第1947話 数を稼ぐ

 7日目は、昨日と同じように行動を開始する。遭遇する数は減ったが、1桁後半を排除することができた。


「昨日よりショボいでござるな。倒されてすぐではなく、ある程度まとめて呼び出されていると思うでござるから、この数が普通なのかもしれないでござるね」


「昨日は、まとまって行動している人間がいたから、数が減っても仕方がないんじゃないか?」


「そうですね。複数人で集まっていると奇襲するのが面倒なので、数は少なくなりますが1人でいてくれた方が、楽でいいですね」


 ライガの意見に思わず首を縦に振ってしまう。


 倒すのが楽になったのは、相手がこの世界の事を分かっていないのも影響しているが、1人でいるから周りに気を配る必要がないのが一番影響していると思う。


 色々気になることはあるのだが、今一番心配なのがウルなんだよな。俺たちが養子にするまで、かなりの扱いを受けていたが、養子になってからは年相応とは言い難いが、ミーシャたちと仲良く育ってくれていたのだ。


 フラッシュバックしているわけではないが、心細いのか寝る時は俺にしがみついていないと寝れないのだ。年を考えれば、一緒に寝たいというのは普通なのだと思うが、ディストピアにいる時のことを考えると、心配になってしまう。


 お姉ちゃんとして、気を張りすぎていたのかな? 綾乃と一緒に送り返す時に、様子次第ではシルクちゃんに記憶封印の措置を取ってもらう必要があるかもな。そこまで弱い子ではないが、しがみついて寝ることを考えると、心配になってしまうのだ。


 帰す前に綾乃に、妻たちへ伝言を頼もう。


 できる限り、ウルに負担をかけたくないので、明日は全力で移動することにした。とにかく広い範囲を索敵して、ウルたち3人のために明日帰す勢いで狩りつくしてやる。


 今日はお風呂も一緒に入りたいようで、お願いされたので一緒に入ることにした。綾乃も心配して俺に声をかけてきたので、後で帰る前に話があると伝えておく。


 昨日はそうでもなかったが、今日は今まで以上に甘えたがるな。ウルの心の状態がとても気になる……


 ディストピアにいれば、デレデレとだらしない顔をして、妻たちに大ヒンシュクを受けることになっただろう。でも、この状況じゃ喜べないな。満足するまで甘えさせて寝るのを待った。服をギュッとつかみ、放すつもりは無いと言わんばかりの仕草だな。



 朝まで起きることなく、同じ体勢で寝ていたようだな。体がバキバキだ。ウルはにへらと笑って、枕にしている俺の腕に顔を擦り付けている。ミーシャたちといる時とは大違いだな。


 早くディストピアに帰してやるからな……


 頭を撫でていると、目を覚ました。


「お父さん、おはよう。ご飯の準備しないと!」


 まだ早いからゆっくりしていても問題ないと、ウルの行動を止める。どうも昨日の俺たちの行動で、自分だけがゆっくり寝ていたのに悩んでいたらしい。子どもなんだから、そんなこと気にしなくてもいいのに……


 できることをしなければならないと、責任感を持つのはいいけど、今は素直に甘えてほしいことを伝える。昼間は一緒にいてあげられないから、一緒にいる時くらいはのんびりしてほしかった。


 ウルがこんなに悩んでいるのに、ロジーは全く関係ないと言わんばかりに、食っちゃ寝を繰り返しているぞ。あの妖精はもう少し、自分にできることをしてほしいところだ。魔法が使えるんだからさ!


 今日の予定をウルに伝えてから、夜に食べたい料理をリクエストしておいた。これで、少しは気が紛れてくれるといいな。


「バザール、今日はペースを上げるから、そっちも数を稼いでくれ。後半分程だけど、今日終わらせるつもりで頑張るぞ」


 ライガもバザールも、ウルの様子がいつもと違うことに気付いており、俺と同じように気合を入れてくれた。昨日が気合が入っていないわけではないが、心配なので早くディストピアに帰してあげたいのだ。


 散開する際のライガの勢いがヤバかった。俺も気合を入れて移動を開始したのに、それ以上の速度で昨日と同じコースを走っていったのだ。バザールの操るサイレントアサシンから苦笑が漏れていた。


 山の中を移動していると、昨日は無かった煙が見える。木の隙間からだったので、気付くのが遅れてしまったな。明るくなって煙を出すのは、命とりだけど何を考えているのやら。


 距離にして1キロメートルを慎重に進み、3分かからずに到着する。


 おや? 俺より先に煙に気付いて、ここに来た奴がいるな。火を焚いていたのがダンジョンマスターで、襲ったのが鑑定で分からないから、地球から来た人間だろう。


 ダンジョンマスターは、両手両足を縛られ動けないようにされている。何やら尋問をしているようだが、声は聞き取れなかった。


 そう言えば、俺たちは条件を満たせば帰れることが分かったが、この世界で死んだ場合はどうなるんだ? 地球の人間は複製体らしいから帰る必要は無いけど、俺たちは生身の肉体ってことだよな。ここでの死は、本当の死なのかね?


 ふと、そんなことを考えてしまったが、だからといって殺さないという選択肢は無いので、考えることを止めた。


 今回は相手の警戒度が高いので、思ったより距離が詰められないんだよな……木の上なんて見つかりやすいので、さすがに下りるべきかな。少し離れてから木から下り、2人に再度近付く。


 あ~、ここにきて第三の気配がする。こいつも俺と同じように、煙につられて確認しにきたのかね。獲物を取られるのは勘弁してもらいたい。多少強引にでも、殺しておくか。尋問しているやつをなんとかできれば、もう片方は縛られてるからな。


 およそ30メートルの距離。投げナイフを3本取り出し、2本を立て続けに投げる。投げ終わると同時に、俺も突撃する。


 ナイフの気配に気付いた敵が、飛ぶように大きく距離を取った。着地先に向かって、準備しておいた最後の投げナイフを投擲する。


 敵が腰から抜いたナイフで、俺の投げナイフを弾いた。


 さすがにやられるほど、甘い相手ではないか。でも、動きが少し止まったな。距離をさらに詰め、腰から下げていた刀で抜刀術を使い、一太刀で切り伏せる。


 最速の技ともいわれる抜刀術を、ナイフで防ごうとして軌道上に置き、左手で押し込まれないように押さえていたナイフごと切り裂いた。


 武器の性能の差だな。


 助かったと思ったのか、ダンジョンマスターが助けてほしいとお願いしてきたが、心臓に刀を突きさし止めを刺す。


 こちらの様子を見ていた第三の人間は、力量差を感じたのかこの場から遠ざかっているな……ちょうど進行方向だし、確認しておくか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る