第1275話 1つ目の大陸

 情報解析を綾乃に任せたが、普通に考えて新しい情報も無い上にオーパーツとも呼んでいい勇者召喚の間について新たな発見があるわけもなく、もっぱらバザールとバッハの移動方向を計算している。


 リバイアサンに関しては、大陸がある場所を認知しているので、方向や距離の問題は発生していない。


 そして先に別大陸に着いたのは、バッハに乗ったバザール達アンデッド軍団だ。大陸に到着したバザールは、1年ほど前にネタで作った【強襲型広域掌握】を使って大陸全土を掌握した。


 【強襲型広域掌握】とは、知らない土地の情報を得たいが、掌握DPを最小限に抑えて強襲土地の情報を得るために作った掌握技術だ。使う必要も使う機会も無いと思っていたが、まさかネタで作ったこの技術が使われる事になるとはな。


 【強襲型広域掌握】は、掌握エリアを1ミリメートル程の掌握エリアの線を30センチメートル四方の空白ができるように格子状に張り巡らせて掌握する方法だ。これにより空白は多いが、探したい物を見つけるためにはちょうどいいのだ。


 そして、これの実験結果で分かった事だが、掌握エリアに入っている体積分だけのDPしか吸収できないということだ。体半分しか入っていなかったら、本来吸収できるDPの半分しか得られない。


 だが、調べるだけならいちいちDP回収効率等を考える必要が無かったのだ。30センチメートル四方に収まらない人間など、偶然でもなければいないからだ。


 DPの回収を目指すなら、格子状に張り巡らせた後に人が多い場所、街の位置を把握してから掌握すればいいのだ。


『全域掌握完了でござる。綾乃殿、データ共有お願いするでござる。某は一番近くにあると思われる街へ潜入調査を行うでござる』


 魔導無線機からバザールの報告が聞こえて来た。


 ただ、いきなりアンデッドで出現すれば住人は混乱必死なので、擬態と言うか、生身に変身できるバザールが新大陸の街に乗り込み現地の生の情報を入手する方向なのだ。


『報告するわ。バザールの掌握した大陸には、今の所ミリーさんたちは発見できてないわ。色々見た所、特に戦闘が行われていそうな地域も確認できてないわ。所属国毎に色を変えて検索した結果、多くの国の人が交わっている場所はあるけど、一般人も多いみたいだから、国家の間にある貿易都市みたいな印象ね』


 妻たちは発見できなかったか……俺も同じようにダンマスのスキルを使って色々方向性を変えて調べているが、綾乃と同じ調査結果だった。


 で、少なくともこの大陸で稼働しているダンジョンは、525個だ。俺たちの大陸で稼働しているダンジョンが315程なので、かなり多く感じる。まぁ、ダンジョンマスターが525人いるわけでは無いので、ダンジョンマスターが多いか少ないかは別の話だけどな。


 1人のダンジョンマスターが複数のダンジョンを作る事は普通である。俺のように1つしかダンジョンを作っていないのはまれな事なのだ。


 いや、1つのダンジョンという表現は正しくはないのかもしれない。ダンジョン自体は複数あるけど、コアが1つしかないので、すべてのダンジョンが繋がっているため認識上はダンジョンが1つしかないという事になるのだ。


 俺達の大陸には、俺以外のダンジョンマスターが作ったダンジョンが後314個存在しているという事だ。まぁ、ダンジョンマスター自体が全員生きているかは不明だけどな。38人まではダンジョンマスターの存在を確認しているので、思ったより外に出てきている奴が多いのかもしれないと思う。


 ダンジョンマスターの確認には、ダンジョンのちかくにある街へ、綾乃の勇者の称号の効果を得ている人間を派遣して、それらしい存在を感じ取れた数なので、実際にはもっとたくさんのダンジョンマスターが生きているはずだ。


 俺は、移動にまだ時間がかかるので、バザールが掌握した大陸の微調整をする事にした。せっかくDP回収ができるようになったので、人の多いエリア、街と思う場所をドンドン掌握していく。ついでに街道と思われる場所もサクサクと掌握掌握っと。


 この大陸には、勇者がほとんどいないようだ。俺たちの大陸では178人の勇者がいるが、おそらく一定の範囲から出ていないので、魔物退治や盗賊退治をしているのではないかと思う。複数勇者がいる国もあれば、いない国もあるので治安は国によって天地の差があるのが俺たちの大陸だ。


 チビ神の話では多くが日本人の若者なので、英雄的存在として召喚されたなら、弱い人を放っておけない正義感の強い若者が多いのだろう。


 若者といったが俺たちの大陸の勇者は、ボリュームゾーンが10~20代ではあるが、60歳を超えている人もいるのだ。召喚されて長い時間が経っているのだと思う。使い倒されて、邪魔だから処刑という話も聞いた事があるが、そうでない人もいるようだ。


 中には、勇者が建国した国も多いって話だしな。


 正直、会った事がある勇者が屑ばっかりだったから、あまり関わりたくないと思って情報を集めていたのだ。そして、カザマ商会の人間が仕入れてくれた情報では、俺が出会って来たような屑勇者もおおいが、国を作って国民を守って来た勇者も多いのだとか。


 勇者が建国した国がずっと存続をしているわけでは無いので、正確な数字は分からないがそれでもかなりの数の国が興されたとの情報だ。勇者やその子供、孫位までは良かったが、その後国の腐敗が進み国が無くなったという話は多い。


 永遠に続く国民の生活がしやすい国は、理想の中にしかないのだろう。まぁ、俺みたいな寿命の亡くなったイレギュラーでもいない限りは……


 国民すべてが過ごしやすい国が存在するかは別として、国として長期間存在する事は地球でも難しい。地球で最も長く同じ国であり続けた国は、日本である。


 紀元前660年に神武天皇が国を作り、王朝が一度も滅びることなく続いているのが日本だ。世界最古の国と呼ばれている日本は、一度も国の名前を変える事なく約2700年近く続いている。


 他の国は、歴史はあっても国の名前が変わっている事が多い。顕著なのは中国だろう。部族が多く、統一した部族の名前が国の名前になっていたため、一番名前が変わった国なのではないかと思う。あの国は分裂して2~3国の名前があった時期も多いしな。国の大きさから考えれば、当たり前か。


 何が言いたいかというと、変わらずに国があり続けるのは難しいという事だ。日本が日本であっても、約2700年間ずっと同じ統治体系だったかと言えば、そうでは無いのだ。


 名前が変わらなかった事はすごいかもしれないが、戦争があり勝ったり負けたりして他国の政治的介入もあり、色々問題は多い。


 今現在でも戦争が多いこの世界では、国など簡単に変わってしまう。新しく出来ては滅び、滅びては新しくできる。


 俺が戦争に介入した……何て名前だったか忘れたが、俺たちを使い潰して国土を護り聖国に攻めようとした屑共の国だが、あの国はなくなったそうだ。近隣の国に地域ごとに吸収されたとかなんとか。


 そして、生き残りと名乗っている奴らが、1つの街に立てこもり新生なんちゃらとかいう国を興して、不当に奪った土地を返せ! 何て言っているらしいぞ。住人はほとんど聖国に連れていかれたのにな。


 俺がこの世界に来て知っている範囲でも1つの国が無くなっているしな。国など簡単に変わってしまうのだ。


 話が逸れたな。この大陸の人口は、俺たちの大陸より多いが吸収できるDPは少なかった。平均レベルが低いため、吸収できるDPが少ないようだ。平和って言う事なのかな?


 平均が低いだけであって、突出した戦力がいないわけでは無い。300超えの奴もそれなりにいるな。

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