さすがに無理だったか。カウントが間違ってなければ後4人で、50人に到達するはずだ。ウル、明日には帰してやるからな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る